けんぽう」のおはなし/作:井上 ひさし 絵:武田 美穂/講談社/2011初版
井上さんが子どもたちに憲法をテーマにした話をもとに作られらた絵本。
井上さんは2010年4月になくなられていますが、今日の事態を予想されていたのかもしれません。
素直な気持ちで、憲法を読んでみるとあたりまえのことをのべているのですが、あたりまえのことがあたりまえでないのが異常ともいえます。
99条で、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負うとあるのですが、まったく義務を負おうとしないのが、今の政府のようです。
昭和25年に文部省からだされた中学校社会科用「あたらしい憲法のはなし」で、戦争の放棄について
次のように説明していますが、当時の雰囲気がよく伝わってきます。
なんでいまのようになってしまったのか暗澹たる思いがします。
みなさんの中には、今度の戦争に、おとうさんやにいさんを送りだされた人も多いでしょう。ごぶじにおかえりになったでしょうか。それともとうとうおかえりにならなかったでしょうか。また、くうしゅうで、家やうちの人を、なくされた人も多いでしょう。いまやっと戦争はおわりました。二度とこんなおそろしい、かなしい思いをしたくないと思いませんか。こんな戦争をして、日本の国はどんな利益があったでしょうか。何もありません。ただ、おそろしい、かなしいことが、たくさんおこっただけではありませんか。戦争は人間をほろぼすことです。世の中のよいものをこわすことです。だから、こんどの戦争をしかけた国には、大きな責任があるといわなければなりません。このまえの世界戦争のあとでも、もう戦争は二度とやるまいと、多くの国々ではいろいろ考えましたが、またこんな大戦争をおこしてしまったのは、まことに残念なことではありませんか。
そこでこんどの憲法では、日本の国が、けっして二度と戦争をしないように、二つのことをきめました。その一つは、兵隊も軍艦も飛行機も、およそ戦争をするためのものは、いっさいもたないということです。これからさき日本には、陸軍も海軍も空軍もないのです。これを戦力の放棄といいます。「放棄」とは、「すててしまう」ということです。しかしみなさんは、けっして心ぼそく思うことはありません。日本は正しいことを、ほかの国よりさきに行ったのです。世の中に、正しいことぐらい強いものはありません。
もう一つは、よその国と争いごとがおこったとき、けっして戦争によって、相手をまかして、じぶんのいいぶんをとそうとしないということをきめたのです。おだやかにそうだんをして、きまりをつけようというのです。なぜならば、いくさをしかけることは、けっきょく、じぶんの国をほろぼすようなはめになるからです。また、戦争とまでゆかずとも、国の力で、相手をおどすようなことは、いっさいしないことにきめたのです。これを戦争の放棄というのです。そうしてよその国となかよくして、世界中の国が、よい友だちになってくれるようにすれば、日本の国は、さかえてゆけるのです。
みなさん、あのおそろしい戦争が、二度と起こらないように、また戦争を二度とおこさないようにいたしましょう
この本をよんだ子どもの感想に「お母さんによんでもらった。日本に生まれて良かったと思った。」とあるのですが、これからもそう思える社会を未来に残していくのが、大人の役割でしょう。