島根のむかし話/島根県小・中学校国語教育研究会編/日本標準/1976年
カッパは日本各地で共通かと思っていると、島根では”かわこ”という。昔話は、地域の言葉が反映していないと味が出ません。共通語にすると、微妙な味の違いが薄れます。
かわこの中でも、力の強いのがおって人間を困らせていた。
ある男がこのままでは、人間がばかにされてしまうと、牛のせなかに、かわこのすきな、あぶらげやとうふをいれた桶をつないでおいた。かわこは、いいにおいにひかれて、牛に近づき、桶のなかのものを食べようとした。しかし、桶に少しでも触れば、すぐにわかるように鈴がつけてあったので、かわこが、桶の中に手を入れると、「カラン、カラン」となり、その鈴の音で、牛がおびえてかけずりだした。
かわこは、牛に引っぱられて、からだじゅうがきずだらけ。そのうえ、さらの水がだんだんなくなって、力が抜けてしまった。
男が、ぐったりしたかわこを、もっていた鎌でたたくと、かわこは、「もう、悪いことはしません。どうぞこらいでください。」と、泣き泣きわびて、「こら、どんな病気にでもきく薬です。これをさしあげます。」と、ちいさな袋をさしだした。
男は、どんな病気でもきく薬ならと、薬をもらって、かわこをにがしてやったと。