恋歌中に
わがための卯月なりけりきみこふとやまほととぎすねをのみぞなく
(逸名歌集-穂久邇文庫~『新編国歌大観10』角川書店、平成4年
四月はかり、久しう音せぬ人に 実方朝臣
卯花の垣ねかくれのほとゝきすわか忍ひねといつれ程へぬ
返し よみ人しらす
人しれぬかきねかくれの郭公ことかたらひてなかぬ夜そなき
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
四月はかりに物いひそめける人の、さ月まて忍ひけるにつかはしける 実方朝臣
忍ひねのほとは過にき郭公なにゝつけてか今はなかまし
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
五せちの命婦のもとにたかさた忍ひにかよふときゝて、たれともしらてかの命婦のもとにさしをかせはへりける 六条斎院宣旨
忍ひ音をきゝこそわたれ時鳥かよふかきねのかくれなけれは
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
兵衛佐に侍ける時、五月はかりによそなからもの申そめてつかはしける 法成寺入道前摂政太政大臣
郭公声をはきけと花のえにまたふみなれぬ物をこそおもへ
返し 馬内侍
ほとゝきすしのふる物をかしは木のもりても声の聞えけるかな
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
忍びて御覧ぜられける女のもとにて、暁、ほととぎすの鳴き渡るを聞かせ給ひて たいの先帝の御歌
ほととぎす鳴きていづくに過ぎぬらん我のみつらきしののめの空
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
五月ばかり、女のもとにまかりて、帰らんとしける暁、ほととぎすの鳴きければ 雲居の月の左大臣
五月雨にぬれてや来鳴くほととぎす飽かぬ名残の袖にたぐへて
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
つごもりの日、女、
ほとゝぎすよにかくれたるしのびねをいつかはきかんけふもすぎなば
ときこえさせたれど、人々あまたさぶらひけるほどにて、え御らむぜさせず。 つとめてもてまいりたれば、みたまひて、
しのびねはくるしきものを時鳥こだかきこゑをけふよりはきけ
とて、二三日ありてしのびてわたらせたまへり。
(和泉式部日記~バージニア大学HPより)
橘の花散る里の霍公鳥片恋しつつ鳴く日しぞ多き
(万葉集~バージニア大学HPより)
わかやとのはなたちはなにほとときすよふかくなけはこひまさるなり
(家持集~日文研HPより)
いはてかくおもふこころをほとときすよふかくなきてきかせやはせぬ
ものをこそいはてのやまのほとときすひとしれぬねをなきつつそふる
(斎宮女御集~日文研HPより)
われはまつ人はこずゑのほとゝきすよはのねをのみなきわたるかな
(麗花集断簡~古筆手鑑大成⑥「あけぼの・上(梅沢記念館蔵)」昭和61年、角川書店)
おなじ比(ころ)、夜床(よどこ)にてほとゝぎすをきゝたりしに、ひとりねざめに、又かはらぬ声にてすぎしを、そのつとめて、文(ふみ)のありしついでに、
もろともにことかたらひしあけぼのにかはらざりつるほとゝぎすかな
かへしに、「われしも思ひいづるを」など、さしもあらじとおぼゆることどもをいひて、
思ひいでてねざめし床(とこ)のあはれをもゆきてつげけるほとゝぎすかな
(建礼門院右京大夫集~岩波文庫)
なけきのみしけきみ山の時鳥木かくれゐてもねをのみそなく
(大和物語~バージニア大学HPより)
おもふ事侍けるころ、ほとゝきすをきゝて よみ人しらす
おりはへて音をのみそなく郭公しけきなけきの枝ことにゐて
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)