今週も前半を中心に複数のFRB高官の講演などが予定されており、市場の関心を集めている。
30日は、連邦公開市場委員会(FOMC)の副議長を務めるNY連銀のウイリアムズ総裁が労働市場が依然として強い中で物価上昇のピッチが急すぎると指摘。「しばらく景気抑制的な政策が必要になり、短期間だけ実行して軌道修正するようなものではない」とし、「需要を供給に見合う水準まで抑えていくには長い時間が必要で、おそらく来年も続くだろう」と述べた。
26日のパウエル議長の発言をいわば念押しするような形で、景気を押し下げる水準まで引き上げた金利を一定期間維持する方針を市場に再認識させることになった。2023年に利下げが実施される可能性は現時点で低いという見方が、改めて確認されることになった。同総裁は、FRBは政策金利を3.5%を幾分上回る水準に引き上げる必要があるとの見方をしている。ただし、次回9月の会合での引き上げ幅については、(市場も予想どおり)何ら示唆的な発言はなかった。
昨日ここで取り上げたが、材料になったのが発表された7月の求人件数だった。
7月の米雇用動態調査(JOLTS)の求人件数は19万9000件増の1123万9000件と、減少を読んでいた市場予想(1045万件)に対し、増加した。6月分も1069万8000件から1104万件に大きく上方修正された。一方で、総失業者数は減少傾向で、567万人と、新型コロナ禍以降で最低となった。求人件数は総失業者数を556万9000件上回っており、ほぼ2倍。1人の失業者に対して2つの求人があることになる。 労働市場の強さがFRBの強気引き締め策の背景となっており、求人件数の結果は利上げを後押しするものとなった。
この日発表されたコンファレンス・ボード(CB)の8月の消費者信頼感指数も103.2と、4カ月ぶりに上昇し、市場予想の97.7を上回った。こうした経済指標の良さが利上げをサポートし、逆に株式市場などでは悪材料として売りの手掛かりとなった。NY金にとっても同じだが、こちらは結果に対しドル指数(DXY)がどう反応するかワンクッション入ることになる。
そのドル指数(DXY)は30日、一時109.111と前日に付けた2002年9月以来20年ぶりの高値となる109.478に迫ったものの維持できず、前日の水準に押し戻されて108.773で終了となった。高値水準に変わりはないものの、さすがに109ポイント台では上値が重くなり、押し戻される展開だった。
ドイツ連邦統計庁がこの日発表した8月の消費者物価指数(CPI)速報値は、欧州連合(EU)基準(HICP)で前年比8.8%上昇となり、7月(8.5%上昇)から伸びが加速。約50年ぶりの高水準となったことで、ECBが来週大幅利上げに踏み切る根拠になるとの見方から、ユーロが買われたことが、DXYの上値を抑えた。
NY金が7月中旬のように1700ドル割れを試すに至っていない背景に、大幅利上げ観測に支えられたユーロの踏ん張りがある。それでもユーロドルは、1.0017ドルとかろうじてパリティを維持している状況で、売り込まれるとDXYが直近高値更新となり、NY金は1700ドル方向を試すことになる。ただし、そこは現物の買いが入ると思われる。
なお、現在、日経ヴェリタスに4回シリーズで「激動の時代 金投資を考える」と題して連載中です。掲載ベースでは8月20日に始まり9月10日まで続きます。9月3日が第3回目となります。