風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

中東一触即発

2020-01-10 22:18:06 | 時事放談
 国際社会の緊張状態としては「今世紀で最も高いレベルにある」とグテレス国連事務総長が危機感を表明していた、イランとアメリカの間の報復合戦は、お互いに戦争へのエスカレーションは望まないことが確認され、最悪の事態は回避された模様だ。正式な外交ルートがなく、現地のスイス大使館を介したやりとりの上、相手が予測不能なトランプ大統領とあっては、間違いなきよう、普段ならあり得ないほどの(!?)明確な意思表示が行われ、アメリカはイランの顔を立ててイランによる(実質的には国内保守強硬派を納得させるためとも言うべき)攻撃を許し、イランは一人のアメリカ人の犠牲者も出さない配慮を見せて、それに応えた。
 以下は後日談として。
 アメリカは当然のことながらイラン革命防衛隊とソレイマニ司令官の両方ともテロリストに指定しているのに対し、イランもまた米軍を国家テロに指定したのには、思わず苦笑いしてしまった。どちらにも正義があるのが国際社会というもので、どっちもどっちだという議論は分からなくはないが、アメリカのストーリーを聞く限りアメリカ贔屓になってしまう。これに対し、EUや主要国、さらに中・露が(いずれの側を支持するかは別にして)すぐさま双方に自制を求める声明を出したことには感心した。中・露はアメリカを責め、欧州はイランを責めたのに対し、日本(安倍さん)は立場上どちらも責め(られ)なかったのが印象的だった。日本の市民団体は、「アメリカとイランは軍事行動やめろ」「アメリカはイランを武力攻撃するな」「戦争絶対反対」「自衛隊送るな」と抗議行動を行ったのはいつものこととは言え、野党が「今の状態で海上自衛隊を現地に派遣すべきではない。閣議決定そのものを白紙に戻す、撤回することの方が正しいのではないか」と主張したのは、国内の論理としては分からないではないが、国際的にはなかなか理解を得られないのではなかろうか。これでは野党は、日本の船舶ひいては日本の国益を守るのではなく、憲法を守ることを優先しているように見えてしまう。
 また、イランと北朝鮮は、核問題でアメリカと駆け引きをしているという意味で、連動している(もっとも双方に核開発段階の違いはあるが)。かつて金王朝三代目のお父ちゃん(二代目・正日氏)は、アメリカがアフガニスタンやイラクを攻撃したとき、1~2ヶ月もの間、身の危険を感じて公開活動を控え雲隠れしたらしいが、三代目は超大国アメリカと堂々と交渉するだけあって肝が据わっている(ように見せたがる)。北朝鮮中部の肥料工場の建設現場を視察し、高笑いし、「いかに情勢が厳しく、難関が立ちはだかろうと、理想は必ずわれわれの手で実現する」と豪語したそうだ。なんとも健気な演出である。
 最後に、史上かつ世界で最強のアメリカ軍を率いているとは言え、あらためてトランプ大統領の予測不可能性には恐れ入った。お正月気分に浸っていた私を含め、世界中が中東での一触即発に身構えたことだろう。そもそも一介の不動産セールスマンは、戦争を理解しないし、好まないし、できないだろうと言われてきたが、ものの見事に覆し、これまでのところは今秋の大統領選に向けて得点を稼いだのだ。しかも半年前から直前までの事態の流れをあらためて振り返れば、自衛権の発動として国際法上もぎりぎり正当化し得るような状況を確保していそうに見える。いずれにしても、イラン革命防衛隊の精鋭コッズ部隊を率い、イランの対外工作を統括してきたソレイマニ司令官については、歴代大統領もマークしながら手を拱いて来たとされるのに、トランプ大統領は、関係者が提示したオプションの内、最も過激だった殺害オプションをいとも簡単に承認し、やってのけさせた。このあたり、伝統的な外交・安全保障を破天荒に打ち破るという意味で、北朝鮮・金正恩委員長とのトップ会談をあっさり受け入れ、ラブラブの関係を演出しつつ、掌の上で転がし続けているのに似ている。こうしてハラハラ・ドキドキのトランプ劇場に、今年も翻弄されるのであろうか。
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