兵庫のむかし話/兵庫県小学校国語教育連盟編/日本標準/1978年
ひとのいいおじいさんと、ちょっとおどかしながら、福を運ぶキツネの話。
寒い寒い晩のこと、トントン「こんばんわ、半兵衛さん」と、小屋の戸をたたくものがあった。「いまごろ、だれじゃい」と、半兵衛さんが戸を開けると、月の光にてらされて、なんとまあかわいいむすめがたっていた。
話を聞くと、川の向こうの村のおっかさんが死にそうなので、薬を届けたいので、川を渡してほしいという。かわいそうに思った半兵衛さんは、むすめを背負い、冷たい川をわたった。娘は、人とはおもえんほど軽い。聞けば、むすめは、おっかさんを のまずくわずで探していて、三日も何も食べていないという。
小屋に帰って戸を開けようとしたとき、首筋をさあっとなでられて、半兵衛は身震いした。見ると、川を渡したはずのさっきのむすめが うしろにたっていた。半兵衛は、「おのれ、人をだましくさって」と、むすめを柱にくくりつけ、あついおかゆをフーフーたべた。むすめはそれをみて、ぼろぼろ涙を流した。かわいそうになった半兵衛が、おかゆのおわんを娘の前におくと、むすめは おかゆを おいしそうにすすった。むすめは、二杯目、三杯目も、おいしげにたべた。
いつのまにか、半兵衛がいろりのはたで、よこになって、ねてしもった。体中が冷たくなって目がさめると、柱にくくりつけたはずのむすめがおらん。「また、だましくさったか。」半兵衛は、おこって小屋の戸を開けた。すると、ゆうべのまに降り積もった雪のうえを、いっぴきのキツネが、しっぽを金色に光らせて、逃げていきよった。
「ちくしょう、やっぱりそうじゃったんか。いまいましいやつじゃ。」半兵衛が、むすめをくくりつけとった柱を見たら、柱はひとたばのワラにかわっていた。半兵衛が腹をたて、ワラを引き抜こうとすると、チャリンと音がした。「はてな。」とみると、ワラの先に、大判小判が、キラキラ光ってぶらさがっとったんじゃと。