おおにしせんせい/長谷川善史/講談社/2019年
五年生になって一週間。今日の一時間目は国語。しかし新しい担任の おおにしせんせいが「きょうは いちじかんめから ろくじかんめまで 図画工作」といいだし、みんなにわたしたのは、ふとい筆一本、パレット替わりの下敷き、バケツ。
学校の中で自分の描きたいところを選びなさいといわれ、まっさん、こうちゃんとぼくが目をつけたのは廊下。
「ここやったら すぐ おわる。あとのじかんは ちゃんばらごっごや」と、すぐにかきあげ、ちゃんばらごっこ していると ごつい おおにし先生の姿。
これは かみなりが 落ちるかと 思うと「このろうか、その ちゃいろに みえますか。えのぐ そのままの ちゃいろい いろか。よーく みてみ。ろうか さわってみ」と先生。そういわれて、ぼくが ろうかをさわってみると さいしょは つめたかったが、しばらくすると ちょっと ぬくく かんじた。耳を近づけてみると、しずかやねんけど がっこうのおとが きこえて においをかいでみると あぶらのにおい、ほこりのにおい、みんながあるいた におい。
給食のパンを食べながら、廊下のことを かんがえて さっきの廊下に もどると さっきの廊下と ちがってみえた。黄色に見えるところは 絵具の黄色と違う。あおくみえるところ、あかるくみえるところ。もう 絵具の 茶色やなかった。ぼくは ぼくが かんじる 廊下をかきはじめた。
先生は絵をかく前に「からだが うごいたら はらが へる まえに、こころがうごくんや。よーく みて えがくんや」といい、ぼくが 絵をかきおわると、「よっしゃ! きがついたな。えのぐの ちゃいろと ちがいますやろ。いろんな いろがかさなって それがほんまの、あんたの ろうかや」「こころが うごいて はらが へったんや」と、声をかけました。
二ページにわたる廊下の微妙な色使いが圧巻です。
長谷川さんの担任だった先生がモデル。学校は木造校舎で、木の廊下であればこそ描けた絵だったのかも。
昭和にはまだ先生の創意工夫がいかされる余裕があったように思いますが、現在の教育現場では、一日すべてを図画工作にあてるというのは考えられません。
自分の将来を左右するほどの先生との出会いが 子どもたちに ありますように。