ぼくの村にジェムレがおりた/小林 豊/理論社/2010年初版
日本から西へ1万キロ、アナトリア高原にすむ少年オルタンは、朝から村ではもう飼っている人も少なくなった羊の世話。
オルタンのお兄さんは都会へ働きにいっており、きのうまで学校でいっしょだった友だちも引っ越し。
春になっても村にはまだ一滴の雨も降らない。この村で何十年ぶりかで雨乞いが行われることに。さむい冬のあいだ、ねてばかりいたおじいちゃんは「さあ、ひさしぶりの仕事だぞ」と馬に語りかけ、村の人たちと石の柱が10本たっている山の草原へ。
石の柱の前に箱を置いて、ごちそうをならべ、火をたくと、ほのおが上がり、煙がまっすぐ天にのぼっていきます。
村の人びとが祈り、おどると、山からつめたい風がふいてきて、空の一点に黒い雲があらわれ、雨が降り始めます。草や木も畑も山もうれしくふるえ、オルタンはみどりを増した草原に羊をつれていきます。
この絵本の背景には、もともと遊牧民だったユルックの人びとが、トルコの定住化政策の中で農耕を中心に生活をはじめたことがあります。
定住化した人たちの血に流れる遊牧民としての誇りと自然のへの畏敬の念は、今も生きているという。
冒頭に「ジェムレがおりた」「ジェムレは春のしるしのようなものじゃ」とおじいちゃんにいわれたオルタンは、ジェムレってなんだろう?ジェムレは、どこにおりたのか?と思う。
雨乞いで雨がふるとは信じていなかったオルタンに、都会からかえったお兄さんは「おじいちゃんは自然と話ができるんだ」と話してくれます。
アナトリア高原は東洋と西洋をつなぐ渡り廊下のようなところで、東と西の宗教や言語、習慣が混じりあい、反発しあいながら独特の文明を築いてきたという解説があります。