ドクター元ちゃん・がんになる 初めて気づいた贈り物 「キャンサーギフト」で夢実現=金沢赤十字病院副院長・西村元一
その他 2016年12月26日 (月)配信毎日新聞社
ドクター元ちゃん・がんになる:初めて気づいた贈り物 「キャンサーギフト」で夢実現=金沢赤十字病院副院長・西村元一
「キャンサーギフト」という言葉を聞いたことはありますか。インターネットで検索すると「がんという命に関わる重い病気になって初めて見える命の大切さ、時間の大切さ、周りの人々の温かさがあり、それらはがんがくれた贈り物、つまりキャンサーギフトという」と書いてありました。
自分自身が患者になる前、医師としてがん患者と向き合っていたとき、「キャンサーギフト」という言葉は、おめでたいイメージがあって使えませんでした。患者の皆さんとは「多分そんなこともあるんじゃないか」という程度に話していました。
しかし今回、自分が患者になってみると、本当にたくさんのギフトがあると分かりました。がんになって感じることが「ギフト」か「ギフトでない」かは本人にしか分かりませんが、私は、このような状況になったからこそ出会えた人、行った場所、得られた機会、それらのすべてが「ギフト」といっても良いのではないかと思います。
病気が見つかるまでの私は、いろいろな分野に足を踏み入れていたこともあり、本当に忙しい毎日でした。どれも中途半端になって、たくさんの人に迷惑をかけていたかもしれません。ふと思い出すのは、あるとき仲間の一人から「西村先生は本当は何をしたいの?」と聞かれた時です。そのとき、返す言葉がありませんでした。
恐らく周囲からは「やりたいことをやっている」というよりも、毎日の業務をこなしているようにしか見えなかったのだと思います。最初は興味があって足を踏み入れたにもかかわらず、いつの間にか業務をこなすだけになっていたようです。
ところが、昨年3月に病気が見つかり、残された人生が長くないと気付いたとき、「あと何ができるか? 何をしないといけないか? 何をやめるか?」という取捨選択を迫られました。そして自分の経験を生かすことができ、自分のような境遇の人に役立ち、多くの仲間と夢を語っていた、がんの患者と医療者が気軽に語り合える「金沢マギー」つまり「元ちゃんハウス」の実現にまい進し、今月にオープンできたことが、最大のキャンサーギフトだと感じています。病気にならなければ夢物語だったことと思います。
周りからもたくさんの応援をいただき、周りの本気度にも助けられました。実現したことよりも「本当に素晴らしい家族、仲間、友人、同僚に恵まれているんだ」「人間はたくさんの人に支えられているんだ」と気付いたことが本当のキャンサーギフトなのかもしれません。
「元ちゃんハウスを作る」「出来上がりまで頑張る!」と闘病意欲につながったことも、自分にとって大きなギフトだったと思います。逆に、この夢が実現できたことは、協力してくれた皆にも、何かしらのギフトになったのではないでしょうか。元ちゃんハウスを訪れる患者の皆さんにとっても、ちょっとでもギフトになればと願っています。
ギフトは、数や大きさが決まっているものではありません。このようにキャンサーギフトの相乗効果によって、もっと大きなギフトになれば、とクリスマスに考えました。=次回は1月29日掲載
………………………………………………………………………………………………………
■人物略歴
◇にしむら・げんいち
1958年金沢市生まれ。83年金沢大医学部卒。金沢大病院などを経て、2008年金沢赤十字病院第一外科部長、09年から現職を兼務。13年から、がん患者や医療者が集うグループ「がんとむきあう会」代表。
その他 2016年12月26日 (月)配信毎日新聞社
ドクター元ちゃん・がんになる:初めて気づいた贈り物 「キャンサーギフト」で夢実現=金沢赤十字病院副院長・西村元一
「キャンサーギフト」という言葉を聞いたことはありますか。インターネットで検索すると「がんという命に関わる重い病気になって初めて見える命の大切さ、時間の大切さ、周りの人々の温かさがあり、それらはがんがくれた贈り物、つまりキャンサーギフトという」と書いてありました。
自分自身が患者になる前、医師としてがん患者と向き合っていたとき、「キャンサーギフト」という言葉は、おめでたいイメージがあって使えませんでした。患者の皆さんとは「多分そんなこともあるんじゃないか」という程度に話していました。
しかし今回、自分が患者になってみると、本当にたくさんのギフトがあると分かりました。がんになって感じることが「ギフト」か「ギフトでない」かは本人にしか分かりませんが、私は、このような状況になったからこそ出会えた人、行った場所、得られた機会、それらのすべてが「ギフト」といっても良いのではないかと思います。
病気が見つかるまでの私は、いろいろな分野に足を踏み入れていたこともあり、本当に忙しい毎日でした。どれも中途半端になって、たくさんの人に迷惑をかけていたかもしれません。ふと思い出すのは、あるとき仲間の一人から「西村先生は本当は何をしたいの?」と聞かれた時です。そのとき、返す言葉がありませんでした。
恐らく周囲からは「やりたいことをやっている」というよりも、毎日の業務をこなしているようにしか見えなかったのだと思います。最初は興味があって足を踏み入れたにもかかわらず、いつの間にか業務をこなすだけになっていたようです。
ところが、昨年3月に病気が見つかり、残された人生が長くないと気付いたとき、「あと何ができるか? 何をしないといけないか? 何をやめるか?」という取捨選択を迫られました。そして自分の経験を生かすことができ、自分のような境遇の人に役立ち、多くの仲間と夢を語っていた、がんの患者と医療者が気軽に語り合える「金沢マギー」つまり「元ちゃんハウス」の実現にまい進し、今月にオープンできたことが、最大のキャンサーギフトだと感じています。病気にならなければ夢物語だったことと思います。
周りからもたくさんの応援をいただき、周りの本気度にも助けられました。実現したことよりも「本当に素晴らしい家族、仲間、友人、同僚に恵まれているんだ」「人間はたくさんの人に支えられているんだ」と気付いたことが本当のキャンサーギフトなのかもしれません。
「元ちゃんハウスを作る」「出来上がりまで頑張る!」と闘病意欲につながったことも、自分にとって大きなギフトだったと思います。逆に、この夢が実現できたことは、協力してくれた皆にも、何かしらのギフトになったのではないでしょうか。元ちゃんハウスを訪れる患者の皆さんにとっても、ちょっとでもギフトになればと願っています。
ギフトは、数や大きさが決まっているものではありません。このようにキャンサーギフトの相乗効果によって、もっと大きなギフトになれば、とクリスマスに考えました。=次回は1月29日掲載
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■人物略歴
◇にしむら・げんいち
1958年金沢市生まれ。83年金沢大医学部卒。金沢大病院などを経て、2008年金沢赤十字病院第一外科部長、09年から現職を兼務。13年から、がん患者や医療者が集うグループ「がんとむきあう会」代表。