長崎大、腹腔内での「細胞シート」手術に成功 再生医療で世界初
患者自身の細胞を用いて作成した「細胞シート」を十二指腸腫瘍の治療に応用する新方式の手術に、長崎大の金高賢吾教授らのグループが成功した。腹腔(ふくくう)内手術に細胞シートを用いた世界初の再生医療。同大が28日、発表した。
この手術では、十二指腸内にできた腫瘍を内視鏡手術で取り除くと同時に、腹部を約1センチ切開して細胞シートを挿入し、十二指腸の術部の外側に細胞シートを貼り付けた。細胞シートは、事前に患者の太ももから細胞を分離し7週間かけて培養。直径2・5センチ、厚さ0・1ミリの状態にしていた。
十二指腸は胃や大腸とは異なり、屈曲が大きく強力な消化液が分泌されるため、内視鏡手術で腫瘍を切除する際には穴が開く恐れがある。弱くなった部分はクリップで閉鎖するのが一般的だが、クリップが不完全だった場合、腹膜炎などの重篤な合併症を引き起こす危険がある。細胞シートを貼り付ける処置には、それを予防する効果がある。細胞が組織の修復を促す分泌物を出していると考えられるという。
同大大学院は2019年1月、医療機器メーカー「テルモ」(東京)との共同研究講座を開設。金高教授らのグループが長崎大学病院でこの手術方式による医師主導治験を開始し、今回の手術が第1例。6月8日に成人女性患者に実施した。術後の状態は良好で、患者は既に退院している。
細胞シートによる再生医療は、皮膚や心臓、血管などの治療では実用化されているが、腹腔内での治療に用いるのは前例がない。金高教授は「患者自身の細胞シートを使い、安全に治療することができる新しい手術方法。今後は肝臓や膵臓(すいぞう)など腹腔内の他の臓器の治療にも応用できるのでは」と話している。