どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

漁師の息子・・スロベニア

2019年06月09日 | 昔話(ヨーロッパ)

       命の水 チェコの民話集/編: カレル・ヤロミール・エルベン・編 出久根 育・絵 阿部 賢一・訳/西村書店/2017年


 地主の使用人の漁師が、宴の魚を釣りにでかけますが、二日たっても一匹もつれません。三日目の昼過ぎ、意気消沈してかえろうとすると緑の服をまとった男が小舟に乗ってあらわれます。
 緑の服を着た男は、「おぬしがもっているが、もっているとはわからないものをわしに渡す約束すれば、魚はたっぷりつれるぞ」といいます。

 漁師が約束に応じると、魚は釣れに釣れ、四頭の馬で荷車をひて帰らなければならないほど。
 緑の服の男は、漁師の妻が身ごもっていて、男の子が生まれる。二十年たったら、またやってくことにしようといいます。たしかに、もっているとはわからないものでした。

 漁師は男の子を黒魔術の学校に通わせます。二十年たってドナウ川のほとりにくると、緑の服をまとった男がやってきて、二人を乗せた小舟は地下の呪われた町にたどり着きます。

 ある城にたどりついた若者の前に大きなヘビがはってきて「わたしに口づけをしてくれ」とお願いします。
 若者が「近くに来るな、悪魔! ぼくにはどんな魔法も効かないぞ」とさけぶと、ヘビはいなくなってしまいます。
 ヘビに口づけすると、すべてうまくいくという夢をみますが、二日目に頭が二つあるヘビがあらわれたとき、若者は恐怖に打ち勝てず、また罵り言葉を口にします。

 三日目には頭が三つあるヘビがはってきたとき、若者は今度は夢で見たように口づけします。

 するとヘビは美しい娘にうまれかわります。ヘビは城主の娘で呪いがかけられていたのです。

 城も町全体も呪いがとかれ、娘の両親は、娘と王国を君に進呈しよう、もし君がその気があればだがと、これ以上ないことをいいます。

 父親が地獄にでも落ちて心配しているはずと、まずは父親のところにもどり、近況を伝えたら、ぼくの気持ちもはれるだろうと父親のところへもどろうとします。

 「かならずもどってきてね」という娘に、若者は戻ってくると約束します
 娘は指輪をわたし、「行きたいところを願うとすぐに行ける、指輪を透かしてみて、わたしのところに戻りたいと願えばわたしのところに戻れる。でも指輪を誰かほかの人にみせちゃだめ、そうしたら指輪がなくなってもどれなくなるから」といいます。

 両親のところに戻った若者に、地主がふたりの娘のどちらかと、土地の一部をやろうといいます。地主の二人の娘と散歩しているとき、若者は指輪の力を話してしまいます。それを聞いた娘たちは、指輪を奪えな、この人はここに残るはずと、指輪を奪い、どこか道の途中でなくしてしまったと思わせます。

 故郷で五年ほどすごした若者は、ようやく地下の町をめざして旅に出ます。森の中で宿をこうと、そこは三人の兄弟がみんな盗人の家。

 ここで、三十分で二百マイルいける靴、着ると誰にも見つからない外套、山が道をあけてくれるという山高帽をみつけ、試してみるからと、そこから離れます。

 太陽に聞いても地下の町はどこかわかりません。太陽から月にきいてみるがよいといわれ、月にきいても地下の町の場所はわかりません。次に風に聞くと場所がわかりますが、目の前には大きな岩山。山高帽で岩山がわれると、そこでは結婚式がおこなわれるところでした。地下の町の娘は七年間若者を待つと約束していたのですが、まだ七年間は経過していませんでした。

 司祭が式をとりはじめたとき、聖書が地面に落ちて、新婦にたずねると、七年間待つと約束した男性がいたことをはなしたので、司祭は、それでは、ほかの男性と結婚することはできないと告げます。

 司祭から、あなたが愛しているのはここにいる男性か、ここにいない男性のどちらかを聞かれた新婦は、「ここにいない方の方です。でもあの人とは二度と会えないと思います」と、答えます。

 胸がいっぱいになった若者が、外套を脱いで姿をあらわすと・・・。


 瞬間移動ができる指輪と、姿が消える外套は、別の物語にでてきても不思議ありません。

 ここにでてくる黒魔術とは、通常、呪術で悪霊の力を借りるなどして相手を呪う術は全てこれにあたるとされ、自分の側に不都合な魔術は全て黒魔術とする分類もあり、「自分にとって認められないもの」という以外に厳密な用法はないといいます。