どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

アンテムさんのすいか

2021年01月22日 | 絵本(昔話・外国)

   アジア心の民話④/語りおじさんのベトナム民話/坂入正生:編・語り 小島祥子・絵/星の環会/2001年

 

 ベトナムの王さまの召使にアンテムさんという人がいました。アンテムさんは幼いころ海賊にさらわれ、奴隷として売られてきた人でした。

 アンテムさんは命の恩人の王さまのために、一生懸命どんな仕事もがんばりました。

 王さまは、アンテムさんが忍耐強く働く姿を見て、だれよりも信頼し、何をするにもアンテムさんに相談しました。

 そんなある日、一人の家来が「王さま、王さま、アンテムには、お気をつけてください。今に王さまを裏切り、王さまを亡きものにして、自分が王さまになろうとしているのですよ」と、陰口を言いました。

 王さまは信頼を裏切られたと思って、アンテムさんの家族を、南のはなれ小島に流してしまいます。

 誰も住んでいない島で、アンテムさんは、果実を探したり、狩りをして飢えをしのぎました。

 ある日、海辺で沖をとおる船を見つけようと、長い時間すわっていると、白い雉が糞を落としていきました。糞には何かの黒い種が入っています。

 アンテムさんは「もしかして、この種を植えたら、食べるものが生えてくるかもしれないぞ」と、種をまきました。明るい太陽の光があふれる土地で、毎日水をあげていると双葉が芽吹き、ずんずん大きく育っていきました。蔓もずんずんのび、実がつきました。実を割ってみると、真っ赤な色に黒い種。おいしそうな甘い香りでした。その甘くておいしいこと。

 食べた残りの種を、また地面にまくと、また芽が出て、蔓がのび、実がつきました。やがてはなれ小島は、蔓がはい回り、島全体が甘い香りのみちた緑豊かな島になり、船乗りたちがやってきて船の商品と赤いメロンのような甘い実を交換していきました。

 あるとき、アンテムさんは、王さまのことをなつかしく思い出し、赤いメロンに印を彫りつけて海に流しました。赤いメロンは王さまのもとにとどきます。

 王さまは一目見るなり、島流ししたアンテムさんが生きていることを知り、さっそく船を出して、はなれ小島までむかえにいかせました。王さまも島流しのことは、家来がアンテムさんを陥れようとした嘘だとわかっていました。そしてアンテムさんは、むかしのように王さまのもとで働くことになりました。

 この赤いメロンは、のちに「すいか」と、よばれるようになりました。

 お城でみんながすいかを食べるようすはとてもおいしそうです。