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古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

古典の季節表現 夏 かきつばた(杜若/燕子花)

2017年05月05日 | 日本古典文学-夏

かきつばた
沼水に茂る眞菰のわかれぬを咲きへだてたるかきつばたかな
(山家集~バージニア大学HPより)

たこかすむやましたみつのかきつはたむへえひそめのいろにさきけり
(夫木抄・02000・仲正~日文研HPより)

ふかきいろのこころことにそにほふめるたかすむやとのかきつはたそも
(堀河百首・00271・祐子内親王家紀伊~日文研HPより)

かりひとのころもするてふかきつはたはなさくときになりにけるかな
(夫木抄・01985・基俊~日文研HPより)

むらさきのいろはふかきをかきつはたあささはをのにいかてさくらむ
(夫木抄・01992・俊成~日文研HPより)

たれしかも衣に摺るらしかきつばた浅沢小野に今さかりなり
(宗尊親王三百六十首)

住吉の浅沢小野のかきつはた衣に摺り付け着む日知らずも
(万葉集~バージニア大学HPより)

みれはなほいろなつかしきかきつはたわかそてすらむはなはちるとも
(新撰和歌六帖・02013・知家~日文研HPより)

あつまのかたへ友とする人ひとりふたりいさなひていきけり、三河国八橋といふ所にいたれりけるに、その川のほとりに杜若いとおもしろくさけりけるを見て、木の陰におりゐて杜若といふいつもしをくのかしらにすへて旅の心をよまんとてよめる 在原業平朝臣
から衣きつゝなれにしつましあれははるはるきぬる旅をしそおもふ 
(古今和歌集・羇旅歌~国文学研究資料館HPより)

詞「急ぎ候ふ間。程なう三河の国に着きて候。又これなる沢辺に杜若の今を盛と見えて候。立ちより眺めばやと思ひ候。げにや光陰とゞまらず春過ぎ夏も来て。
草木心なしとは申せども。時を忘れぬ花の色。かほよ花とも申すやらん。あら美
しの杜若やな。
(略)
シテ「これこそ三河の国八橋とて。杜若の名所にて候へ。さすがにこの杜若は。名におふ花の名所なれば。色も一しほ濃紫のなべての花のゆかりとも。思ひなぞらへ給はずして。取りわき眺め給へかし。あら心なの旅人やな。
ワキ詞「げにげに三河の国八橋の杜若は。古歌にもよまれけるとなり。いづれの歌人の言の葉やらん承りたくこそ候へ。
シテ「伊勢物語にいはく。こゝを八橋といひけるは。水行く川の蜘蛛手なれば。橋を八つ渡せるなり。其沢に杜若のいと面白く咲き乱れたるを。ある人かきつばたといふ五文字を句の上に置きて。旅の心をよめと言ひければ。唐衣着つゝなれにし妻しあれば。はるばる来ぬる旅をしぞ思ふ。これ在原の業平の。此杜若をよみし歌なり。
(謡曲「杜若」~謡曲三百五十番)

 かくて參河の國に至りぬ。雉鯉鮒が馬場をすぎて數里の野原を分くれば、一兩の橋を名づけて八橋といふ。砂に眠る鴛鴦は夏を辭して去り、水に立てる杜若は時を迎へて開きたり。花は昔の花、色も變らず咲きぬらし、橋も同じ橋なれども、いくたび造りかへつらむ。相如、世を恨みしは、肥馬に乘りて昇仙に歸り、幽士、身を捨つる、窮鳥に類してこの橋を渡る。八橋よ八橋、くもでに物思ふ人は昔も過ぎきや、橋柱よ橋柱、おのれも朽ちぬるか、空しく朽ちぬる者は今も又すぎぬ。
(海道記~バージニア大学HPより)

我れのみやかく恋すらむかきつはた丹つらふ妹はいかにかあるらむ
(万葉集~バージニア大学HPより)

恋の歌の中に 従三位実遠
うき中は浅沢をのゝかきつはたうつろふまゝに隔はてつゝ 
(新千載和歌集・恋歌五~国文学研究資料館HPより)

藤原のかつみの命婦にすみ侍けるおとこ、人のてにうつり侍にける又のとし、かきつはたにつけてかつみにつかはしける 良峰義方朝臣 
いひそめし昔の宿のかきつはた色はかりこそかたみなりけれ 
(後撰和歌集・夏歌~国文学研究資料館HPより)

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古典の季節表現 夏 五月

2017年05月05日 | 日本古典文学-夏

五月雨の 池の真菰(まこも)に 水増(まし)て いづれがあやめ 杜若(かきつばた) さだかにそれと吉原へ 程遠からぬ 水神(すいじん)の 離れ座敷の夕栄(ゆうばえ)に 一寸(ちょっと)見かはす 富士筑波
(端唄百番「五月雨の池」~岩波文庫・「江戸端唄集」)

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古典の季節表現 夏 常夏・撫子

2016年06月30日 | 日本古典文学-夏

大伴家持石竹花歌一首
我が宿のなでしこの花盛りなり手折りて一目見せむ子もがも
(万葉集~バージニア大学HPより)

見わたせば向ひの野辺のなでしこの散らまく惜しも雨な降りそね
(万葉集~バージニア大学HPより)

春秋の花のなかにも常夏の匂ふ匂ひのたぐひなきかな
(天喜四年五月 頭中将顕房歌合~平安朝歌合大成2)

出居(いでゐ)あり、女なでしこを見る
咲きしより見つつ日頃になりぬれどなほ常夏にしく花はなし
(和泉式部集~岩波文庫)

からにしきしけるにはともみゆるかなこけちにさけるなてしこのはな
(左近権中将俊忠朝臣家歌合~日文研HPより)

 とこなつ
庭のおもにからの錦ををるものは猶常夏の花にさりける
(赤染衛門集~群書類従15)

 雨のふる夜つほねに人のありしつとめて大原少将入道のなでしこにさして
撫子のくれなゐふかき花の色も今宵の雨にこさやまされる
 御返し
雨水に色はかへれとくれなゐのこさも増らすなてしこの花
(赤染衛門集~群書類従15)

瞿麦帯露といへる心を 内大臣 
夏草のいつれともなき籬にも露の色そふとこなつの花 
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

瞿麦露滋といふことを 高倉院御歌 
しら露の玉もてゆへるませのうちに光さへそふとこ夏の花 
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

たいしらす 式子内親王 
我のみはあはれともいはし誰もみよ夕露かゝるやまと撫子 
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

もろともにみむひともかなひとりのみをれはかひなきとこなつのはな
(万代集~日文研HPより)

御前の前栽の、何となく青みわたれるなかに、常夏のはなやかに咲き出でたるを、折らせたまひて、命婦の君のもとに、書きたまふこと、多かるべし。
  「よそへつつ見るに心はなぐさまで露けさまさる撫子の花
  花に咲かなむ、と思ひたまへしも、かひなき世にはべりければ」
  とあり。さりぬべき隙にやありけむ、御覧ぜさせて、
  「ただ塵ばかり、この花びらに」
  と聞こゆるを、わが御心にも、ものいとあはれに思し知らるるほどにて、
  「袖濡るる露のゆかりと思ふにもなほ疎まれぬ大和撫子」
  とばかり、ほのかに書きさしたるやうなるを、よろこびながらたてまつれる、「例のことなれば、しるしあらじかし」と、くづほれて眺め臥したまへるに、胸うち騒ぎて、いみじくうれしきにも涙落ちぬ。
(源氏物語・紅葉賀~バージニア大学HPより)

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古典の季節表現 夏 夕顔

2016年06月17日 | 日本古典文学-夏

山がつの庭のそで垣つたひきて軒ばにかかる夕顔の花
(自葉和歌集)

山かつの折かけかきのひまこえてとなりにもさく夕かほの花
(西行法師家集~日文研HPより)

かたやまのかきねのひかけほのみえてつゆにそうつるはなのゆふかほ
(秋篠月清集~日文研HPより)

このころはしつかふせやのかきならひすすしくさけるゆふかほのはな
(拾遺愚草員外~日文研HPより)

くれそめてくさのはなひくかせのまにかきねすすしきゆふかほのはな
(拾遺愚草~日文研HPより)

このまもるかきねにうすきみかつきのかけあらはるるゆふかほのはな
(拾遺愚草~日文研HPより)

六条わたりの御忍び歩きのころ、内裏よりまかでたまふ中宿に、大弐の乳母のいたくわづらひて尼になりにける、とぶらはむとて、五条なる家尋ねておはしたり。
  御車入るべき門は鎖したりければ、人して惟光召させて、待たせたまひけるほど、むつかしげなる大路のさまを見わたしたまへるに、この家のかたはらに、桧垣といふもの新しうして、上は半蔀四五間ばかり上げわたして、簾などもいと白う涼しげなるに、をかしき額つきの透影、あまた見えて覗く。立ちさまよふらむ下つ方思ひやるに、あながちに丈高き心地ぞする。いかなる者の集へるならむと、やうかはりて思さる。
  御車もいたくやつしたまへり、前駆も追はせたまはず、誰とか知らむとうちとけたまひて、すこしさし覗きたまへれば、門は蔀のやうなる、押し上げたる、見入れのほどなく、ものはかなき住まひを、あはれに、「何処かさして」と思ほしなせば、玉の台も同じことなり。
  切懸だつ物に、いと青やかなる葛の心地よげに這ひかかれるに、白き花ぞ、おのれひとり笑みの眉開けたる。
  「遠方人にもの申す」
  と独りごちたまふを、御隋身ついゐて、
  「かの白く咲けるをなむ、夕顔と申しはべる。花の名は人めきて、かうあやしき垣根になむ咲きはべりける」
  と申す。げにいと小家がちに、むつかしげなるわたりの、このもかのも、あやしくうちよろぼひて、むねむねしからぬ軒の妻戸に這ひまつはれたるを、
  「口惜しの花の契りや。一房折りて参れ」
  とのたまへば、この押し上げたる門に入りて折る。
  さすがに、されたる遣戸口に、黄なる生絹の単袴、長く着なしたる童の、をかしげなる出で来て、うち招く。白き扇のいたうこがしたるを、
  「これに置きて参らせよ。枝も情けなげなめる花を」
  とて取らせたれば、門開けて惟光朝臣出で来たるして、奉らす。
(略)
 修法など、またまた始むべきことなど掟てのたまはせて、出でたまふとて、惟光に紙燭召して、ありつる扇御覧ずれば、もて馴らしたる移り香、いと染み深うなつかしくて、をかしうすさみ書きたり。
  「心あてにそれかとぞ見る白露の光そへたる夕顔の花」
  そこはかとなく書き紛らはしたるも、あてはかにゆゑづきたれば、いと思ひのほかに、をかしうおぼえたまふ。(略)御畳紙にいたうあらぬさまに書き変へたまひて、
  「寄りてこそそれかとも見めたそかれにほのぼの見つる花の夕顔」
  ありつる御随身して遣はす。
(源氏物語・夕顔~バージニア大学HPより)

正治二年百首歌に 小侍従
咲にけりをちかた人にことゝひてなをしりそめし夕顔の花
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

こたへねとそれとはみえぬたそかれやをちかた人の夕貌の花
(内裏百番歌合-建保四年閏六月九日~日文研HPより)

後小松院にて、人々題をさくりて歌つかうまつりけるに 前右衛門督為盛 
咲てこそ賎か垣ねの数ならぬ名もあらはるれ夕かほの花 
(新続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

夕顔を 津守国助
いとゝ又/かりやそはむしら露に月まち出る夕かほの花 
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

一枝の花をそおける夕かほのかきほの月のしろき扇に
(草根集~日文研HPより)

はなといへはあはれならすやつゆかかるゆくてのこやののきのゆふかほ
(春夢草~日文研HPより)

おのつからなさけそみゆるあらてくむしつかそとものゆふかほのはな
(夫木抄~日文研HPより)

里は荒れぬたれいにしへに住む人の形見はかなき花のゆふがほ
(隣女集)

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古典の季節表現 夏 蝉

2016年06月15日 | 日本古典文学-夏

文保百首歌中に 後光明照院前関白左大臣
なく蝉のこゑより外は夏そなきみ山のおくの杉の下陰
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

なつやまのみねのこすゑしたかけれはそらにそせみのこゑもきこゆる
(和漢朗詠集・巻上・夏・蝉~日文研HPより)

建仁三年影供歌合に、雨後聞蝉といふ事を 皇太后宮大夫俊成女
雨はれて雲ふく風になく蝉の声もみたるゝもりの下露
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

夏声といふことを 今上御歌
風高き松の木陰に立よれはきくもすゝしき日くらしの声
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

なくせみのはにおくつゆにあきかけてこかけすすしきゆふくれのこゑ
(六百番歌合・夏・蝉~日文研HPより)

ゆふたちのはれをまちけりやまひこのこたふるやまのせみのもろこゑ
(影供歌合-建仁三年六月十六日~日文研HPより)

寄蝉恋といへる心を 丹波尚長朝臣
夏衣おりはへ蝉のねにたてゝうすくや中の遠さかりなん
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

入日さしなく空蝉の声きけは露のわか身そ悲しかりける(曾禰好忠集~群書類従15)

題しらす 忠峰
哀といふ人はなくとも空蝉のからになるまてなかんとそ思
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

待賢門院かくれさせ給て後六月十日比、法金剛院にまいりたるに庭も梢もしけりあひてかすかに人影もせさりけれは、これに住そめさせ給し事なとたゝ今の心ちして哀つきせぬに、日くらしの声たえす聞えけれは 堀川
君こふるなけきのしけき山里はたゝ日くらしそともに鳴ける
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

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