小さな町の風景/作・杉みき子 絵・佐藤忠良/偕成社文庫/2011年
学校でバレー部に入り、早朝のジョッキングを続けていた少女が、折り返し地点の橋で、いつか出会うようになった白髪の老女。
ほぼひと月に一回の割合で会う老女が、白い紙きれを川へはなそうとして、風に吹き上げられた紙を拾い上げるのにも苦労しているのをみます。
紙を川に投げるのに苦労しているさまを見て、少女は紙飛行機の要領で飛ばしてあげます。
老女は、その紙に向かってじっと両手を合わせていました。
老女の一人息子が兵隊にとられ、遠い南の海で遺体もあがらぬ死をとげてから、家を出た日を命日ときめて、心をこめた経文を写し、海に流すことがひとつのなぐさめとなった老女。
体はよわり、やっとのことで書き写した経文を投げる力もなくなったと話す老女に、よかったら私がおばあさんのかわりに、ここから紙を投げてあげましょうかと少女はいいます。
一か月後、少女は小さな折り鶴を水に飛ばします。白い折り鶴は<平和>と大きく書かれたつばさを、いっぱいひろげて、矢のように川をくだり、やがて海にむかって見えなくなります。
老女や少女のくわしいことはなにもでてきません。
語っていない部分から想像力を働かせ、思いを巡らせる必要がありそうです。