ギャンブル依存国家への道 具体策の一つ一つ監視を 作家・精神科医 帚木蓬生 視標「カジノ法成立」
その他 2016年12月16日 (金)配信共同通信社
カジノ法が成立し、わが国では初めてカジノが解禁される。首相の答弁などでは経済効果、雇用創出、ギャンブル障害(いわゆるギャンブル依存症)対策費の捻出が目的だという。
米国東海岸のアトランティックシティーの衰退、韓国の江原ランドの惨状を見ても、経済効果と雇用創出が絵に描いた餅だと分かる。今やアトランティックシティーは最も不人気なリゾート地であり、江原ランドで増えているのは質屋とホームレスと自殺者、犯罪である。
カジノ収入の一部を割いて、ギャンブル障害の治療に当てるという目論見(もくろみ)に至っては、噴飯ものでしかない。わが国のギャンブル障害の有病率は、他の先進国の3倍から10倍に当たる4・8%であり、有病者は536万人、北海道の人口に相当する。しかもこの数字は、厚生労働省の研究班が疫学調査で算出し、2014年に公表している。
この膨大な数のギャンブル症者になする国の対策は皆無である。厚労省自身がすわ一大事と色めき立った形跡もない。
治療と対策どころか、行政府は競馬、ボートレース(競艇)、競輪、オートレース、宝くじ、スポーツ振興くじの公営ギャンブルの普及に躍起になっている。タレントを使って宣伝し、インターネットや電話を通じての購入も可能にした。
そしてもう一つ、ギャンブル障害の一大温床になっているパチンコ・パチスロについては、ギャンブルではなくゲームという詭弁(きべん)を弄(ろう)し続けている。ゲームだから広告宣伝にほとんど制約がない。パチンコ・パチスロホールの数は、コンビニのローソンに近い1万1300軒であり、市場規模も全国デパートの総売り上げの3倍を優に超える、23兆円に達する。
この結果、全世界に存在する賭け事用のゲーム機器、約770万台の6割が日本に集中するという異常事態を呈している。ギャンブル障害の対策費を捻出するのであれば、とっくの昔に、30兆円規模にもなるわが国のギャンブル市場から収入の一部を割いてしかるべきだったのである。
ギャンブルが始まるのは、たいてい20歳前後である。アルコールやシンナー、覚醒剤同様に、ギャンブルの弊害についても予防教育が必要なのは言うまでもない。この予防にも、国は一切関心がなかった。今回のカジノ解禁は、ギャンブル障害の発生をものともせず、国民にギャンブルを奨励してきた暗愚の上の愚行である。
今後は、出来上がったカジノに、日本人の入場を制限するのか、入場回数制限と1日の費消額の上限を設けるのか、広告規制はどうか、ヘルプラインは設置するのか、ギャンブル症者の入場拒否はするのか、予防教育を施すのか、私たちは一つ一つ監視しなければならない。
そしてまた既存の公営ギャンブルを今後も拡大していくのか。パチンコ・パチスロをこのままゲームとして放置していくのか。そして何より「アルコール健康障害対策基本法」同様に「ギャンブル障害対策基本法」を制定し、シンガポールと同じく「カジノ規制庁」や「国家賭博問題対策協議会」を設置できるか、私たちは注視しなければならない。それができなければ、わが国は文字通り野放図なギャンブル依存国家と化す。
× ×
ははきぎ・ほうせい 1947年福岡県生まれ。「閉鎖病棟」などの小説の他、ギャンブル問題を論じた「やめられない」などの著書多数。
その他 2016年12月16日 (金)配信共同通信社
カジノ法が成立し、わが国では初めてカジノが解禁される。首相の答弁などでは経済効果、雇用創出、ギャンブル障害(いわゆるギャンブル依存症)対策費の捻出が目的だという。
米国東海岸のアトランティックシティーの衰退、韓国の江原ランドの惨状を見ても、経済効果と雇用創出が絵に描いた餅だと分かる。今やアトランティックシティーは最も不人気なリゾート地であり、江原ランドで増えているのは質屋とホームレスと自殺者、犯罪である。
カジノ収入の一部を割いて、ギャンブル障害の治療に当てるという目論見(もくろみ)に至っては、噴飯ものでしかない。わが国のギャンブル障害の有病率は、他の先進国の3倍から10倍に当たる4・8%であり、有病者は536万人、北海道の人口に相当する。しかもこの数字は、厚生労働省の研究班が疫学調査で算出し、2014年に公表している。
この膨大な数のギャンブル症者になする国の対策は皆無である。厚労省自身がすわ一大事と色めき立った形跡もない。
治療と対策どころか、行政府は競馬、ボートレース(競艇)、競輪、オートレース、宝くじ、スポーツ振興くじの公営ギャンブルの普及に躍起になっている。タレントを使って宣伝し、インターネットや電話を通じての購入も可能にした。
そしてもう一つ、ギャンブル障害の一大温床になっているパチンコ・パチスロについては、ギャンブルではなくゲームという詭弁(きべん)を弄(ろう)し続けている。ゲームだから広告宣伝にほとんど制約がない。パチンコ・パチスロホールの数は、コンビニのローソンに近い1万1300軒であり、市場規模も全国デパートの総売り上げの3倍を優に超える、23兆円に達する。
この結果、全世界に存在する賭け事用のゲーム機器、約770万台の6割が日本に集中するという異常事態を呈している。ギャンブル障害の対策費を捻出するのであれば、とっくの昔に、30兆円規模にもなるわが国のギャンブル市場から収入の一部を割いてしかるべきだったのである。
ギャンブルが始まるのは、たいてい20歳前後である。アルコールやシンナー、覚醒剤同様に、ギャンブルの弊害についても予防教育が必要なのは言うまでもない。この予防にも、国は一切関心がなかった。今回のカジノ解禁は、ギャンブル障害の発生をものともせず、国民にギャンブルを奨励してきた暗愚の上の愚行である。
今後は、出来上がったカジノに、日本人の入場を制限するのか、入場回数制限と1日の費消額の上限を設けるのか、広告規制はどうか、ヘルプラインは設置するのか、ギャンブル症者の入場拒否はするのか、予防教育を施すのか、私たちは一つ一つ監視しなければならない。
そしてまた既存の公営ギャンブルを今後も拡大していくのか。パチンコ・パチスロをこのままゲームとして放置していくのか。そして何より「アルコール健康障害対策基本法」同様に「ギャンブル障害対策基本法」を制定し、シンガポールと同じく「カジノ規制庁」や「国家賭博問題対策協議会」を設置できるか、私たちは注視しなければならない。それができなければ、わが国は文字通り野放図なギャンブル依存国家と化す。
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ははきぎ・ほうせい 1947年福岡県生まれ。「閉鎖病棟」などの小説の他、ギャンブル問題を論じた「やめられない」などの著書多数。