小さいやさしい右手/北風のわすれたハンカチ/安房直子 牧村慶子・イラスト/ブッキング/2006年
初版が1971年というので、安房さんが28歳の作品。
安房さんは、グリムやアンデルセンに親しんでいたようで他の作品ではあまりそのことを感じたことはなかったのですが、昔話の世界が感じられる作品です。
まものがでてきて、姉妹がでてきますが、妹はまま子。
姉妹は、うさぎに食べさせる草を刈るため、毎日のように野原にでかけますが、上のむすめはよくといだ鎌で、下のむすめの鎌はさびた古い鎌。
上のむすめは、お昼すぎに草を刈り終わるのですが、下のむすめは、星が二つ三つ光りはじめるころに、やっとかえる毎日。
姉妹がいて、まま子が母親からいじわるされるのは、昔話のでだしです。
姉妹をかしわの木のそばでみているのは小さいまもの。
まものは、おまじないをして、右手を開くと、食べものでも、金貨でも、小鳥でも、片手に持てるものなら、ほしいものが何でもその手にはいってくるまほうをおぼえたばかりでした。
まものは、一人前になるまで、けっして人に姿を見せてはならないのです。
まものは、下のむすめに毎朝よく切れる鎌をわたします。まものはおぼえたての魔法をだれかにみてほしいと考えていたのです。
むすめは、朝、姉よりはやくかしわの木のところで、やさしい声で歌います。
小さいやさしい右手さん
あたしにかまをかしておくれ
氷みたいによくといだ
まほうのかまをかしておくれ
草を刈ることが、前よりずっと早くおわるので、不思議におもった母親が、姉に様子をみてくるように、いいつけたので、かしわの木のところで鎌をうけとっていくところを見られてしまいます。
いじわるのおっかさんは、砂糖をたっぷりとなめて、下のむすめとそっくりの声で、かしわの木のところで歌います。
すると黒い手がのびてきて、ピカピカの鎌をさしだしますが、おっかさんはそれをひったくると、その鎌でまものの右手を切り落としてしまいます。
グリムの「オオカミと七匹の子ヤギ」では、オオカミがチョークを食べて声をかえますが、ここでは砂糖をなめます。
まものはやがて二百倍も三百倍もしかえしをしようとかたきうちの誓いをたてます。
人間の姿をほかのものにかえる魔法を身につけたのは20年後。
右手を切り落としたのは、下のむすめだと思って、あちこちさがしますがみつかりません。
探したのは、子どもだけでしたから。
下の娘は粉屋のおかみさんになっていました。
太ったおかみさんは、まものにお菓子をくれますが、そのとき、昔歌ったふしで、おかみさんは、子どもの頃を思い出します。
やがてまものは二十年まえのむすめときがつきます。
自分が思い込んでいたことがまちがいだったことにきがついたまものに、おかみさんは語りかけます。
「その人のこと、許してあげられない? かたきうちをしないどころか、その人によくしてあげることよ」
まものは、どうしてもそうしなきゃならないのか、おかみさんのいうことがわかりません。
しかし、おかみさんのもっている、ひとかけらのすき通ったものを自分もほしいとおもうと、急に胸があつくなり、ポロンとなみだがおちます。だんだんはげしくすすり泣きます。
それは、まものが流すはじめての涙でした。
こぼしたたくさんのなみだが、まもののからだをすき通ると、ある朝、暗いかしわの木から、すき通るとおるように白い若者が、まぶしい日の光にとびだしていきます。
許すかわりに、若者にかわったまものは、その後どうなったでしょうか。
下のむすめが粉屋のおかみさんになっているのですが、粉屋も昔話にはよくでてきます。
後半の憎しみや怒りを許すというのは、やはり安房ワールドでしょうか。
いつもは安房作品によくでてくる食べものや、木、花、植物がでてきません。また色が感じられないのも初期の作品の特徴でしょうか。
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