前々回のブログで言い足りなかったことがある。そもそも今の中国の実力はどうなのか・・・分かり難い国だ。中国共産党のトップ7人(所謂チャイナセブン)以外には、あの14億の人口を抱えて世界第二の経済を誇る大国の実態は分からないのだろう。いや彼らですら、もしかしたら地方の実態まで理解し切れていないかも知れない(強権政治に忖度はつきものだから)。そして世界中が寄ってたかってその実相を掴もうと躍起になる・・・。
もう10日以上前のことになるが、日経に掲載された高坂哲郎さん署名記事「『弱ぶる米国』と『強がる中国』 非対称な軍事対立」が面白かった(*)。冒頭、「米国などで中国の軍事的膨張ぶりを危惧する指摘が相次ぐ一方、専門家からは『台湾を侵攻するといった能力は中国軍にはまだない』といった分析もされている」とある。本当にどっちなんだよなあ・・・と思ってしまう(笑)。第一の非対称として、米国は民主主義国であり、中国のように恣意的に国防予算を決めるわけには行かないから、議会に認めてもらうために、実態はともかくとして「米国は劣勢に立っている」と訴えることが効果的だとは、以前から言われて来た(最近、中国の極超音速滑空体の実験があったのに対して、米軍幹部が「第二のスプートニク」と呼んで大袈裟に反応して見せたのもその一つで、白々しい気がしないでもない)のに対し、一党独裁の中国では、プロセスより、威信を示すことが中国共産党の統治の正統性を示す上で重要であり、実態以上に軍事的に強いふりをしたがる傾向があるというのも、言われてみれば納得する。そんな政治体制の違いから、第二の非対称として、米軍には「隠し玉の兵器」を実戦まで表に出さない癖のようなものがあるのに対し、中国軍には、まだ完成前の兵器をあたかも完成したかのように見せかける傾向が認められる、と指摘されるのにも合点する。中国にとって先ほどの極超音速滑空体はそうかも知れない。逆に、最近、中国・新彊の砂漠に米軍の空母を模したような構造物が鉄道線路の上に配置されている様子が衛星写真から判明したという報道があって(BBCなど)、対艦弾道ミサイルの実験ではないかと憶測され、なんだ、まだそういうことをやっているのかとびっくりした。そもそも大海原に空母打撃群を発見するセンサーを装備することすらハードルが高いと言われるので、こうした記事を見ると、先はまだ長い気がしてしまう。何だか狐と狸の化かし合いのようだが、高坂さんは、「2つの非対称さを合わせて考えると、米軍は言われているほど弱くなく、逆に中国軍は装っているほど強くない、とみるのが妥当と言える」と結論づけられる。
さらに第3の非対称として、「戦争になってしまった場合の影響の及び方」を挙げておられる。仮に中国軍が台湾を侵攻し占領に成功すれば、米国では責任論が生じて政権交代に至るにしても、大統領制と議会を軸にした民主主義体制が変わることは考えられないのに対し、もし中国が戦争目的の達成に失敗すれば、既に顕在化しているさまざまな社会の矛盾と相俟って民心が離れ、共産党政権の崩壊に至りかねない、という。こうして、「米中軍事対立がさまざまな非対称さでかたちづくられていることを考えると、対立が衝突に至るか否かはかなりの部分、中国共産党政権が内在する『弱さ』をどこまで自覚して軽々と台湾侵攻などに踏み切らないよう自制できるかどうかにかかっていることがわかる」と言われる。
かつて2008年夏季の北京五輪を成功させ、翌年のリーマンショックでは巨額の財政出動により欧米を金融危機から救ったと自負し、その翌年、日本を超えて世界第二の経済大国に躍り出た中国は、以後、成長と言うより増長が著しく、国際社会における存在感と影響力を高めて来た。此度のパンデミックでは、当初、強権的な対応がうまく行ったのは事実で、それに引き換え、アメリカをはじめとする先進国のぐだぐだぶりを見て、さぞ自らの体制への自信を深めたことだろう。その間、太平洋を二分割するという大胆な覇権主義的な提案を、2013年6月にオバマ大統領(当時)に、2017年11月にトランプ大統領(当時)との共同記者発表で、表明し、先月の米中首脳のオンライン会談では、一部の地方紙しか伝えていないようだが(大手紙では見かけないが)、「太平洋二分割」案を「地球二分割」案に格上げ(!?)して、「地球全体にまで野心を拡大させた」(神戸新聞)ようだ。しかし国内に目を向ければ、最近の経済への締め付けや相変わらずの監視体制強化は、自らの脆弱性を覆い隠そうとする恐怖心から突き動かされているように思えて仕方がない。
英国・秘密情報部(MI6)のムーア長官は、先月末に行った長官として初の演説で、「中国政府は、西側諸国のもろさに関する自らのプロパガンダを信じ、米国政府の決意を過小評価している」 「中国が自信過剰のあまり誤算をするリスクがあるのは、紛れもない事実だ」と述べたらしい(ロイターなど)。歴史的に、紛争は往々にして誤算や誤認によって惹き起こされる。バイデン大統領が習近平国家主席とオンライン会談に臨んだのは、二国間の競争関係を責任あるかたちで管理することを目的に、各課題に対する相互の認識を確認し合い、「競争が衝突に転じることがないよう、常識的なガードレールが必要との認識を伝えた」(JETROビジネス短信)とのことだが、危なっかしい状況だと、私が心配するまでもなく、当のバイデン大統領は気を揉んでいることだろう。強がる中国は何とも厄介だ。
(*) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM231HJ0T21C21A1000000/
もう10日以上前のことになるが、日経に掲載された高坂哲郎さん署名記事「『弱ぶる米国』と『強がる中国』 非対称な軍事対立」が面白かった(*)。冒頭、「米国などで中国の軍事的膨張ぶりを危惧する指摘が相次ぐ一方、専門家からは『台湾を侵攻するといった能力は中国軍にはまだない』といった分析もされている」とある。本当にどっちなんだよなあ・・・と思ってしまう(笑)。第一の非対称として、米国は民主主義国であり、中国のように恣意的に国防予算を決めるわけには行かないから、議会に認めてもらうために、実態はともかくとして「米国は劣勢に立っている」と訴えることが効果的だとは、以前から言われて来た(最近、中国の極超音速滑空体の実験があったのに対して、米軍幹部が「第二のスプートニク」と呼んで大袈裟に反応して見せたのもその一つで、白々しい気がしないでもない)のに対し、一党独裁の中国では、プロセスより、威信を示すことが中国共産党の統治の正統性を示す上で重要であり、実態以上に軍事的に強いふりをしたがる傾向があるというのも、言われてみれば納得する。そんな政治体制の違いから、第二の非対称として、米軍には「隠し玉の兵器」を実戦まで表に出さない癖のようなものがあるのに対し、中国軍には、まだ完成前の兵器をあたかも完成したかのように見せかける傾向が認められる、と指摘されるのにも合点する。中国にとって先ほどの極超音速滑空体はそうかも知れない。逆に、最近、中国・新彊の砂漠に米軍の空母を模したような構造物が鉄道線路の上に配置されている様子が衛星写真から判明したという報道があって(BBCなど)、対艦弾道ミサイルの実験ではないかと憶測され、なんだ、まだそういうことをやっているのかとびっくりした。そもそも大海原に空母打撃群を発見するセンサーを装備することすらハードルが高いと言われるので、こうした記事を見ると、先はまだ長い気がしてしまう。何だか狐と狸の化かし合いのようだが、高坂さんは、「2つの非対称さを合わせて考えると、米軍は言われているほど弱くなく、逆に中国軍は装っているほど強くない、とみるのが妥当と言える」と結論づけられる。
さらに第3の非対称として、「戦争になってしまった場合の影響の及び方」を挙げておられる。仮に中国軍が台湾を侵攻し占領に成功すれば、米国では責任論が生じて政権交代に至るにしても、大統領制と議会を軸にした民主主義体制が変わることは考えられないのに対し、もし中国が戦争目的の達成に失敗すれば、既に顕在化しているさまざまな社会の矛盾と相俟って民心が離れ、共産党政権の崩壊に至りかねない、という。こうして、「米中軍事対立がさまざまな非対称さでかたちづくられていることを考えると、対立が衝突に至るか否かはかなりの部分、中国共産党政権が内在する『弱さ』をどこまで自覚して軽々と台湾侵攻などに踏み切らないよう自制できるかどうかにかかっていることがわかる」と言われる。
かつて2008年夏季の北京五輪を成功させ、翌年のリーマンショックでは巨額の財政出動により欧米を金融危機から救ったと自負し、その翌年、日本を超えて世界第二の経済大国に躍り出た中国は、以後、成長と言うより増長が著しく、国際社会における存在感と影響力を高めて来た。此度のパンデミックでは、当初、強権的な対応がうまく行ったのは事実で、それに引き換え、アメリカをはじめとする先進国のぐだぐだぶりを見て、さぞ自らの体制への自信を深めたことだろう。その間、太平洋を二分割するという大胆な覇権主義的な提案を、2013年6月にオバマ大統領(当時)に、2017年11月にトランプ大統領(当時)との共同記者発表で、表明し、先月の米中首脳のオンライン会談では、一部の地方紙しか伝えていないようだが(大手紙では見かけないが)、「太平洋二分割」案を「地球二分割」案に格上げ(!?)して、「地球全体にまで野心を拡大させた」(神戸新聞)ようだ。しかし国内に目を向ければ、最近の経済への締め付けや相変わらずの監視体制強化は、自らの脆弱性を覆い隠そうとする恐怖心から突き動かされているように思えて仕方がない。
英国・秘密情報部(MI6)のムーア長官は、先月末に行った長官として初の演説で、「中国政府は、西側諸国のもろさに関する自らのプロパガンダを信じ、米国政府の決意を過小評価している」 「中国が自信過剰のあまり誤算をするリスクがあるのは、紛れもない事実だ」と述べたらしい(ロイターなど)。歴史的に、紛争は往々にして誤算や誤認によって惹き起こされる。バイデン大統領が習近平国家主席とオンライン会談に臨んだのは、二国間の競争関係を責任あるかたちで管理することを目的に、各課題に対する相互の認識を確認し合い、「競争が衝突に転じることがないよう、常識的なガードレールが必要との認識を伝えた」(JETROビジネス短信)とのことだが、危なっかしい状況だと、私が心配するまでもなく、当のバイデン大統領は気を揉んでいることだろう。強がる中国は何とも厄介だ。
(*) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM231HJ0T21C21A1000000/
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