茨城のむかし話/茨城民俗学会編/日本標準/1975年
親孝行の若者が、ある夕方橋のたもとでみかけた娘を、親の反対をおしきって、よめにした。
顔も姿もきれいで、大変な働き者。反対していた親も、近所にいって自分の家のよめの自慢をするようになった。しあわせな毎日をおくっていたが、だれにもまねのできないおかしなくせがあった。いつもみんなが寝静まった夜になると、こっそり家を抜け出し、夜明け近くになるとかえってはくるが、いつもからだはなんとなくひやっとつめたかった。
ある日、若者が寝たふりをして、外に出かけたよめのあとをつけていったが、橋の上までくると、すうっと姿が見えなくなってしまった。その夜は、そのままかえってきた若者は、こんどは気がつかれないように、着物の裾にぬい糸をゆわえつけておいた。つぎの晩も、若者はよめのあとをついていったが、やはり橋の上で見失ってしまった。だがこんどは、縫い糸をたよりに、あとをついていくと、よめは洞穴にはいっていった。なかをみると、思わず腰を抜かしてしまった。そこには、子どもたちにちちをのませているカッパが、しずかにすわっていた。
働き者のよめというのは、じつは川に長い間すんでいるカッパで、人間の姿にばけて、若者のところに やってきていたんだという。このことがあってから、この川のことを糸くり川と呼ぶようになったということだ。
カッパは人間に悪さをする存在とおもっていると、そうでもない。このあとどうなったか気になるが、話はそこで終わっている。