特に、大地と月と太陽の象徴的な意味に関する記述が、すばらしい。何度でも読み返したくなる。ユングが好きな人は、読み比べてみるといいかも。
ユングと違う点もある。バッハオーフェンは、海は男性だと主張している。海は母なる大地に従属する存在で、大地に湿り気をもたらし、生命を発生させるという。これに対して、ユングによれば海は女性になる。朝に太陽を産み出し、夕に飲み込む「恐ろしい母親」。
どちらが正しいかは、わからない。ただ、バッハオーフェン説だと「ヴィーナスの誕生」の神話が説明しにくくなるのではないか。
最後に書いておくと、バッハオーフェンは無条件に女性を賛美しているわけではない。彼の賛美は、「子供を産み育てる」女性の機能と不可分のものだ。もしも彼が、「自己実現」のために出産を二の次にする現代の風潮を見たら、「(生殖を拒否する)アマゾン的だ」、と批判することだろう。
彼の主張は、プラトンの「イデア論」に近い。「取るに足りない個性を捨てて、初めて人は真の個性を得ることができる」。
「産み育てる女性」、という祖型。それなしに「母権」は成立しないのにゃ。