三重のむかし話/三重県小学校国語教育研究会編/日本標準/1977年
隣村へ行くのも大変な村に住んでいたひとりのばさまがいた。このばさまが、枯れた葉をどけながら薪を集めていると、がけのとこがどっさとくずれてきて、人が一人とおれるほどの穴があいた。だれか食い物でもかくしているか、それとも宝物をかくした穴かもしれないとすすんでいくと、むこうのほうがぼんやり見えた。ゆっくりゆっくりすすんでいくと、枯れ枝の隙間からお日さまの光がもれていた。枯れ枝をのけて、頭をだしてみると、林の中だけど、道が一本ずうっと向こうまで通っていた。ここを通ったら、よその村へ行くのもよさそうだった。
それからは、ばさまはこの抜け道をこっそり通って、東の村へ麹を買いにいったり北の村へこんにゃくを買いにいった。
それからだいぶたって、となりのじさまが薪をひろっていると、むこうのほうで薪をひろっているばさまを見かけたのでみていると、ばばのからだが急に消えた。ばばをよんでも返事がない。こわごわ近づいてみると、穴があるのでのぞいてみると、ばばがきゅうに、にゅうと顔を出した。ばばは、「お前見よったな。この抜け道は、わしのもんやぞ」とこわい顔をしていった。
よその村へいくのに、近い道を通りたいのはじさまもおなじ。「だれにもいわないから、わしも通させてくれ」とたのむと、ばさまは、「どうしても通りたかったら、アワ一合もってこい」とこわい顔で言った。つぎの日から、じさまは、抜け道を通るたびに、アワ一合を出すことになった。
それから、だいぶたってから、抜け道のことを聞いて、通させてくれと頼むものが多くなった。すると、ばさまも欲が出てきたのか、はじめアワ一合だったのが、二合になって、十日もたたないうちに三合ださないと通さないというようになった。
ばさまは、穴の入り口にむしろをしいて、雨が降っても、風が吹いても、抜け道の番をするようになった。ばさまの髪はのび、着物もきたなくなり、目だけがひかって、ばけものみたいに恐ろしくなった。そんなばさまを見て、村のひとらは、「三合ばさま」といって、近寄らなくなった。
それからずっと年がたって、抜け道を通らなくても隣の村へいく道ができた。だれも三合ばさまの道を通らなくなっても、ばさまは、穴の入り口にすわって番をしていた。それからさき、ばさまがどうなったかは、だれも知らんかった。
あまりみられないパターンの昔話です。