
《“興銀ますらお派出夫”たち》
【251ページ】
中山と高井は興流会の応接室で、煙草の煙をくゆらせながら話をした。
「先月初めに竹中平蔵率いる金融庁はみずほコーポレート銀行とみずほ銀行の首脳を呼びつけて、『銀行の優越的地位を笠に着た増資要請は控えるべき』だなんて口頭で注意しましたが、どこまで嫌がらせをしたら気が済むんでしょうか。しかし結果的に金融庁はグウの音も出なかったわけですが」
【254ページ】
高井は煙草を灰皿になすりつけた。
「高い買い物に決まってますよ。五十嵐さんの手柄話をしましょうか。社長になった時、人員整理はやらないと組合に宣言して、2年間5パーセントの賃金カットを認めさせたそうです。社長は30パーセント、役員は20パーセント、管理職が15パーセントのカット。これで人件費を年間20億円節約できた。少なくともマルハでは前代未聞のことなんでしょうね。平成16 (2004)年4月から純粋持株会社のマルハグループ本社にするそうですが、資産の再評価で約200億円捻出できるとか話してました」
中山は「なるほど」とうなずいて、「君の方が詳しいねぇ」と言いながら3本目の煙草を咥え直した。
【260~261ページ】
中山は煙草の煙を大きく吐き出して、ため息まじりに続けた。
「二十日間の拘留は辛かったろうなぁ」
「三日間は悔しくて一睡もできなかったような気がします。しかし、自分は間違っていない。興銀を代表してスケープゴートにされているだけのことだと考えたら眠れるようになりました」
[ken] 竹中平蔵さんって、財界からはこぞって支持を受けていると思っていましたが、実のところ興銀の中山素平さんをはじめ、反発していた方々も多かったことを知らされました。その竹中平蔵さんも、来月末をもって退職するらしく、『慶応塾生新聞』2月号で「定年退職者インタビュー」を受けていました。
それから、本節では企業の再建を実施するにあたって、マルハニチロの場合を例に、まずは「人員整理はやらないと組合に宣言」することで社員の動揺を防ぎ、取るべき対策に全社一丸となって立ち向かう、それが正しい選択ということなのですね。
また、興銀マンが新たな仕事先に異動したあとの振る舞いが紹介されています。すべてがうまくいったわけではなく、状況や運の悪さ、本人の怠慢などによる失敗例についても、送り出した者の灌漑を含め正直に描かれていることに好感を持ちました。(つづく)