かじ屋と妖精たち/イギリスの昔話/脇明子:編訳/岩波少年文庫/2020年
妖精も子どもを育てるのは大変。
大好きな遊び場所があっても、おちびさんたちが泣き続けるので、ダンスもままなりません。
あるとき妖精のお母さんがいいことをおもいついて、あるおばあさんの黄色いチューリップの花の内側にそっと赤ちゃんを寝かせました。子守唄を歌うと、赤ちゃんはぐっすり寝込んだので、妖精は急いで家に帰り舞踏会用のドレスに着替えて舞踏会場に到着。ところがほかのお母さんたちは、いつも以上に子どもに手がかかり舞踏会がお開きになるころやっと会場に着くしまつ。
次の晩は、ほかの妖精のお母さんたちも、赤ちゃんをチューリップ畑につれていってダンスを楽しみました。
それから、おばあさんのチューリップは、色合いもますます豊かに、甘い香りまで漂わせるようになりました。
一人暮らしのおばあさんのチューリップ畑には、ピンクや赤いのや、黄色いのや、白いのや紫のものありました。妖精たちがチューリップをゆりかごの代わりに使うと、花はますます美しくなりました。
ところが、ある寒さの厳しい冬に、おばあさんは、この世を去りました。小さな家はある男の手に渡りましたが、その男は花などには関心がなく、ユーリップの球根を全部掘り起こしてパセリを植えました。妖精たちは、自分の権利を侵害されると男への復讐を誓います。
パセリが緑の頭をのぞかせはじめると、妖精たちはそれをしなびさせ、男がタマネギやニンジン、キャベツをうえても、結果はおなじでした。男は精魂つきはてて、畑に手をかけるのをやめ、ただほおっておくことにした。
ゆりかごをうしなった妖精たちは、満月の晩に、おばあさんのお墓で追悼の歌をうたい、世話をしました。そのお墓のまわりには、季節ごとに、みずみずしく香りのいい花が、次々に咲きました。妖精たちは何年も何年もお墓の世話をつづけていきました。
満月の晩に、だれよりも美しい声で歌っていたのは、最初に黄色いチューリップをゆりかごにして眠った、ほかならぬ あの赤ちゃんでした。
これまであまりみられない幻想的な昔話です。最後にもういちどチューリップが咲くかと思っていると、ややつきはなされたおわりかた。チューリップは一年中咲くわけではないので、妖精の舞踏会は春だけだったのでしょう。