Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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ドパミン・アゴニストと心機能をめぐる2つの話題

2007年04月21日 | パーキンソン病
 麦角系アゴニストによる心臓弁膜症に関して厚生労働省の見解が示され,カバサールの添付文書が改訂された.これによると非麦角系アゴニストを第一選択とするよう記載されている.またカバサール使用中の場合,定期的な心エコーが必要とされている(本剤投与開始の心エコー検査が必須で,さらに投与開始後3~6 ヵ月以内に,それ以降は少なくとも6~12 ヵ月毎に心エコー検査を行う必要がある).しかし,アゴニスト投与患者における心エコーは保険請求できないそうだ(苦笑).私には予想以上に厳しい判断に思えた.たしかにアゴニストによる心臓弁膜症は問題ではあるが,現時点で,心不全まできたす症例がいるのかどうか,また薬剤使用量との発症リスクについては十分なデータがない状態ではなかったのではなかろうか.今回の麦角系アゴニストという選択肢を事実上奪ってしまう措置は,過剰反応のように思えてしまう.タミフル問題でたたかれた厚生労働省が問題が生じる前に責任回避の措置をしているように思えるのは私だけであろうか?

 さてカバサールやペルマックスをやめざるを得なくなると,pramipexole(商品名;ビ・シフロール)を使用する頻度が増えるのではなかろうか.PramipexoleはドパミンD2受容体ファミリーに強い親和性をもつ非麦角系ドパミン・アゴニストで,副作用としては他のドパミン・アゴニストと同様に,嘔気,突発的睡眠,幻覚,病的賭博・性欲亢進などの衝動性の行動を呈する.今回,pramipexoleに伴う副作用としての下腿浮腫とその危険因子に関する臨床研究がアメリカから報告されている.

 方法はretrospectiveにカルテを確認するという方法である.Philadelphiaの退役軍人病院にて行われたstudyで,2002年12月から2004年12月の期間を対象としている.2変量ないし多変量ロジスティック回帰モデルを用いて,合併する疾患や他の薬剤,パーキンソン病の状態など,どのような因子が下腿浮腫の危険因子となるのか検討した.下腿浮腫の出現時期に関する検討はKaplan-Meier 法と多変量Cox比例ハザードモデルを用いている.

 さて結果であるが,273名の患者がpramipexoleを使用していた.このうち38名 (16%)に下腿の浮腫が認められた.多変量ロジスティック回帰モデルにて検討した危険因子としては特発性パーキンソン病であること (オッズ比4.80; 95%CI, 1.54-14.98; P = .007),冠動脈疾患の既往(オッズ比3.35; 95%CI, 1.51-7.46; P = .003),糖尿病の既往(オッズ比3.12; 95% CI, 1.01-9.60; P = .05)の3つが判明した.Pramipexoleの内服量と下腿浮腫の発生率および重症度については関連がなかった.治療開始後最初の1年間に下腿浮腫が出現する危険性は7.7% (95% CI, 4.5%-12.9%)で,冠動脈疾患の既往のある患者ではより進行が早かった.結論として,下腿浮腫はpramipexoleを内服中のパーキンソン病患者において少なからず見られる副作用であり,冠動脈疾患の既往は危険因子として重要であるということである.

 ただし本研究の問題点を挙げるとすれば,まず対照群がないことが致命的である.このために冠動脈疾患の既往が交絡因子として浮腫の発生に関わっている可能性が否定できない(この場合,pramipexoleは浮腫の直接の原因ではないということになる).またpramipexoleが浮腫を引き起こすとした場合もその機序は全然不明である.もう一つの問題点は,浮腫を認めた患者の心機能の評価をほとんど行っていないことである(その理由として,担当したのはみな神経専門医で,pramipexoleにより浮腫が生じることを知っていたからと言っている!?).そうは言っても下腿の浮腫を見れば心機能を評価するべきではなかっただろうか.今後,使用が増えると思われるpramipexoleだけに,下腿浮腫の出現に注意して診療する必要があると思われた.

Arch Neurol 2007; 64 (published on line)
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抗パーキンソン病薬(ドパミン・アゴニスト)と心臓弁膜症(その2)

2007年03月19日 | パーキンソン病
 以前,当ブログでも取り上げたが,抗パーキンソン病薬である麦角系ドパミンアゴニスト(pergolide mesylateペルマックス,cabergolineカバサール)では心臓弁膜症(閉鎖不全症)のリスクが,非麦角系ドパミンアゴニスト(pramipexole dihydrochlorideビ・シフロール,ropinirole hydrochlorideレキップ)より高いことが指摘されている.今回,ペルマックスと非麦角系ドパミンアゴニストとの間で,薬剤使用量,年齢などをマッチさせて心臓弁膜症の合併を比較した検討が報告された.方法はcase-control studyで,両群間で心エコー所見を比較している.ペルマックスを内服する36例の特発性パーキンソン病患者と非麦角系ドパミンアゴニスト(ビ・シフロールもしくはレキップ)を内服する36例との間で,心臓弁閉鎖不全症の頻度,重症度を比較している.以前取り上げた論文とは異なり,閉鎖不全症の有無による評価ではなく,半定量的にvalve score(1 indicates trace; 2, mild; 3, moderate; and 4, severe)を用いて重症度も評価している.また閉鎖不全の程度が各スコアの中間である場合は,例えばmildとmoderateの中間であれば2.5として計算している.

 結果としては,valve scoreをmean ± SD で示し,ペルマックスと非麦角系ドパミンアゴニストのスコアを順に記載すると,大動脈弁では0.83 ± 1.23 vs 0.19 ± 0.53 (P = 0.01),僧帽弁では1.42 ± 1.0 vs 0.39 ± 0.65 (P<0.001),三尖弁では1.43 ± 1.0 vs 0.19 ± 0.53 (P<0.001)で,いずれも有意にペルマックス群が重症であった.累積内服量には両群間で有意差はなかった(P =0.18).以上の結果からペルマックスは長期間使用した場合,心臓弁閉鎖不全症を来たす可能性が再確認され,非麦角系ドパミンアゴニストではその危険性が低いという結果になった.

 ただ今回の結論に文句をつけるわけではないが,ちょっと釈然としない部分もある.というのは,心臓弁閉鎖不全の程度を順に0, 1, 2, 3, 4と5段階評価したわけだが,これは順序尺度(ordinal scale)にあたる.例えばYahr分類やmodified Rankin scaleもそうだが,上下関係あるいは大小を示す尺度ではあるものの,その間隔や比率は一定ではない.例えばお寿司屋さんでお寿司を1.並,2.上,3.特上と分類したところで,特上は並の3倍のおいしさではないのと同じことである.順序尺度において平均や標準偏差を求めることは妥当ではなく,それぞれの割合(%)が示されるべきで,加減などの演算には本来意味がないはずだ.しかし,現実には,何のためらいもなくそれらを得点化し,平均を求める論文が少なからずある(本論文では閉鎖不全の重症度をmean ± SDで示しているが,本来,中央値を用いるべきだろう).単に「高度な統計解析が可能になるから」とか「みんながしているから」という理由で,順序尺度を間隔尺度(interval scale)ないし比率尺度(ratio scale)にすり替えてしまってよいものだろうか?

 また本論文では両群の平均値の比較をノンパラメトリックにMann-WhitneyのU検定を用いて行っている.例えば脳虚血の分野の論文で,有名なt-PAとかNXY-059の効果判定は,NIHSSやmodified Rankin scaleを「Mantel-Haenszel検定」を用いて比較していた.私は統計が得意ではないので詳しい方がいたら教えていただきたいのだが,今回のようなケースではどんな統計処理がベターなのだろう?

Arch Neurol 64:377-380, 2007 

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抗パーキンソン病薬(ドパミン・アゴニスト)と心臓弁膜症

2006年11月18日 | パーキンソン病
ドパミンアゴニストは大別すると,構造の違いから麦角アルカロイド性アゴニストと非麦角のアゴニストに分類できる.

麦角系;カバサール,ペルマックス,ブロモクリプチン
非麦角系;ドミン,ビ・シフロール,レキップ

麦角系のカバサールとペルマックスの利点は何と言っても半減期が長いことで(カバサールでは43~72時間),とくにカバサールの1日1回内服は,内服する薬の種類や数が多いパーキンソン病(PD)患者さんにとってはありがたい.しかしドパミンアゴニストには以下のような厄介な副作用があり注意を要する.

妄想・せん妄
突発的睡眠
病的賭博・性欲過剰・衝動的買い物
胸膜,心膜,後腹膜線維化・心臓弁膜症

とくに心臓弁膜症は2002年にブロモクリプチンにおいて初めて報告されたが,その後も麦角系アゴニストのペルマックス,とくに高容量使用者において心臓弁膜症が報告された.しかし,いずれの報告も比較的少数例での検討であった.

今回,本邦のPD患者を対象にして,ドパミンアゴニストの使用と心臓弁膜症の発生頻度の関連を調べた研究結果が報告された.対象は香川県立中央病院に入院した210例のPD患者(2004年9月~2005年9月.retrospective study)で,以下の5群に分類し,心電図と経胸壁心エコーを施行した.

①カバサール治療群(16名)
②ペルマックス治療群(66名)
③ビ・シフロール治療群(16名)
④過去に麦角系で治療を受けた群(27名)
⑤非治療群(85名;L-DOPAを含め治療されていない群)

研究デザインは非治療群を対象としたcase-control studyで,多重ロジスティックモデルを用いて,年齢,性別,罹病期間といった因子に関しても相対危険度の計算を行っている.

結果だが,非治療群に比べ,カバサール治療群の心臓弁膜症発生頻度は有意に高かった(17.6% vs 68.8%).ペルマックス群とビ・シフロール群では発生頻度に差はなかった(28.8% vs 25%).交絡因子の調整を行ったオッズ比の検討では,カバサール治療群では,ペルマックスやビ・シフロール治療群と比較して有意に高かった.

カバサール12.96(95%CI 3.59-46.85) 一日の平均投与量3.8mg
ペルマックス2.18(95%CI 0.90-5.30) 1.4mg
ビ・シフロール1.62(95%CI 0.45-5.87)1.7mg
(ちなみに年齢は1.04,罹病期間は1.01,性差は1.88であった.)

さらにカバサール治療患者において,心臓弁膜症の有無で2群に分けて比較してみると,弁膜症患者ではカバサールの累積投与量が有意に高く,かつ治療期間も有意に長かった.カバサールによる弁膜症(閉鎖不全)は,A弁,M弁,T弁いずれにおいても認められ,とくに弁による特異性はなかった.

以上より,カバサールの累積投与量と長期にわたる治療は,心臓弁膜症の危険因子であることが明らかとなった.この研究ではカバサールによる心臓弁膜症の症状や予後については検討されていないものの,臨床的にきわめて重要な指摘である.いずれにしても現在,麦角系アゴニストを使用中の患者さんにおいて,無症状であっても心エコーの確認,使用量の見直し,弁膜症合併患者における非麦角系への切り替えは必要になるだろう.

ちなみに麦角系アゴニストによる弁膜症の機序については十分に分かっていないが, 5-HT2B受容体に作用して,培養heart valve cellの線維化を引き起こし,その作用はカバサールでとくに強いという報告がある.

Neurology 67:1225-1229, 2006 
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Michael J Foxさんとパーキンソン病について

2006年10月30日 | パーキンソン病
「Back to the Future」はロックスター志望の高校生マーティ・マクフライと,その親友で周囲から変人扱いされている科学者エメット・ブラウン博士(通称ドク)が,タイムマシン(デロリアン)を使って様々な時代でトラブルを起こす映画だ.私のお気に入りの映画であり,ときどきDVD 3部作トリロジーを引っ張り出しては一番好きな場面,マーティがChuck Berry(ロックンロールの神様!)のJohnny B. Goodeをダンスパーティーで演奏してみせるシーンを見るが,とても元気が沸いてくる(Part I, 1985年).その後,Michaelは映画やテレビで活躍したが,1991年,30歳の若さでパーキンソン病を発症し,その後,1998年にパーキンソン病であることをピープル紙上で公表した.
 
2006年10月20日,Michael J Foxはパーキンソン病治療のためのES細胞研究を支持するミズーリ州上院議員選の民主党候補への応援CMに出演し,現在,話題になっている.その映像は,インターネットの投稿動画サイトYouTubeでも見ることができる.産経新聞によると「全身をけいれんさせるなどのパーキンソン病の症状をあらわにしながら」とあるが,痙攣ではなく,dyskinesiaと思われる不随意運動によるようだ.いずれにしてもパーキンソン病をご存じない人にとっては衝撃的な映像であろう.彼のCM内の発言を英語に堪能な知り合いの麻酔科医の力を借りて要約してみると,以下のような内容である.

「ミズーリ州上院議員選では,パーキンソン病の治療に対し共通する希望をもつClaire McCaskillに投票してほしい.不幸にも対立候補は幹細胞研究の発展に反対し,我々に希望をもたらはずの科学を処罰の対象にしようとしている.政治はローカルなものだといわれるが,ミズーリ州でのあなたの行動は,難病に苦しむ私のような多くのアメリカ人を救うのだ」そして最後に上院議員候補が出てきて,Michaelの発言に賛同する,と一言述べている.

ES細胞研究に反対している保守派は「自分の症状を売り物にしている」などと批判しているようだ.ES細胞研究に関する個人的な印象は過去にブログ内で記載したこともあるのでここでは書かないが,今回のMichaelの行動は,彼の著書であるラッキーマンを読んだひとにとっては何ら不思議のないものに思えるだろう.

この本によれば,彼はパーキンソン病と診断された時,健康状態が悪化することを心配しただけでなく,妻トレィシーさんが去っていくのはないかと非常に恐れたそうだ.そして「恐れに立ち向かうことができず,酒を飲むようになった」が,トレィシーさんや4人の子供の支えもあり,1994年から病気を受容し,分析することをはじめ,病気に立ち向かうようになったそうだ.1998年,彼はパーキンソン病であることを公表したときには世界中から驚くほどの反響があったそうだが,世間が彼を哀れみだしたころには,彼はすでにこの病気を受け入れていたわけである.その後,パーキンソン病の研究助成活動をはじめ,2000年には「マイケル・J・フォックス パーキンソン病リサーチ財団」を設立した.このなかの彼のメッセージをぜひ読んでいただきたいが,彼はES細胞にだけこだわっているわけではなく,パーキンソン病の治療につながりうるさまざまな可能性を推進したいという気持ちを持っているのである.

彼は自分のことをLucky Manと呼んだ.著書の中でパーキンソン病が自分に何をもたらしたかを語っているが,素晴らしい人生と仕事に感謝するチャンスが与えられたこと,パーキンソン病の治療法を探すための手助けをし,人々にこの病気について知ってもらう機会を得たこと,それこそが自分が幸運な男だと思う理由だと語っている.今回のYouTubeのビデオに関心をもたれた方は,ぜひ,彼の著書や財団のホームページをのぞいてほしい.今回のCMが,多くの人がパーキンソン病や幹細胞研究について考えるきっかけになれば彼もきっと喜ぶに違いない.

YouTube画像
「マイケル・J・フォックス パーキンソン病リサーチ財団」
ラッキーマン
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パーキンソン病Practice parameter(その3)―日内変動とジスキネジアの治療-

2006年10月22日 | パーキンソン病
 米国神経学会(AAN)パーキンソン病ガイドラインのその3は,motor fluctuation(日内変動)およびジスキネジアを伴う症例の治療(薬物療法,外科治療)である.臨床上,きわめて重要な問題である.今回の臨床的疑問は以下の5つである.

疑問1;オフ時間の短縮に有用な薬剤は何か?
疑問2;オフ時間の短縮効果に関して,薬剤間で効果に違いはあるか?優れたものはどれか?
疑問3;ジスキネジア抑制に有用な薬剤は何か?
疑問4;深部脳刺激療法(DBS)は,オフ時間の短縮,ジスキネジア抑制,抗パ剤の減量,日内変動の改善に有効か?
疑問5;DBSの効果の予測因子は何か?

疑問1;オフ時間の短縮に有用な薬剤は何か?
推奨;
 オフ時間を短縮させるためには,entacapone(COMT阻害剤;日本未発売コムタン)またはrasagiline(MAO-B阻害薬;日本未発売アジレクト)を用いるべきである(Level A)
 オフ時間を短縮させるためには,ペルゴリド(ペルマックス),プラミペキソール(ビ・シフロール),ropinirole(ドパミン作動薬;日本未発売レキップ),またはトルカポン(COMT阻害剤;日本未発売タスマール)を用いるべきである(Level B).ただし,トルカポンを使用する場合には肝障害,ペルゴリドを使用する場合には心臓弁線維症に注意する必要がある.
 オフ時間を短縮させるためには,アポモルフィン(ドパミン作動薬;ユープリマ),カベルゴリン(カバサール),セレギリン(エフピー)の投与を考えても良い(Level C).
 オフ時間を短縮させるためには,徐放性レボドパ・カルビドパ合剤,ブロモクリプチン(パーロデル)の投与は行わない(Level C).

疑問2;オフ時間の短縮効果に関して,薬剤間で効果に違いはあるか?優れたものはどれか?
推奨;
 オフ時間を短縮させるためには,ブロモクリプチンよりもropiniroleを用いたほうが良いかもしれない(Level C).
 これ以外は,十分なエビデンスはない(Level U).


疑問3;ジスキネジア抑制に有用な薬剤は何か?
推奨;
 ジスキネジアの抑制のためにはアマンタジン(シンメトレル)の投与を考えても良い(Level C).
 Clozapine(非定型精神病薬;日本未発売クロザリル)については十分なエビデンスが得られていない(Level U).

疑問4;深部脳刺激療法(DBS)は,オフ時間の短縮,ジスキネジア抑制,抗パ剤の減量,日内変動の改善に有効か?
推奨;
 日内変動の改善,ジスキネジア抑制,抗パ剤の減量を目的とした治療法として視床下核に対するDBSを考慮しても良い(Level C).
 淡蒼球内節,視床Vim核に対するDBSについては十分なエビデンスが得られていない(Level U).

疑問5;DBSの効果の予測因子は何か?
推奨;
 術前のレボドパに対する反応性は,視床下核に対するDBSの効果を予測する因子と考えられる(Level B).
 年齢が若く罹病期間が短い患者のほうが視床下核に対するDBS後の改善が優れている可能性がある(Level C).
 淡蒼球内節,視床Vim核に対するDBSの予測因子については十分なエビデンスは得られていない(Level U).

エビデンスレベルの高い薬剤が,日本では発売されていない現状をお分かりいただけたと思う.薬剤間の比較を行った研究がほとんどないため,新薬が従来の抗パ剤と比べ優れているという保証はないが,できることならエビデンスレベルの高い薬剤を使いたいというのが医者や患者の心情であろう.個人輸入などしなくても済むように速やかな新薬の承認を期待したい.

Neurology 66; 983-995, 2006
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軽症パーキンソン病患者を特定疾患から除外してよいのか?

2006年08月11日 | パーキンソン病

 「特定疾患」とは,原因不明,かつ治療が困難であり,病状も慢性に経過し社会復帰が困難もしくは不可能であり,医療費も高額で,経済的な問題や介護等家庭的にも精神的にも負担の大きい疾病を指す.また症例が少ないことから全国的規模での研究が必要な疾患と定義される(難病情報センター).この制度は,難病の病態把握と患者支援のため1972年度に開始され,98年に医療費を一部自己負担する制度,2003年には所得と治療状況に応じた段階的な自己負担制が導入された.現在,特定疾患は121疾患あり,うち45疾患の医療費は公費負担助成の対象となっている.

 さて現在,特定疾患のうち,患者数が多い2つの疾患,パーキンソン病と潰瘍性大腸炎において,公費負担の対象者の範囲の見直しが検討されている.以下8月10日付共同通信社ニュースのコピーを示す.

  厚生労働省の特定疾患対策懇談会は9日,患者の医療費が公費負担されている45の特定疾患のうち,パーキンソン病と潰瘍性大腸炎について公費負担の適用範囲を縮小することを決めた.

 患者数が特定疾患の指定の要件である5万人を大幅に上回っているためで,公費負担額の縮小が狙い.懇談会は軽症患者を公費負担の対象から除外する方向で検討を進める見通し.今後,患者団体の意見を聞いた上で決めるとしているが,患者団体は反発している. 

 患者数が5万人以上の特定疾患は,潰瘍性大腸炎(約8万人),パーキンソン病(約7万3000人),全身性エリテマトーデス(約5万2000人).同省によると,この3疾患で公費負担総額約770億円の約4割を占めている. この日の懇談会では,パーキンソン病と潰瘍性大腸炎は,特定疾患からは除外せず,公費負担の対象者の範囲を見直すことで一致した.全身性エリテマトーデスは,患者数がここ数年,横ばいになっていることから,今回の見直しの対象にはしないことになった.

 厚労省疾病対策課は「患者団体などの意見を聞いた上で議論を取りまとめ,できるだけ早く適用したい」としている.

 まず気がつくのは,軽症患者だからといって治療費が少ないわけではないということだ.近年のガイドラインでは,高齢者を除くパーキンソン病患者ではドパミンアゴニストから治療を開始することを推奨しているが,例えば塩酸プラミペキソール(ビ・シフロール)で治療を開始するとして,1錠(0.5mg)=204.50円,維持量(標準1日量1.5~3mg)として,204.50×(3~6錠)×30日で,18,405~36,810円もかかってしまう(薬価が高すぎる!).本当に困っている人に負担を強いて,数億円のお金を節約するという政治でよいのだろうか.「平成18年度診療報酬改訂におけるリハビリに対する処遇」の際にも思ったが,日本の政治家や官僚は財政の建て直しのために,もう少し叡智を絞ることはできないのだろうか.

 さあ,皆さんはどう考えるだろうか?

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脳深部刺激療法後のパーキンソン病患者は良くなる余地が残されている?

2006年08月04日 | パーキンソン病
 深部脳刺激療法(DBS)は,進行期パーキンソン病(PD)に対してきわめて有効な外科治療である.しかし効果発現のためには電極の位置を正しく保つこと,刺激パラメーターの最適なプログラミング,抗パ剤の用量の調節が重要である.術後の経過観察はこれらのいずれについても精通した者が行うことが理想だが,現実には脳外科医のみ,もしくは神経内科医のみということが多いのではないだろうか.
 さて,今回,カナダからDBS後,症状が安定したPD患者に,DBSプログラミングと薬剤調節に詳しい神経内科医が介入して,症状の改善の余地があるものなのかという研究が報告されている.対象は,視床下核刺激療法を長期間受けているPD患者44名で,治療期間は3.5±1.7年,治療の効果は安定している者とした.そして,DBSとPDの治療の両者に関して精通している神経内科医が,刺激療法の再プログラミングと投薬量の調整を担当した.そしてその前後にUnified Parkinson's Disease Rating Scale(UPDRS)のパートⅡからⅣの部分のスコアを比較した.被験者を最長14ヶ月に渡って追跡調査した.
この結果,24名(54.6%)でUPDRSスコアのⅡないしⅢが有意に改善した(それぞれ15.0%,25.9%).また抗パ剤の使用量も有意に減少した(25.9%).一方,16名(34.6%)には改善はみられず,4名(9.1%)は症状が増悪した.
以上の結果は,DBSとPDの両者に詳しい専門医が,術後治療に関わったときに,安定していると考えられる視床下核DBS患者であっても,その半数で状態が改善することを示すものである.これは驚きの結果であるが,具体的にどのように再プログラミングしたのだろうか? Methodのところを読むと書かれているのだが,経験がないので良く分からないが,基本的に刺激強度を徐々に上げていき(3.6Vまで),副作用stimulation-induced acute dyskinesia(SID)の出る強度をまず調べるらしい.その後,このdyskinesiaが消失するレベルまで内服していた抗パ剤を減量するか,もしくは強度を下げるらしい(この辺の調節方法に詳しい脳外科の先生がいらしたらコメントください).
いずれにしても,本研究は,DBSは術後のケアもとても重要ということをあらためて認識させてくれた点で意義深い論文と考えられた.DBSを受けたもののしばらく刺激パラメーターの調節を行っていない患者さん,ないし患者さんの主治医は再評価の必要がないか検討する必要があろう.

Arch Neurol 63; 2006 e-pub ahead
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ピロリ菌の除菌でパーキンソン病が改善する

2006年07月02日 | パーキンソン病
 日本ヘリコバクター学会は2000年6月ガイドラインを公表し,「ヘリコバクターピロリ陽性の胃潰瘍・十二指腸潰瘍はすべて除菌治療の適応となる」と提言した.その後承認された除菌療法は,プロトンポンプ・インヒビター(PPI)に加え,抗生物質2剤(アモキシシリン+クラリスロマイシン)の計3剤を1日2回計7日間経口投与するものである.ヘリコバクター・ピロリ抗体陽性の胃潰瘍・十二指腸潰瘍のみが適応疾患で,胃炎や他の疾患では保険上は認められない.ちなみにアメリカでは胃が痛いと,すぐに抗体を検査してくれて,抗体が陽性ならば潰瘍の存在を確認することなしに即治療開始となる.一見,羨ましくもあるが,その代わり上部消化管内視鏡はよほどのことがない限りやってくれない.除菌しても症状が改善しない場合,やっと高額の医療費を払って検査してくれる.医療費削減の方法が日本とアメリカでは異なっているということだ.

 さて,ピロリ除菌治療の副作用として,抗生物質による腸管刺激作用と腸内細菌叢のバランスの崩れなどにより,下痢や血便を来たすことがある.また除菌後,逆流性食道炎が発症することもある.これはピロリ菌感染による慢性胃炎では,一般に胃酸分泌が低下するが,除菌により胃炎が改善し胃酸分泌能が回復するためと考えられている.

 一方,今日の本題のパーキンソン病に対する治療薬L-Dopaは,酸に溶けやすく水に溶けにくい性質がある.よって,胃液の pH が低いほうが吸収が良いので,胃酸分泌の低下があるときはレモン汁を同時に投与したりすることがある.制酸剤や抗コリン剤の併用もL-Dopa吸収を阻害する可能性があり注意を要する.では,ピロリ菌陽性パーキンソン病患者に除菌を行ったら,L-Dopa吸収が改善し,motor fluctuationなどの症状が改善するのではなかろうか?

 イタリアからこの疑問に関する研究が報告された.対象は34名のmotor fluctuationを呈するピロリ菌陽性パーキンソン病患者で,17名の除菌群と,対照群としてantioxidant投与群に分けた.効果判定は治療1週間後および3ヵ月後に二重盲検下に行い,L-Dopa血中濃度,UPDRS-IIIによる運動機能評価,wearing off現象の“on-time”の測定を行った.結果としては除菌群で,L-Dopa血中濃度が有意に上昇し,運動機能も有意に改善し,“on-time”も有意に延長した.以上の結果はピロリ菌による胃炎・十二指腸炎はL-Dopa吸収を阻害する結果,パーキンソン病のmotor fluctuationを増悪させること,このmotor fluctuationは除菌治療により可逆的に改善することを示した.ご存知のように高齢者ほどピロリ菌感染率は高く,ピロリ菌陽性を示すパーキンソン患者は少なからず存在するはずである.motor fluctuationが顕著な場合には,ピロリ菌の関与も検討すべきと考えられた.

Neurology 66; 1824-1829, 2006 

これでわかるピロリ除菌療法と保険適用―ガイドラインに基づく活用法
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パーキンソン病Practice parameter(その2)―神経保護療法と代替療法―

2006年06月18日 | パーキンソン病
パーキンソン病に関する米国神経学会ガイドラインを取り上げる2回目.今回は,神経保護療法と代替療法についてのevidence reviewである.臨床的疑問点として以下の2つを提示している.

質問1.パーキンソン病と診断された患者において,病状の進行を遅らせる薬物療法があるか?
質問2.標準的ではないが,パーキンソン病の運動機能の改善をもたらす薬物療法,ないし非薬物療法があるか?

方法は前回と同様に,選択したキーワードを用いてデータベースから論文を抽出後,エビデンスレベルを判定し,その結果から勧告のレベルを決定している.たとえば質問1では,37論文がreviewされ,11論文がinclusion criteriaを満たした.質問2では22論文がreviewされ,いずれもinclusion criteriaを満たしたという具合である(これら論文の少なさは,評価に耐えうる論文を書くことがいかに難しいか容易に想像させる).

さて,質問1で対象となった薬剤は,vitamin E,riluzole,coenzyme Q10,Levodopa,Pramipexile等である.結果としては,
vitamin E;おそらくlevodopa治療開始を遅らせることはできない(Level B).
riluzole,coenzyme Q10,Pramipexile;神経保護作用はない(Level U;ただしriluzoleとcoenzyme Q10についてはstudyのパワーが十分でなく,効果が軽微な場合,検出できていない可能性もある)
Levodopa;ひとつのClass I studyの結果から,病初期の治療として有用で,病状の進行を促進させることはない(Level B).しかしこの神経保護作用は9ヶ月までの検討であり,長期的神経保護作用は証明されていない(Level U).

質問2では,食品,ビタミン,鍼,manual therapy(カイロプラクティックなど),運動療法,言語療法が対象になった.エビデンスを判定するだけの十分な数のstudyが行われているわけではないが,勧告は以下のとおり.
ビタミンE(2000 units);対症療法としても薦められない(Level B).
鍼,manual therapy(カイロプラクティックなど);十分なエビデンスなし(Level U).
運動療法・言語療法;おそらく運動ないし言語機能の改善をもたらす(Level C).

以上の結果から,パーキンソン病に対し,長期的に神経保護作用を有する薬剤は現在ないということになってしまった.またリハビリの重要性に関しては,個人的には,その効果を繰り返し教えてくださった先輩がいたので,それが正しかったことを再確認することになった感じだ.結論としては,神経保護は現状では難しいが,薬物療法とリハビリを組み合わせて治療を行っていく必要があるということになろう.

Nuerology 66; 976-982, 2006

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パーキンソン病Practice parameter(その1)―診断と進行予測―

2006年04月29日 | パーキンソン病
 AANパーキンソン病ガイドラインは,2002年に発表されているが,今回,大幅な改定が行われた.前回のガイドラインでは,主としてどのように薬物治療を行うべきかに注目した内容であったが,今回は以下の4つの問題に対応する形でまとめられ,包括的な内容となった.
① 新しく発症した症例の診断法と予後予測因子
② 神経保護治療と代替治療
③ motor fluctuationおよびジスキネジアを伴う症例の治療
④ パーキンソン病に伴ううつ,精神症状,痴呆の評価・治療

 さて今回は①の「新しく発症した症例の診断法と予後予測因子」について勉強したい.同時にガイドラインがどのように作られていくのかも見てみたい.例えば病棟で,典型的所見に欠けるパーキンソニズムの患者さんを担当し,「どんな臨床所見,検査所見がパーキンソン病と類縁疾患の鑑別に有用か?」という課題を検討会で発表するよう割り当てられたとしたら,どのように過去の論文を選択・reviewし,最終的な結論を出すだろうか?このPractice parameterは,そんな疑問の解決方法を学ぶのにはモッテコイの教材となる.

疑問1;どんな臨床所見,検査所見がパーキンソン病とその類縁疾患の鑑別に有用か?

 さて解答の導き方のポイントとして,以下の点に注目すべきと思われる.
 どんなsearch termを用いて,どのデータベース(Medlineなど)を検索したのかを明示する
 検索した論文のうち使用可能と判断した論文の基準(inclusion criteria)を予め決めておく
 論文のエビデンスレベルを,診断の有用性の観点からClass I~IVにクラスわけする
 どのエビデンスレベル(Class I~IV)の論文がいくつ存在するかによって,推奨の度合いをLevel A, B, C, Uとしてレベル分けする

 例えば,疑問1の場合,search termとして,Parkinson disease,neurologic examination, clinical characteristics,neuroimaging,radionuclide imaging,ultrasonography,differential diagnosis,autopsy,SPECT,PET,challenge,olfactoryを選択している.inclusion criteriaは「少なくともPD群,比較する群とも10症例以上の論文」としている.結果として,176論文が検索され,48論文がreview articleもしくは内容が不適切であったため除外し,128論文をreviewした.うちinclusion criteriaを満たしたものはわずか31論文であった.次に31論文を内容別に,Drug challenge,Olfaction,Diagnostic neurophysiologic testing,Diagnostic neuroimagingに分類し,ついでエビデンスのClassの判定,最後に推奨レベルの決定という手順を踏んでいる.

 これらはいざ行うとなると労力を要し,研修医の先生方には嫌がられそうだが,疑問に対する解答を厳密に導き出すためにはこのような作業が必要ということを理解することは大事なことである(Medlineをざっと見て,都合の良さそうな論文を拾うだけではダメということ).またこういった観点から以前取り上げた「慢性頭痛の診療ガイドライン」を眺めてみると,臨床的疑問を掲げたのち解答を導き出すという同様の方法をとっているものの,論文のinclusionの基準や,論文のエビデンスレベルをどう判断した上で,推奨のレベルを決めたかという過程の記載にかなり乏しく,推奨レベルをどう決めたのか良く分からない部分が少なくないということが分かる.

 さて本題に戻り,以下,疑問に対する解答(勧告)を列挙する.

疑問1;どんな臨床所見,検査所見がパーキンソン病とその類縁疾患の鑑別に有用か?

推奨
①初期のパーキンソン病と類縁疾患の鑑別に有用な所見としては,
1) 発症時ないし病初期における転倒
2) Levodopaに対する反応性不良
3) 発症時において症状が対称性であること
4) 早い進行(3年間でHoehn and Yahr stage IIIに到達)
5) 振戦を認めない
6) 自律神経障害
(3 Class II + 1 Class III studies→Level B)

②初期のパーキンソン病と類縁疾患の鑑別に有用な検査に関して
1) Levodopaないしapomorphineによるchallenge testはパーキンソン病の診断確認に有用 (1 Class I + 1 Class II studies→Level B)
2) 嗅覚試験はパーキンソン病とPSP・CBDの鑑別に有用,しかしパーキンソン病とMSAの鑑別には有効ではない(3 Class II studies→Level B)
3) ただし,これらの検査が臨床的診断基準にまさるというエビデンスはなく(Level U),また検査所見の最適な組み合わせについてもエビデンスはない(Level U).
4) 以下の検査は鑑別診断に有用ではないと考えられる;clonidineによるGH刺激試験(1 Class II study),眼球電図(2 Class III studies),SPECT (1 Class III study)(いずれもLevel C).
5) 以下の検査はエビデンス不十分で判断ができない;ウロダイナミクス(1 Class III study),自律神経検査(4 Class III studies),尿道・肛門括約筋筋電図(1 Class III study),MRI (2 Class III studies),脳実質超音波(1 Class III study),FDG PET(1 Class III study).(いずれもLevel U).

疑問2;どんな臨床所見が進行具合の予測に有用か?
推奨
① 新しく診断されたパーキンソン病患者において,高齢発症(定義は57~78歳とさまざま)(2 Class II + 1 Class III studies),および初発症状が筋強剛・寡動であること(2 Class II studies)はパーキンソニズムの進行がより早いことを示す予測因子となる(Level B).
② 併存疾患の存在(脳卒中,聴覚・視覚障害)(1 Class II study),姿勢反射障害・歩行障害(1 Class II + 1 Class III studies),男性であること(1 Class II study)も予測因子になる可能性がある(Level C).
③ 初発症状が振戦であることは,予後が良好であること,およびlevodopaによる治療効果が長期つづく可能性を示唆する因子となるかもしれない(1 Class II + 1 Class III studies→Level C)
④ 高齢発症,痴呆,ドパミンハン反応性の減弱は早期からの介護施設への入居や生存期間の減少を予測因子として使用できるかもしれない(1 Class II study→Level C).

Neurology 66; 968-975, 2006

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