風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

年始のひととき

2016-01-07 01:37:41 | 日々の生活
 年末年始にぼんやり考えたことで、伝統について、前回は個人的な視点で書いたので、今回は天下国家のことを・・・否、毎度の床屋談義である。
 先ずは導入として、今日、北朝鮮が水爆実験を行ったと発表したことについて、共産党の志位委員長は「核実験の強行は地域と世界の平和と安定に対する極めて重大な逆行だ。暴挙であり、厳しく糾弾する」との談話を発表したことを取り上げたい。それだけなら何の問題があるのか?と思うであろう。実は同委員長は、昨年11月7日のテレビ東京番組で「北朝鮮にリアルな危険があるのではない」と発言していたらしいのである。そこで、同委員長の今日の発言に関して、同党の国対委員長は記者会見で「北朝鮮は脅威か」との質問に対して「地域や世界の平和と安定に逆行するものだという意味では、けしからん話だということに尽きる」と答え、「危険ということか」との質問に対しても「核実験を行うこと自体が良くない。けしからん話だということははっきりしている」と答えるにとどまり、自ら「脅威」や「危険」との認識は示さなかった、というのである(以上、産経Webから抜粋)。政治家の、木で鼻を括ったような問答であるが、民主党と組んで(これ自体も政局を睨んだ野合に過ぎないが)政権を狙おうとする、どちらかというと伝統的には有力野党の一つが、この程度の安全保障認識であることには愕然とする。まあ、どちらかと言うと、彼らの「現実」の認識がそうだと言うよりも、彼らの目指す政治理念や政治信条に基づいて導かれる「観念的」な認識がそうなのだろう。が、可哀想だが既に破綻している(本人も分かっていると思うが)。いつまでこんな茶番を続けるのであろうか。
 また、古舘氏個人に対して悪意があるわけではない(単にミス・キャストなだけだと思っている)が、昨今の情勢の典型例と思われるので取り上げたい。「報道ステーション」降板が話題になり、一部に、政府(具体的には官房長官)からの圧力に嫌気したような噂がまことしやかに流れている。もともと政府筋との相性がよくない番組なので、何らかの確執があったかも知れない(あるいは現にあるかも知れない)ことは否定しないが、この平成の太平の日本で、さも戦前の言論統制が復活しかねないかのような被害妄想をばら撒くのだとすれば、報道ステーションだけではなく噂を流す人も(あるいは同一か?)タチが悪い。私自身も日頃から不快感をもつ番組なのは事実だが、私のことは措いておいても、あれほど(如何に少数とは言え)保守系の人々から(サンデーモーニングや岸井氏のNEWS23と並び)蛇蝎の如く嫌われるところからすれば、政府筋の圧力云々を言う以前に、放送法上の違反とまでは言わないまでも疑義ある偏った報道姿勢そのものが問われることがあっても仕方のない状況だと思う。
 ついでながら、古館氏の、極端な意見に相づちを打ってほかに正義はありえないと言わんばかりの誘導をすることが多いところを以て、テレビショッピングで見られるトリックに似ていると非難した人がいたし、俵孝太郎氏に至っては「彼はジャーナリストではなくニュース芸人。自分の後輩、同業者とは考えたことがない」とバッサリ切り捨てたそうだが、こちらは真に至言だ。保守的な(と言っても月刊誌ほどのことはない)週刊文春は古館氏を「偽りの弱者目線」と呼び、数年前、週刊文春WEBのメルマガ読者に対して実施された「嫌いなキャスター」アンケートで、古舘氏がダントツの1位(159票)を獲得し、2位・みのもんた氏(58票)や3位・小倉智昭氏(57票)を引き離していたのは、政治信条(ご本人のものかシナリオライターのものかはいざ知らず)もさることながら、キャスターとしての適格性にそもそも疑義をもたれ、好感度が極端に低いようだ。
 閑話休題。同番組を中心に、とりわけ安保法制に対する反対がいつしか違憲一点張りになり、憲法ありき、あるいは「理念」先行で、私たちの暮らしを取り巻く安全保障の「現実」が等閑視されてしまったのは、本末転倒でお粗末と言うより、その原理主義ぶりが空恐ろしいほどだった。改憲論議にしても、憲法は「国民の権利」を守るものとの一点張りで、地方分権や二院制などの統治機構としての国家のありようや、現在の憲法の欠陥である、緊急事態に対処するため、一時的に国の権限を強化して国民の権利を制限する国家緊急権のような言わば「国家の権利」にまつわる議論は完全に無視されて、唖然とするほかない。彼(ら)はいつも庶民の味方を気取っているようだ。「大」と名のつくものは大嫌いで、大国より中小国、大都市より地方都市、大企業より中小企業や町工場、正規より非正規雇用、自民党より弱小野党、大型店より商店街、若者よりお年寄り・・・強きを挫き弱きを助ける正義の味方なのだ。それ自体悪いことではないが、そこでは権力は必ず腐敗し(そうした面があることは否定しない)、体制は悪であり(そこまで言ってよいものか)、結果として、安倍政権のやることなすこと全てに反対のために反対し、報道として多角的な論点を取り上げるべき努力を怠っていることが問題だと言いたいのである。その徹底ぶりは、反体制を通り越して、もはやアナーキズムかと疑うほどである(と思うのは私だけの杞憂であろうか?)。
 こうしたことは、繰り返しになるが、同番組に限らず、多かれ少なかれ世にあまねく見られるところで、同番組はその典型に過ぎない。こうした報道姿勢が、以前2割-6割-2割の構成の話をしたことがあったが、この内の6割の、特に定見ないと思われる中間層(無党派層あるいは浮動層とも言う)に対して間違ったメッセージを送りかねず、甚だ不愉快である。彼(ら)の言い分に従っていれば、守るべき社会的な価値や習慣・伝統のコンセンサスが健全に形成・維持されず、これで果たして国家と言う、私たちの生活を支える統治構造が成り立ち得るのか、大いに疑問である。権力を監視しているようでいて、その実、国家存立の基盤を掘り崩しているようにしか思えないのである。彼らには是非とも寄って立つ健全な日本の伝統のありようを見つめ直して欲しいものだと、ふと思うのであるが、古館氏の能面のような顔を見ていると、つい萎えてしまう。だからこその降板なのだろうと思いたいが、果たしてどうだろうか。
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年末のひととき

2016-01-01 00:17:11 | 日々の生活
 年末・年始の日本の光景は随分変わってしまった。
 子供の頃、年末ともなれば、母親はせっせとお節料理を準備し、父親は家の大掃除をし、子供の私もそれに付き合って、心身ともに清めて新年を迎えるのが常だった。今、思えば極めて神道的なありようだったように思う。神道は、清らかであることを最大の特徴とする。そうして、一年が変わることの重みを、子供心に感じたものだった。当時は、何より家にモノがなかったし、街の商店街と言えども、正月三が日の営業はなく、自衛のためのお節料理だったわけだ。ところが今では人々は豊かになり、街には商業主義がはびこり、近所のイトーヨーカドーにしてもコンビニにしても、年末・年始休みなしの営業が当たり前で、便利この上なく、それに伴い、私たち庶民の生活も安易に流され、いつしかお節は買うもの、あるいは飽きてしまうのでお節はそこそこに、外食するのが当たり前になってしまった。そして、一年の終わりと始まりの区切りが、かつての重みをすっかり失ってしまった。
 伝統を護るべきなのか、迷ってしまう。
 高度経済成長を経て、日本の社会はすっかり分断されてしまった。地方から都会への民族大移動により都市化が進み、村落共同体から解放された人々が新しい社会を切り開いて行った。それとともに、日本の社会が、農村を中心とした共同体として、随分、無理をしてきたことも明らかとなった。例えば嫁と姑の関係のような。私の世代はその双方を経験し、東日本大震災で見直された古い日本の絆に思いを寄せるとともに、今なおそれがいざとなれば通用することを信じつつ、普段はそれとは無縁の、核家族化が進んだ気楽な日常生活に甘んじている。
 この変容ぶりを、年末恒例の「紅白歌合戦」は絵巻物のように見せてくれた。和田アキ子「笑って許して」(1970年3月発売)、石川さゆり「津軽海峡冬景色」(1977年1月発売)、五木ひろし「千曲川」(1975年5月発売)、森進一「おふくろさん」(1971年5月発売)など、年配者も楽しめる相も変わらぬ1970年代の名曲に続いて、高橋真梨子は「五番街のマリーへ~2015」と称して1973年10月発売の「五番街のマリーへ」と1984年5月発売の「桃色吐息」を歌い、レベッカ「フレンズ」(1985年10月発売)、近藤正彦「ギンギラギンにさりげなく」(1981年9月発売)、松田聖子「赤いスイートピー」(1982年1月発売)などの1980年代の名曲が郷愁を誘う。しかし、私の子供たちの世代には分かるまい。中でも聖子ちゃんのキーが随分低くなって、冷や水を浴びせられたが、それも年寄りの戯言でしかない。
 そうこうしている内に、年が明けてしまった。
 伝統は不可逆なものと、そうでないものとがある。私たちの社会が無理をしていたところは、間違いなく解き放たれるであろう。そして、板挟みとなる痛みを、私たちの世代だけがほろ苦く感じるのである。その過程で明らかに可能性が広がることに望みを託しつつ・・・そんなことに思いを馳せる年の瀬だった。
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