夜噺骨董談義

収集品、自分で作ったもの、見せていただいた品々などを題材に感想談など

好きな画家 春潮 田中以知庵筆

2021-02-01 00:01:00 | 掛け軸
昨年、コロナ禍が下火になった頃に、それでも二人だけ、個室にて、ソーシャルデイスタンス、二時間以内という制限を設定して青山の料亭で会食をしたことがありました。どうしても話し合う必要があり、昨年の会食はこれ一回のみ。その席の床にあったのが、田中以知庵の掛け軸・・。マイナーな画家でしたので席の係の女性の方は知らずにいたのですが、頼んで確認してもらったらやはり田中以知庵の作品でした。

本日紹介するのはその田中以知庵の作品です。本ブログでも幾つかの作品を紹介していますので、おなじみかと思います。



好きな画家 春潮 田中以知庵筆
絹本着色軸装 軸先象牙 共箱
全体サイズ:縦1367*横641 画サイズ:縦426*横504



ところで魚の縞模様ですが、実は魚の頭を上にして立ててみたときの向きで判定するのが正解だそうです。ですからこの作品は横縞の魚となり、縦縞ではありません。うっかりすると間違えますね。

描かれているのは「タカノハダイ」という魚のようです。この件については下記にてふれます。

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タカノハダイ: 鷹羽鯛。名の由来は「体表の縞が鷹の羽に似ているため」、もしくは「鷹の斑のような鱗紋があるため」によるらしいです。

本州以南の磯の魚の代表的なもので、磯釣り、防波堤釣り(波止釣り)などであがるようですが、明らかに釣りの主役ではないとされます。漁業的にも刺し網、定置網などでとれるものの、多くは捨てられるとのことです。



これは夏などに非常に臭みのあるものがあるせいとされます。冬期でも漁獲方法によっては臭みがあるとのこと。ただ身質は非常によく、臭みのないものは非常に味がいいとされます。問題は臭みであって、当然一般にはあまり流通していませんし、また漁獲量自体が少ないために、流通上も重要なものではないとされています。ただし、活魚や活け〆にしたものは臭味もなく、非常においしいので、出荷方法がよくなり、じょじょに評価が上がる傾向にある魚のようです。

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さて幾度の本ブログに投稿されいる田中以知庵の作品ですが、改めて田中以知庵の画歴は下記のとおりです。

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田中以知庵:日本画家。明治26年(1896)~昭和33年(1958)。東京生。名は兼次郎、別号に咄哉州・一庵等。

上原古年に画の手ほどきを受けたのち松本楓湖に師事し、巽画会・紅児会等で活躍する。速水御舟などともよく交友し1929年には小室翠雲の推薦により日本南画院同人となりその後は同展を中心に日展などでも活躍した。

また、釈宗活禅師に禅を学び1912年には禅号として咄哉(州)を拝受、南画研究と禅修行の為に朝鮮半島に渡るなど求道的な一面をみせ、作品では詩情に溢れた花鳥、風景画を展開。

晩年は風景画に独自の画境を拓き、飄逸な絵画世界を展開した。春陽会会友・日本南画院同人・日展審査員。昭和33年(1958)歿、65才。

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補足すると下記のようになります。

田中以知庵は1896年(明治26年)に東京深川で生まれた日本画家で、身辺の自然をこよなく愛して風趣に富んだ作品を多く遺しています。

上述のように16歳の頃に松本楓湖塾に入門、歴史画や山水など伝統的な画法を学んでいます。同門の速水御舟とは親交を深くし、互いに影響を与え合ったようです。

速水御舟は、庭で炊いていた焚火に蛾が集まってきた様子を描いた「炎舞」のように、当時としては珍しい昆虫を題材にしたものが多く、一方で田中以知庵は「蛙の以知庵さん」と呼び親しまれたほど、蛙や鮎、蜆、また鶺鴒、雀などの小禽類を多く描いています。



以知庵には大変一途なところがあり、入門したての頃に禅宗の建長寺釈宗活師から「咄哉(とっさい)」という画号をもらったのですが、その号の意味がさっぱり解らず、意図を理解するために以後8年に渡って参禅したそうです。しかも探究心はそれに留まらず、ついには南画研究と禅修行の為に、朝鮮半島に渡ったというほどです。 その後は川崎北部の里山に住み着き、身近な自然のなかにモチーフを求めてました。



その作品は墨を基調とした重厚な筆使いで表現し、淡い色を使いながら、見るものに静謐な感動を与えてくれます。 田中以知庵の真骨頂とも言うべきは、対象を優しく見つめる以知庵の眼差しであり、見る我々の心までも癒してくれるところでしょう。



題名は春潮、共箱に収められています。

  

あまり著名ではない画家ですが、作品にはずれがなく、当方の好きな画家のひとりです。福田豊四郎、奥村厚一、そして田中以知庵、対象を優しく見つめるという共通したところがあるように思います。贋作も少なく、意外に気軽に楽しめるお値段?で入手できる画家の作品群かと思います。

実は恥ずかしいことながら同様の魚を描いたと思われる下記の作品を当方で所蔵しており、2014年6月に本ブログで紹介していました。共箱であり画題は「縞鯛」となっています。

上記原稿を書き上げてから気が付いた次第です。

縞鯛 田中以知庵筆 その4
紙本水墨淡彩軸装 軸先木製 共箱
全体サイズ:縦1170*横420 画サイズ:縦二百六十五*横235



では「縞鯛」と「タカノハダイ」の区分は?ということになりますが、下記の区分のようです。

縞鯛とは
1 イシダイの別名。《季 夏》
2 タイに似た形の、縞模様のある魚の俗称。特にタカノハダイをさす。

ということのようです。ま~、正月から「メデタイ」ということか・・・。


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