先週末26日の通称ジャクソンホール会合でのパウエルFRB議長のタカ派発言は、さすがに週末をはさみ、初動の反応より冷静な値動きが戻りつつある。
29日はNY時間外のアジア午後からロンドン午前の時間帯に、主要通貨に対しドルが上昇。ドル円相場が一時139円台に入るなど、週明けのアジア株が下げる中でドル買いが先行した。ドル指数(DXY)は一時109.478と7月14日に記録していた年初来高値(109.294)を更新。この水準は2002年9月以来20年ぶりの高値水準となるもの。NY金はDXY上昇に反応したファンドの売りに一時1731.40ドルまで下落し、これがこの日の安値となった。また同じ時間帯に米国債市場では売り先行の流れが続き、指標となる10年債利回りはNY早朝に3.127%と2カ月ぶりの高水準まで上昇。これも、金市場では売りを誘うことになった。ただし、こうした為替市場と米債市場の動きもNY通常取引入り後は沈静化し、ドル買い、米国債売りが一巡すると、金市場は買い直しの動きに転じ、下げ幅を縮小して前週末とほぼ同じ水準で終了。30日も1750ドル前後で推移している。
米国株も続落とはなったものの売り一巡という印象で、雰囲気としては本日から始まる各種指標の発表待ちという状況にある。今夜のNYは7月の雇用動態調査(JOLTS)が発表される。求人件数を表すが6月は1070万件だった。これでも2021年9月以来最小となるが、採用件数は640万件なので、米国の雇用市場は好調が続いているといえる。FRBが強気の引き締め策を続けられる背景でもある。仮に1000万件割れとなると悪くはないが、市場は減速を意識しだすと思われる。
週末2日発表の8月の雇用統計は前月比の雇用者数の伸びは30万人予想となっている。予想の2倍規模の52.8万人増となった7月からは減速するが、現状20万人以上であれば好調維持といえるもの。失業率も前月比変わらずの3.5%となっている。今後「痛み」を伴うとパウエル議長はしたが、FRBは4.2%程度まで上昇することを想定しているとみられる。
パウエル議長の講演後の市場の反応に対しては29日、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁がメディア・インタビューに答えて、「(市場の)受け止めを見て、私は素直にうれしかった」と株式市場の急落について語っている。「インフレを2%に戻すことに対する我々の真剣度が理解された」とした。ダウが1日で1000ポイント超下げた反応が、好ましいというわけだ。そうでなくては困ると。 大幅引き締めを喧伝しても信用せず、そのうち利下げもあり・・・とまで受け取った市場の反応は、そのままFRBの信認が落ちているとの受け止め方となっていることを表す。
インフレ高進を見誤ったことに対する負い目もあるが、そもそもパウエル議長は過去に政策方針を短期間で変えてきた経緯があることから、自業自得という側面もある。2019年当時のトランプ政権というより、トランプ大統領の属人性の政策といえるが、中国との関税賦課合戦が始まり、その影響をFRBは懸念したとされる。そこで夏から秋にかけて(7、9、10月)3連続利下げを“予防的措置”として実施した経緯がある。これで株式市場は大きく上昇したのだった。
今回、株式市場が先行きの利下げまで織り込みにかかるのには、過去の経緯がある。
いまでは「見通しでは政策は変更しない」、データに基づいてその都度判断するということになっている。 いずれにしてもFRBは現在、信頼低下により、この先も物価上昇が継続するという一般や企業の見方が定着するのを回避することに全力を挙げており、今回のパウエル議長のタカ派発言もそれを狙ったものだった。