京都のむかし話/京都のむかし話研究会編/日本標準/1975年
京見物をしたいと、せっせと銭をためていたぶんぶく。
ある日、魔物が出るという上林の川っぷちをとおりかかると、きゅうにきれいなあねさんすがたの女の人が現れ、「わてはこの淵の主でなあ、あんた近いうちに京見物に行くこと、よう知ってとるんじゃ。それでひとつ、たのみがあるんじゃが、この手紙を京のみどろが池の主んとこへもっていってくれないか」という。ぶんぶくが、どないしようかと思案しとる間に、その女の人は、手紙と一文銭を百ほどさした細い縄(銭さし)を一本おいて、また、すぅーと淵の中にきえてしもうたげな。
それからしばらくして、村の衆と京見物にでかけたぶんぶく。とちゅうで、めし代やらはたご代に、その銭さしから、十文、二十文とはらっていたが、その銭さしの銭は、あくる朝になると、ちゃんともとの百文になっとるんじゃ。ふしぎなことあると思っていたぶんぶくは、そのことを人には話していなかった。
京についたぶんぶくは、ねっからの正直者やさかい、さっそくみどろが池に、たずねて行った。そこへいくとちゅうに、口が耳までさけた、大きな犬が二ひき頑張っているといわれたが、きっと目を閉じてそこを通り抜けたぶんぶく。その淵から、最初のあねさんにもまけんくらいきれいな女の人があらわれた。
手紙を受け取った女の人は、「まあ、ちょっとおこしやす」と、ぼぅっとしているぶんぶくの手を取って、池になかにつれていった。水の中といっても、ちっとも冷たくもないし、息苦しくもない。そこには、いままでみたこともないようなきれいな館。ここで三日すごした、ぶんぶくは、京で帰りを待つ仲間のことを思い出し、帰ることに。
みどろが池のあねさまから、金がいっぱいはいった袋をおみやげにといわれるが、ぶんぶくは、重いものは旅の荷物になるさかいと、これを辞退すると、あねさまがお土産にくれたのは、手のひらにのるくらいの小さな白犬。この小犬は、一日に米ひとつぶやったら、金のつぶ三つ生みという小犬。
京に帰ってみると、仲間も宿の番頭さんも知らん人に。それもそのはず、みどろが池の一日は、ふつうの三年にもあたっとったげな。
九年たって、村へもどったぶんぶく。ぶんぶくの おっかさんは、一日に三つの金のつぶでは、ものたらんようになって、一升ますの米を、むりやり食わせると・・。
竜宮伝説やら、金のつぶを生む小犬に、むりやり食べさせて、元の木阿弥になるなど、どこかで聞いたことがある話です。銭さしは、どうなったことやら!