どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

預言者スレイマンの魔法の杖・・タンザニア ザンジバル島につたわる話

2013年10月16日 | 昔話(アフリカ)

   預言者スレイマンの魔法の杖/大人と子どものための世界のむかし話13/宮本正興・編訳/偕成社/1991年初版


 語る人が、はじめに「ハディシ(お話) 、ハディシ(お話)」というと、聞き手の全員が「ハディシ、ンジョー。(お話、出てこい)」とこたえる様子がうかんできます、

 このお話は、預言者がさまざまな奇跡をおこしても、さいごまで不信心だった男の話。

 預言者が旅にでようとすると、となりに住んでいた不信心な男が、一緒につれていってくれとたのみ、二人で旅にでる。イスラム教では一日に5回のおいのりをするのがしきたりであるが、預言者がおいのりをしているとき、不信心な男は、預言者からあずかった3つのパンのうち、一つを食べてしまう。おいのりをすませた預言者と男は一つずつ、パンをたべるが、それだけでは満腹しなかったので、もう一つパンを食べようとするが、そのパンは男の腹の中。もう一つのパンはどこにあるか預言者からたずねられた不信心な男は、「もうひとつパンがあったのですか。わたしは知りません」ととぼける。
 預言者はこの男をイスラム教に入信させ、正直な人間にしなければならないと考える。

 二人は、海の向こうの島にわたろうとするが、渡しの舟が見つからない。そこで、預言者がもっていた杖で水面をたたくと、沈まずに海をわたることができる。

 旅をつづける二人。おなかがすいたとき、預言者はガゼルをつかまえて、その肉を焼いて食べるが、食べ終わったガゼルの骨を杖でぽんとたたくと、食べてしまったガゼルがもとどおりの姿になってどこかへ走っていく。

 さらに旅をつづけたふたり。預言者は牛飼いにであい、牛をくれるよう頼み込み、その牛も食べてしまうが、杖で牛の骨をぽんとたたくと、牛はもとどおりになって、仲間のむれにもどっていく。

 預言者は、奇跡をみせたあとで、3つ目のパンは誰が食べたか男に聞くが、やはり不信心な男は自分が食べたとは白状しない。

 このお話、笑い話の部分も含めまだまだ続く。

 日本の昔話には登場しない預言者が、さまざま奇跡を起こすのを素直に楽しみたい昔話。

 タンザニアは、イギリスから独立したタンガニーカ共和国と、インド洋にうぶザンジバルが1964年に合併してできた国。ザンジバルという語源はペルシャ語で「黒人の国」を意味するという。また、タンザニアでは、他のアフリカ諸国に多く見られる、特定部族による政権の独占や民族による投票行動が見られないことがあげられるという。複数政党制導入時に民族を基盤とした政党結成が禁じられたこと、国内に特別大きな民族グループが存在しないこと、スワヒリ語による初等教育と、教育プログラムに盛り込まれた汎タンザニア史などを通じてタンザニア人としてのアイデンティティ創出に成功したことなどが理由になっているという。