《国鉄分割化異聞》
【140ページ】
「国労(国鉄労働組合)の解体問題も大変でしょう」
「国労の跳ね上がりに、国民は泣かされている。中曽根さんが行政管理長官時代に民営化を構想した動機づけになってるんじゃないですか」
----
「行革審から誰か気の利いたのにレクチャーさせましょうか」
「その時はよろしくお願いします。ただ、お断りすることもあり得るとおぼしめしください」
土光が当惑顔で掌を合わせた。
「そんなつれないことを言わんでくださいよ。くれぐれもよろしくお願いします」
「土光さんに頼まれると弱いですよ」
中山は真顔で言って、煙草を灰皿に捨てた。
【142ページ】
「僕の頭取時代に秘書役として森嶋ほど尽くしてくれた者はおらんからね。あんなに元気で良い男が64歳で亡くなるなんて、いまだに信じられんよ」
中山の話し声がくぐもり、煙草を持つ手が小刻みにふるえている。
【144ページ】
「わかります。カードは撤回しますが、角さんの分割民営化反対論は一般受けしないと思います。国益に適うとは考えにくいですよ」
「土光さんに返事をしないわけにもいかないので、一両日中に電話をかけます」
二人が同時に煙草をもみ消した。
【151ページ】
「組合問題で躓(つまず)かなければ良いんだが、よほど肚(はら)をくくってやらんとね。気の遠くなるような大問題だ」
「角さんには何か知恵があるんじゃないですか」
「いや、無い。しかし、考えてはみる」
田中角栄にごねられたら大変だったが、一歩も二歩も前進するだろうと中山は思った。
中核派が昭和60年11月29日に仕掛けた国電同時多発ゲリラ事件で、首都圏の国電が終日麻痺状態に陥った。だが、この時期この事件が分水嶺になった。国民世論が国鉄の分割民営化を強く支持する結果をもたらしてからだ。
昭和61年(1986年)年11月28日、国鉄改革関連8法が成立した。
[ken] 本節では、何と言っても「国鉄分割民営化の最大のテーマが国鉄労働組合の弱体化(解体)にあったこと」、そして「田中角栄氏が国鉄の分割民営化に猛反対していたこと」が強く印象に残り、改めて「そうだったのか!」と再認識させられました。また、行政改革の推進役であった土光敏夫氏が社長をつとめ、その後も経済界のリーダー的存在であった東芝が、昨年の不正会計問題により経営危機に陥っている現実は、企業の持続的成長がいかに困難であるかを物語っていると考えさせられました。企業の経営状態は働く人たちにも影響を及ぼし、2016春闘での賃上げについて政府が旗を振れども、賃上げの相場形成を左右する電機連合では、早々と東芝とシャープが戦線離脱する結果となりました。くわえて、三大メガバンクの労働組合も「マイナス金利導入」を理由に、2016春闘でベア要求をしませんでした。それに対して、連合傘下の労働組合から「重大な裏切り行為」であると批判を受けました。(つづく)
【140ページ】
「国労(国鉄労働組合)の解体問題も大変でしょう」
「国労の跳ね上がりに、国民は泣かされている。中曽根さんが行政管理長官時代に民営化を構想した動機づけになってるんじゃないですか」
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「行革審から誰か気の利いたのにレクチャーさせましょうか」
「その時はよろしくお願いします。ただ、お断りすることもあり得るとおぼしめしください」
土光が当惑顔で掌を合わせた。
「そんなつれないことを言わんでくださいよ。くれぐれもよろしくお願いします」
「土光さんに頼まれると弱いですよ」
中山は真顔で言って、煙草を灰皿に捨てた。
【142ページ】
「僕の頭取時代に秘書役として森嶋ほど尽くしてくれた者はおらんからね。あんなに元気で良い男が64歳で亡くなるなんて、いまだに信じられんよ」
中山の話し声がくぐもり、煙草を持つ手が小刻みにふるえている。
【144ページ】
「わかります。カードは撤回しますが、角さんの分割民営化反対論は一般受けしないと思います。国益に適うとは考えにくいですよ」
「土光さんに返事をしないわけにもいかないので、一両日中に電話をかけます」
二人が同時に煙草をもみ消した。
【151ページ】
「組合問題で躓(つまず)かなければ良いんだが、よほど肚(はら)をくくってやらんとね。気の遠くなるような大問題だ」
「角さんには何か知恵があるんじゃないですか」
「いや、無い。しかし、考えてはみる」
田中角栄にごねられたら大変だったが、一歩も二歩も前進するだろうと中山は思った。
中核派が昭和60年11月29日に仕掛けた国電同時多発ゲリラ事件で、首都圏の国電が終日麻痺状態に陥った。だが、この時期この事件が分水嶺になった。国民世論が国鉄の分割民営化を強く支持する結果をもたらしてからだ。
昭和61年(1986年)年11月28日、国鉄改革関連8法が成立した。
[ken] 本節では、何と言っても「国鉄分割民営化の最大のテーマが国鉄労働組合の弱体化(解体)にあったこと」、そして「田中角栄氏が国鉄の分割民営化に猛反対していたこと」が強く印象に残り、改めて「そうだったのか!」と再認識させられました。また、行政改革の推進役であった土光敏夫氏が社長をつとめ、その後も経済界のリーダー的存在であった東芝が、昨年の不正会計問題により経営危機に陥っている現実は、企業の持続的成長がいかに困難であるかを物語っていると考えさせられました。企業の経営状態は働く人たちにも影響を及ぼし、2016春闘での賃上げについて政府が旗を振れども、賃上げの相場形成を左右する電機連合では、早々と東芝とシャープが戦線離脱する結果となりました。くわえて、三大メガバンクの労働組合も「マイナス金利導入」を理由に、2016春闘でベア要求をしませんでした。それに対して、連合傘下の労働組合から「重大な裏切り行為」であると批判を受けました。(つづく)