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古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

阿須波の神・阿須波の宮

2021年02月13日 | 日本古典文学-人事

阿須波(あすは)の神/宮(みや)

 (天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
庭中の阿須波の神に小柴さし我れは斎はむ帰り来までに
(にはなかの,あすはのかみに,こしばさし,あれはいははむ,かへりくまでに)
   右一首帳丁若麻續部諸人
(万葉集~バージニア大学HPより)

たのむそよ-あすはのみやに-さすしはの-しはしかほとも-みねはこひしき 
(文保百首_定為・ 03075~日文研HPより)

  悔離別   俊頼
今さらにいもかへさめやいちじるきあすはの宮にこ柴さすとも
(和歌一字抄~新編国歌大観5)

 九月尽
庭中のあすはいつしか神無月よしいつはりて秋はとどまれ
 万葉に
庭中のあすはの神にこしばさし我はいははむかへりくるまで
   旅にたつ人、かまの神を庭にまつりて、めぐりに小柴がきをするなり、あしへの神と申すべきを、歌には、
   あすはとよむ、竈神のあたりは人のありきしげければ、足辺の神とかけり
(雲玉集~新編国歌大観8)


袖に墨/袖の墨

2016年07月08日 | 日本古典文学-人事

 「袖に墨が付く」ということを歌った和歌が複数あるので、どういうことを歌っているのか語釈を調べてみました。
 人から恋されるときには、袖に墨がつくという言い伝えから、「袖に墨が付く」のは、人に恋い慕われたしるし。 もしくは、人に恋い慕われる前兆。とのことです。
 このことを詠み込んだ和歌などを集めてみました。

かにかくに-ひとはいふとも-おりつかむ-わかはたものの-しろあさころも(新撰和歌六帖・1298)日文研HPより

からくにの-ひとにとははや-わかことく-よにすみつかぬ-たくひあるやと(永久百首・631)日文研HPより
イからくにの-ひとにとひてや-わかことく-よにすみつかぬ-たくひあるやと(永久百首・631)日文研HPより

ひとにのみ-すみつくそてを-かさねつつ-こふるしるしも-きみはしらしな(久安百首・待賢門院堀河・1077)日文研HPより

 袖にすみのつきたるを人のたれかこふるならむなととふらひけれはいひける 左大臣家郷
なからへて有はつましき世中になにとすみつくわか身成らん
(巻第百五十八・今撰和歌集、雑)
『群書類従・第十輯(訂正三版)』続群書類従完成会、1993年、431ページ

修理大夫顕季の六條の家にて七夕をよめる
七夕はひまなく袖につくすみをけふやあふせに薄すつらん
(巻第二百五十四・散木奇歌集、第三・秋部・七月)
『群書類従・第十五輯(訂正三版)』続群書類従完成会、1987年、17ページ
※『新編国歌大観 3巻』では、同一歌が「七夕はひまなく袖につくす身をけふやあふせにすすぎすつらん」と表記されていますが、「袖に尽くす身」では意味がとおらないと思います。

たなはたの-そてにひまなく-つくすみは-あふせにけふや-あらひすつらむ(夫木抄・4042)日文研HPより

人に恋ひらるる人は袖に墨つく、又こひすれば額の髪しじくともよめり、古歌に、わぎもこが額の髪やしじくらん怪しく袖に墨のつくかな。〔奥儀抄・四〕(Weblio 辞書 より)

われゆゑと-しらすやあらむ-しつのめか-つつれるそてに-つけるすみをは(頼政集・恋・555)日文研HPより

つつむそて-たかこふるとは-もらさすと-つくらむすみを-あはれともみよ(千五百番歌合・2281)日文研HPより

 桂の家にて人々歌よみしに、人に恋ひらるといふ心を
偲(しの)ばれむことぞともなき水茎のたびたび袖に墨のつくかな
(師中納言俊忠集~「和歌文学大系22」明治書院)

 初逢恋を申せしに  衲叟
袖につく墨のしるしをいつよりかあやしめおきてさねそめぬらん
(雲玉集・358~『新編国歌大鑑8』586ページ)

われをのみ-たのまさりけり-わきもこか-ひとかたならぬ-そてのすみかな(新撰和歌六帖・1618)日文研HPより

[詞書] 霞隔遠樹
たちのこす霞の袖につく墨はたかため恋の杜となるらん(草根集・00369)日文研HPより

[詞書] 遠帰雁
棹姫のかすみの袖につく墨のおつるやこゆる春の雁かね(草根集・01635)日文研HPより

[詞書] 野深雪
あさ明の末のの雪につく墨はたか夕暮の袖はらふらん(草根集・06026)日文研HPより


劫(石を天人が袖で撫でる)

2014年08月10日 | 日本古典文学-人事

嘉祥二年三月庚辰(二十六日)
興福寺大法師らが、天皇が四十歳になったのを祝賀して、観音菩薩像四十体を作り、『金剛寿命陀羅尼経』四十巻を写し、四万八千巻を転読した。さらに天女が、充満している芥子粒を一粒ずつ拾い、拾い尽くすほどの時間であっても、天皇の長寿に及ばず、磐石を天衣(羽衣)で払ってなくなるほどの時間が経過しても天皇の長寿に届かないので、芥子粒を拾い、磐石を払うのを止め、翻って不老長寿の仙薬を提げて天皇の側に来て祗候する像、および浦島子(浦島太郎)がしばし天の川に昇り長生する様子と離(はる)か天上へ通う吉野の神女が天から下りて天へ去る様子を像にし、これに次の長歌を副えて献上した。
 日本(ひのもと)の やまとの国を かみろぎの 宿那毘古那(すくなひこな)が 葦菅(あしすげ)を 殖生(うゑおふ)しつつ 国固め 造りけむより 沖つ波 起つ毎年(としのは)に 春は有れど 今年の春は 毎物(ものごと)に 滋(しげ)り栄えて (中略) 八十里(やそさと)なす 城(き)に芥子拾ふ 天人(あまつをとめ)は ただむきて 拾はずなりぬ 八百里(やほさと)なせる 磐根(いはのね)に ひれ衣(ころも) 裾垂れ飛ばし 払ふ人 払はず成りて 皇(おほきみ)の 護(まも)りの法(のり)の 薬(みくすり)を ■(敬+手)(ささ)げ持ち 来り候(さぶら)ふ (後略)
(続日本後紀~講談社学術文庫)

題しらす よみ人しらす
君か代はあまのはころもまれにきてなつともつきぬいはほならなん
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

君が代は、天の羽衣稀に来て、撫づとも尽きぬ巌ぞと、聞くも妙なり(謡曲「羽衣」)
万代と限らじものを、天衣(あまごろも)、撫づとも尽きぬ、厳ならなん。(謡曲「采女」)
君が代は、天の羽衣稀に来て、撫づとも尽きぬ厳ならなむ(謡曲「呉服」)

賀の屏風に もとすけ
うこきなきいはほのはても君そみむおとめの袖のなてつくすまて
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

媒子内親王家の歌合におなし(祝)心を よみ人しらす
君か世に天つ乙女の行かよひなつる岩ほのうこきなきかな
(続後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

礒巌 下野
君か代は磯辺の岩ほうこきなくあまのは袖やまれになつらん
(宝治百首~日文研HPより)

きみかよのときはのいしはあまくたるをとめのそてもいかかなつらむ
(夫木抄~日文研HPより)

花園左大臣家小大進
よそねしてこけむすいはほきみかよにちたひそなてむあまのはころも
(久安百首~日文研HPより)

きみかよにあまのはころもおりきつついくつのいしをなてつくすらむ
(実国家歌合~日文研HPより)

みとせへてあまのはころもきてなつるいはほやつきむきみかよよりは
(或所歌合~日文研HPより)

きみかよははまのまさこのいはとなりてみななてつくさむあまのはころも
(正治初度百首~日文研HPより)

衣にてなづれどつきぬ石の上に万代をへよたきのしらいと
(「續古事談」おうふう)

  祝言
君そみんまれに天人袖ふるゝいはほもさゝれ石と成よは
(心敬僧都十躰和歌~続群書15上)

後朱雀院うまれさせ給て七夜によみ侍ける 前大納言公任
いとけなき衣の袖はせはくともこふのいしをは(イこふのうへをは)なてつくしてん
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

 車にてぞ京のほどは行き離れける。いと親しき人さし添へたまひて、ゆめ漏らすまじく、口がためたまひて遣はす。御佩刀、さるべきものなど、所狭きまで思しやらぬ隈なし。乳母にも、ありがたうこまやかなる御いたはりのほど、浅からず。
 入道の思ひかしづき思ふらむありさま、思ひやるも、ほほ笑まれたまふこと多く、また、あはれに心苦しうも、ただこのことの御心にかかるも、浅からぬにこそは。御文にも、「おろかにもてなし思ふまじ」と、返す返すいましめたまへり。
 「いつしかも袖うちかけむをとめ子が世を経て撫づる岩の生ひ先」
(略)
 「ひとりして撫づるは袖のほどなきに覆ふばかりの蔭をしぞ待つ」
 と聞こえたり。あやしきまで御心にかかり、ゆかしう思さる。
(源氏物語・澪標~バージニア大学HPより)

つもりゆくなけきはつきしをとめこかなつるいはほのはてはみるとも
(夫木抄~日文研HPより)

はころものまれになつてふいはほこそつれなきひとのこころなりけれ
(若宮社歌合~日文研HPより)

あまころもなつるちとせのいはほをもひさしきものとわかおもはなくに
いかはかりひさしくもあらすあまころもをとめかなつるいははかりなり
(古今和歌六帖~日文研HPより)

恋悲みし月日は、天の羽衣撫尽すらん程よりも長く、相見て後のたゞちは、春の夜の夢よりも尚短し。
(太平記~国民文庫本)

蘆橘薫枕
橘にちかくぬる夜の岩枕撫てなむ天つ袖の香そする
(草根集~日文研HPより)

籬瞿麦
まかきにも稀なる色そ天つ袖今や岩ほをなてしこの花
(草根集~日文研HPより)

ほしあひの袖にやなつるいはまくらつきぬちきりのあまの羽ころも
(冬日同詠百首和歌-藤原雅家~古典文庫489)

たなはたのあまのはころもいはなててつきぬやけふのためしなるらむ
(白河殿七百首~日文研HPより)

なてつくすいはほありともたなはたのちきりはくちしあまのはころも
(永享百首~日文研HPより)

 擣衣稀
それもよもまれに打(う)つ夜(よ)の音(をと)はせじいはほを撫(な)でし天の羽衣
(「和歌文学大系62 玉吟集」明治書院)

男、いひやる。
  巌にも身をなしてしか年経てもをとめが撫でむ袖をだに見む
返し、
  天つ袖撫づる千年の巌をもひさしきものとわが思はなくに
(平中物語~新編日本古典文学全集)

 かんきみのこのかはらの院にこむとちきりていませさりけるにいひやる
松もおひ岩をも苔のむすふまて命くれへに問ぬ君かな
 返し
我も行て衣の袖にかきなては君かいはほの苔もみえしを
 又
三千とせに一度なつる袂をは二葉の松もいかゝまつへき
(安法法師集~群書類従15)

※「劫(こふ)」という単語は、きわめて長い時間をいう語。天人が百年に一度ずつ四十里四方の石を衣の袖で撫で、石は摩滅しても終わらない長い時間とのこと。
その「天人が石を袖で撫でる」という表現を用いた和歌などを集めてみました。主に賀の歌ですが、恋歌などもあります。