首相、支持率急落で絶句 泥縄式対応に限界 「表層深層」検証・GoToトラベル停止
政府の観光支援事業「Go To トラベル」が年末年始に全国で一時停止することが決まった。菅義偉首相は報道機関の世論調査の内閣支持率急落に絶句し、12日にひそかに決心。東京都などを目的地とする旅行の一時停止で当面批判をかわすシナリオは崩れ、これまでの泥縄式対応は限界に―。トラベル事業に固執してきた首相が「陥落」した舞台裏を検証した。
▽痛恨
「不支持率の方が高いのか」。12日夕の衆院第2議員会館。首相は事務所で一部報道機関の世論調査結果を聞くとこうつぶやいたきり、黙り込んだ。支持率と不支持率が逆転。トラベル事業を「中止すべきだ」の回答は半数を超え、旗振り役の首相にとって「痛恨の極み」(政府筋)の結果だった。12月上旬の共同通信社などの世論調査も支持率が急降下。これらも首相の耳に届いていた。
実は、首相はこの直前まで、東京都や名古屋市を目的地とする旅行の一時停止という「弥縫(びほう)策」で逃れられないか探っていた。11日のインターネット番組で「いつの間にかGoToが悪いことになった」と不満を漏らした経緯もある。
だがそれで突っ込めば、さらなる支持率ダウンは避けられず、衆院解散・総選挙に向けた政権の求心力がそがれかねない―。トラベル事業を抜本的に見直すレールが敷かれた瞬間だった。
西村康稔経済再生担当相が11月25日に宣言した「勝負の3週間」。感染者数の増加カーブが抑えきれず、"敗北"は明白になりつつあった。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会も12月11日、「年末年始を静かに」と提言。事業の在り方の再考を求める「首相包囲網」は狭まっていた。
▽政治決断
13日夕。首相は田村憲久厚生労働相、加藤勝信官房長官、西村氏を官邸に呼んだ。「(国民に)年末年始を静かに過ごしてもらうために」と切り出し、トラベル事業を全国で一時停止する考えを示した。会談直後に、出張で参加できなかった赤羽一嘉国土交通相に電話し、同様の意向を伝えた。14日午前に再び田村氏らを集めて最終確認し、事務的な調整の指示を飛ばした。首相は「(一時停止は)12日に決めていた」と周囲に明かした。
「年末を待たずに停止に踏み切るべきだ」との批判は予想されたが、東京都などを目的地とする旅行をまず除外し、全国停止は28日からという2段階方式とした。年末年始の特別対応を求めた分科会提言を踏まえ「政治決断」した形を取った。
▽いばらの道
急転直下の方針転換で、政府内外に動揺が広がった。13日の関係閣僚による協議の場には、赤羽氏に代わって観光庁幹部が駆け付けたが、部屋の外で待機。国交省幹部は「14日の発表当日まで方針を知らなかった」といい、15日朝までキャンセル料の扱いなどの調整で右往左往した。
「首相の決断であり、何も申し上げることはない。苦渋の選択だ」。事業停止に慎重だった赤羽氏は14日夜、記者団に無念さをにじませた。東京都への連絡も発表の直前。政府関係者が小池百合子知事に電話で直接伝えた。小池氏は驚いた様子だったという。
混迷の末、一時停止に踏み切った菅政権。ただこれで新型コロナ感染者が減少に転じる保証はない。首相に近い自民党幹部は「コロナ禍での経済活動推進はバランスが難しい。これからもいばらの道が続く」と語った。