Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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非定型的パーキンソニズムにおけるBicycle sign

2011年01月08日 | パーキンソン病
Lancet誌に非定型的パーキンソニズムとパーキンソン病の鑑別に有用な方法が報告されている.ただ「自転車に乗れますか?」と質問するのである.

診断が確定していない156名のパーキンソニズムを呈する患者に対し,前向き観察研究が行われた.最初の段階で111名が自転車に乗れた.罹病期間が30ヶ月経過した後,臨床的にパーキンソン病45名,非定型的パーキンソニズム66名(MSA 35名,PSP 9名,LBD 3名,CBS 2名,血管性パーキンソニズム 17名)と診断された.パーキンソン病では2名(2/45;4.4%)が自転車に乗れなくなっていたが,非定型的パーキンソニズムでは34名(66;51.5%)が自転車に乗れなくなっていた.

これをBicycle signとして,診断への有用性を評価すると,感度52%,特異度96%,AUC(area under curve)0.74と良好な結果であった.回帰分析では年齢,パーキンソニズム,失調は有意な相関を示さなかった.

自転車に乗るという行為はバランス,協調運動,下肢のリズミカルな運動などが相互作用し可能になるが,非定型的パーキンソニズムでは黒質以外にも変性が生じる結果,バランスや協調運動にも障害を来すため,自転車が乗れなくなるのではないかと推測される.

昨年のNew Eng J Med にも,すくみ足症状が強くても自転車に乗ることができるパーキンソン病患者さんのレポートがあったが(過去ブログ参照),今回は同様の現象を診断に応用したものといえる.「自転車に乗れますか?」は,今後,問診の際にチェックすべき質問といえよう.

Lancet. 2011;377:125-126.

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すくみ足の目立つパーキンソン病患者さんに対する驚くようなリハビリ方法

2010年04月07日 | パーキンソン病
少々,忙しいことを言い訳にして投稿もご無沙汰になってしまったが,「これは書いておきたい!」というケースレポートを見つけたので久しぶりに再開した.

患者さんはオランダ人の58歳男性,特発性パーキンソン病と診断され,発症10年を経過し,歩行時にすくみ足を認める.ビデオで見る限り,極めて高度のすくみ足を認めるのだが,なんと次のビデオでは自転車をスイスイ乗りこなす場面を見ることになる.きちんとペダルを漕ぎ,そしてハンドルもうまく操って,くるっと一回りして元の場所に戻ってきた・・・いやはやとても驚いた.

なぜ自転車なら上手に乗れるのだろう.症例報告はごく短いもので,あまり考察もされていないのだが,著者らは歩行と,自転車のペダルをこぐという2つの動作では,その motor control mechanism が異なっているのだろうと言っている(よく分からない説明だが,感覚的に分からないでもない).さらに著者らは,無動が強くて,リハビリが困難な患者さんであっても,自転車のペダルをこぐような運動をリハビリに取り入れることができるかもしれないと言っている.

この記事を読み,本当だろうかと私が担当する患者さん数名にに聞いてみたが,その中にリハビリでの自転車のペダルこぎはと ても良い訓練であることを認識している人がたしかにいた.「乗り始めと降りるときは怖いが,乗ってからは問題はなく,体も動かせるし,筋肉もつくし,とても良い」のだそうだ.

この記事を読まれて,自転車こぎをリハビリに取り入れようと思われる方もいるかもしれないが,以下の点は気を付けていただきたい.まず普通の自転車ではなく,ジムとかリハビリ室にあるような固定された自転車マシーンを使うべき.また乗り降りの際には気をつけて,誰かに付き添ってもらうこと.そしてヘルメットはかぶること.ビデオの中で患者さんはヘルメットをかぶっていないのだが,かぶった方が当然安全だ.雑誌のeditorもこの患者さんがヘルメットをかぶっていないことについてわざわざ言及し,オランダでは米国と違ってヘルメット着用は義務付けられていないから着用していないと述べている.でも法律はさておき,安全対策に万全を期すことは言うまでもない.

New Eng J Med 362;e46, 2010
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ドパミンアゴニスト離脱症候群

2010年01月18日 | パーキンソン病
中脳ドパミン神経系は,黒質線条体系と中脳皮質辺縁系に分けられる.コカインやアンフェタミンのような中脳皮質辺縁系を刺激する薬剤では薬物依存や離脱症状が生じることが知られている.パーキンソン病に対するドパミン補充療法は,その運動症状を,黒質線条体系を刺激して改善するが,同時に中脳皮質辺縁系も刺激することになる.よって理論的にはドパミン作動薬による薬物依存や離脱症状が生じる可能性がある.

今回,ドパミンアゴニスト(DA)の減量が,一部のパーキンソン病患者において,離脱症状(Dopamine agonist withdrawal syndrome; DAWS)を引き起こしたという研究が,Weil Cornell Medical Collegeより報告された.このグループは,以前,DAに関連した衝動制御障害(impulse control disorder; ICD,病的賭博や衝動買い,性欲亢進を呈する)を報告したグループである.

対象は,運動・非運動症状を検討する目的でprospectiveに集めた認知症を伴わないパーキンソン病患者93名で,これら症例に対しretrospectiveにDAWSについての検討を行っている.DAWSの定義は,DAの減量の程度に依存して生じる,重度でステレオタイプな身体・精神的症状とし,さらにL-DOPAや他の抗パーキンソン剤による治療にて改善がなく,他の要因によっては説明できないものとした.

93名中,40名においてDAによる治療が行われ,うち26名においてDAの減量が行われた.このうち,5名(19%!)でDAWSが認められ,残りの症例には認めなかった.5名いずれの症例も,もともとDAに関連したICDを認めていた! DAWSの症状は,他の薬剤における離脱症状に類似しており,具体的には,不安,パニック発作,広場恐怖症(agoraphobia),うつ,気分変調(dysphoria),発汗(diaphoresis),疲労,疼痛,起立性低血圧,薬物渇望(drug craving)を呈した.DAWSを呈さない患者と比較すると,特徴として,症状発現時のDA内服量が多いこと(P=0.04),それまでのDA内服総量が多いこと(P=0.03)が挙げられた.DAWS症例群は,罹病期間やドパミン作動性薬剤の内服量が,非DAWS症例群とほぼ同じであるにもかかわらず,UPDRSが低値(すなわち軽症)であった(P=0.007).DAWS症状の程度は,減量の程度が大きいほど重症であった.またDAWS症状は,定義の通り,L-DOPAや他の抗パーキンソン剤には反応しないが,唯一,DAの再導入で軽減した.

本研究は実質,retrospective studyであり,症例数が少ないという問題点はあるものの,DAはステレオタイプな離脱症候群を一部の患者,具体的にはICDを来した症例において引き起こすということを初めて示した点で重要な研究である.個人的な経験では,DAを速やかに減量するケースとしては,①コントロールできない幻覚が生じた場合,②camptocormiaや首下がりといったbendingを来し,DAがその原因と考えられた場合,③DBS後,抗パーキンソン剤の減量が可能になった場合,が思いつくが,幸い,いずれにおいても,本研究のような離脱症状を経験したことがなく,確かに限られた症例におけることなのかもしれない(ただし,著者らはDBS後にはすみやかなDAの減量が行われるが,この時に出現する精神症状にもDAWSが関与する例がある可能性があると述べている).

ICD症例では,早めにそれに気づいてDAを減量中止しないと症状は増強し,増強してからやめようとしても今度は離脱症状が出現してしまう.離脱症状を緩和できるのはDAのみであり,患者は減量中止を嫌がり,このためDAをやめられず,ICDが増悪していくという悪循環が生じると著者らは述べている.このような悪循環を防ぐにはICDに早く気づき,そしてDAを早期のうちに中止することが重要である.

また著者らはこのようなICDやDAWSが先行し,運動症状が強くない症例を,黒質線条体系の障害より,中脳皮質辺縁系障害が先行した症例と考え,mesocorticolimbic variant of PDという概念を提唱した.非常に興味深く,たしかに信憑性があるような説に思える.いずれにしても今後,DAを減量する際,患者さんが「具合が悪くなった」と述べたとき,DA減量に伴い運動症状が増悪したのか,離脱症状が出現したことを言っているのか区別することが重要である.さらにDAWSは本当にICD症例のみで起こる現象であるのかも多数例で検討を行っていく必要がある.

Arch Neurol 67; 58-63, 2010

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パーキンソニズムに伴う幻視 ―practical neurology誌のご紹介―

2008年07月28日 | パーキンソン病
 私の好きな医学雑誌のひとつにpractical neurologyがある.あまり知られていないかもしれないが,JNNP誌の姉妹誌で,JNNPなどにpublishされたレベルの高い臨床研究を噛み砕き,より実践的な内容を神経内科学の専門家以外のドクターにも伝えようとする雑誌である.とても分かりやすく,実践的で,かつ質の高いreviewを読むことができるので,レジデントや学生さんの勉強の資料として,また専門医であっても知識の整理に役立つと思う.さて今回はそのpractical neurologyの最新号の記事What to doのなかから,「パーキンソン病患者に幻覚が出現したら・・・」という内容のreviewを紹介する.著者はオーストリア・インスブルグ大学のPoewe W教授.以下,サマリーを記載する.

 幻視はDLBでしばしば生じ,パーキンソン病でもその経過中40%の患者に生じる.MSA-PやPSPのような疾患より,Lewy body diseaseに比較的特異的に生じる(注.ただしMSAなどでも稀ながら生じうる).通常,その幻視は色彩があり,細部まで細かく分かるがが,「誰かがそこにいた感じがする」とか,「ひとが通り過ぎた」といった軽微なタイプもある.

 幻視の出現に関しては,加齢と認知機能低下が最も重要な危険因子だが,外的要因として,脱水や感染,電解質異常も重要である.もちろん薬剤(抗パ剤や他の中枢神経系薬剤)も重要である.抗パ剤のなかではL-DOPAと比べ,ドパミン・アゴニストが重要であるが,治療を開始して早期に幻視が出現した場合はParkinson disease with dementia(PDD)である可能性が増加する.
 
 治療方針としては,すぐに非定型抗精神病薬を開始せずに,脱水や感染,電解質異常の有無を確認し,あればその治療を行う.つぎに内服薬の調節を行うが,以下の順番を勧めている.

1. 抗コリン剤,セレギリン,シンメトレル中止
2. アゴニストの減量・中止
3. L-DOPA減量

これでも幻視が残存する場合には以下を行う.
1. PDDの可能性が高い場合,コリンエステラーゼ阻害剤(rivastigmine 3-12 mg/h;日本未発売)を開始する
2. もしくは非定型抗精神病薬を開始する.まずセロクエル眠前 25mgから開始し,200mgまで増量可能.クロザピン(世界初の非定型抗精神病薬.日本未発売)は第2選択で,その場合,毎週採血を要する.

 治療の最後の部分で1に関しては日本のガイドラインに記載がなく興味深い.確かに個人的にもDLBの幻覚にアリセプトが明らかに有効であることは経験しており,コリンエステラーゼ阻害剤はPDDやDLBの幻覚に試してよいのかもしれない.一方,非定型抗精神病薬のクロザピンは世界初の非定型抗精神病薬で,最も効果があると言われるが,無顆粒球症や心血管障害,けいれん発作などの危険な副作用を発現する.最も効果的かつ最も危険な非定型抗精神病薬とも評されている .

Pract Neurol 8; 238-241, 2008 
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パーキンソン病の音楽療法 

2008年06月28日 | パーキンソン病
パーキンソン病患者さんが外来に1冊の本を持ってきた.順天堂大学 林明人先生著の「パーキンソン病に効くCDブック」という本であった.この本のCDを聞きながら歩くとすくみが軽くなるそうで,「ほかの患者さんにも勧めてほしいから先生聴いてください」とお貸しくださった.早速,読んでみたところ,パーキンソン病の歩行障害の大きな原因の一つは「脳内のリズム障害」であり,この本に付属のCDを聴くと,脳に歩行リズムが刻まれ歩行障害が改善すると書かれている.

ほんとかしらと思いつつひと通りCDを聞いてみた.1部と2部に分かれていて,1部は聴くだけで良いそうだ.曲名は私の好きなベートーベンのピアノコンチェルト「皇帝」や,シューベルトの「ます」,バッハの「G線上のアリア」,エルガーの「威風堂々」などとても有名な曲が電子ピアノで演奏されている.ただちょっと違うのはメトロノームが大きな音で1分間に120回というリズムを刻んでいる点である.2部は音楽に合わせて歩くパートで,ここにもベートーベンの6番「田園」や9番「合唱」があって著者のベートーベン好きが窺われるが,曲によってメトロノームのリズムが1分間に90回,100回,110回と異なっている.自分の歩行リズムを計算式から算出し,それよりややはやい速度の曲を選び歩行訓練をすると有効なのだそうだ.

じつは昨日まで開催されていた「第26回神経治療学会」でも歩行障害と嚥下障害に対して音楽療法が有効であった症例が報告されていた.歩行障害に対して音楽療法は即効性を示したり,音楽を聴かなくても歩行が改善した状態を保てるようになったり,意欲・活動性が増加して明るくなったり,とても有効であったそうだ.別の演題では,嚥下障害がメトロノームによる音リズムによって改善していた(こちらはリズムのみ).口腔期運動の改善がみられたそうだ.

この音楽療法の機序としては,パーキンソン病患者には「内的リズム形成障害」があり,これに対し音楽による「外的リズム刺激」を行うことが有効で,さらには「内的リズム」を再生させる可能性もあるのではないか,ということである.まだエビデンスがない状態なので,もちろん今後,エビデンスを築きあげる必要があるが,どうも音楽療法は効きそうな印象である.


パーキンソン病に効くCDブック―スムーズに歩ける!気分も明るくなる!
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パーキンソン病と妊娠

2008年03月29日 | パーキンソン病
 若年性パーキンソン病の患者さんが妊娠・出産されることは当然ありうることだが,案外,パーキンソン病が妊娠に及ぼす影響や,抗パーキンソン病薬の使用法や催奇形性については良く分かっていないようだ.

 まず妊娠自体がパーキンソン病に与える影響については様々な報告があり,悪化から改善までいろいろあり,一定の見解はない.

 つぎに治療についてだが,従来の多くの報告はL-DOPAについての検討である. L-DOPAは胎盤を通過し,胎児血中濃度も母体と同程度になるが,脱炭酸酵素阻害剤(DCI)は胎盤を通過しないことが分かっている.L-DOPAは動物実験において骨形成異常をきたし有害であるという報告がある一方,ヒトでは既報30例中に1例しかそのような報告はないとの記載もある.基本的にL-DOPA単剤,合剤とも奇形の合併の報告は少なく,比較的安全性は高いと考えられているようだ.
 これに対し,アマンタジンは動物モデルで催奇形性(とくに心血管奇形)の報告があり,避けたほうが良いようだ.
 ドパミン・アゴニストについてはレポートに乏しい.薬剤の添付文書を見るとパーゴライドを除き禁忌になっている(パーゴライドも「治療上の有益性が危険性を上回る」と判断される場合にのみ投与する,となっている).麦角系ドパミン・アゴニストで治療した症例報告はごく少なく,ブロモクリプチン,パーゴライドを用いた症例が1例ずつあるが,それらでは問題はなかったようだ.L-DOPA+カベルゴリンでの治療中,2度の分娩を経験した1症例の報告もある(Mov Disord 20; 1078-1079, 2005).一方,非麦角系は,妊娠中にプラミペキソールが有効であった症例が1例のみ報告されている.ガイドラインでは若い患者さんにはアゴニスト中心の治療が勧められているが,アゴニストが妊娠に及ぼす影響の検討がほとんどないのは問題である.
 さらにCOMT阻害剤やMAO-B阻害剤についてはほとんど情報がないが,添付文書では「有益性が危険性を上回るときのみ」となっている.
 以上より,妊娠したパーキンソン病患者さんの治療としては(エビデンスは乏しいものの),可能ならL-DOPAのみで行うということになるのだろう(ただし若年性パーキンソニズムではwearing offが激しい場合があるので,患者さんとの話し合いの上でパーゴライド,COMT阻害剤,MAO-B阻害剤を併用することもありうる).

 さらに以下のようなことも考慮する必要があるかもしれない.
① 妊娠後24週までは骨,臓器が活発に作られるため,抗パーキンソン病薬の内服はなるべく控え,逆に24週経過すれば服用を再開しても良い可能性がある.
② とくに出産時は相当な力が必要になるので,十分な抗パーキンソン病薬の使用が必要ではないか?

 いずれにしてもパーキンソン病患者さんの妊娠では様々なことを検討する必要があり,一概に治療方針を決め難い.主治医は患者さんとよく相談し,できる限り最新のエビデンスを示したうえで治療方針を決めることが重要である.そのためには抗パーキンソン病薬の妊娠への影響を調査するデータベースの作成を進めていくべきであろう.

Mov Disord 20; 1078-1079, 2005 
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眼球運動制限と認知症を伴う若年性パーキンソニズム(PARK9)

2007年09月30日 | パーキンソン病
 Kufor–Rakeb症候群をご存知であろうか?これは1994年,両親に血族結婚を認めるヨルダン人において報告された病気である.発症は12 ~16歳で,パーキンソニズム(仮面様顔貌,筋強剛,寡動)を主徴とし,さらに,痙性,上方視麻痺,認知症も認める.MRIでは淡蒼球の萎縮を認め,のちにびまん性脳萎縮を呈する.著者は罹患者の出身地にちなみKufor–Rakeb症候群と名付けた(J Med Genet. 38: 680-682, 2001).のちに顔面・口蓋・趣旨ミオクローヌスや幻視,oculogyric dystonic spasmを呈することも報告された.常染色体劣性の家族性パーキンソン病(ARPD)の一つとしてPARK9とも呼ばれるようになった.興味深いことに,錐体外路症状にはL-DOPAが劇的に効くことが知られるが,徐々に効果は減弱しL-DOPAの治療域が狭くなる.

 原因遺伝子については,ARPDのうちparkin(PARK2),PINK1(PARK6),DJ-1(PARK7)のいずれも変異は認められず否定された.2006年,Ramirezらはneuronal P-type ATPase,ATP13A2が原因遺伝子であることをチリ人家系の検討の結果,明らかにした.遺伝子変異は欠失とsplice site mutationのヘテロ接合で,オリジナルのヨルダン人家系は22塩基対の重複をホモ接合性に認めた(Nat Genet 38: 1184-1191, 2006).

 つぎは当然,この遺伝子変異が,どの程度の頻度で,若年発症パーキンソニズムのなかに含まれているか知りたくなるが,最近のNeurology誌にイタリア人とブラジル人において検討した結果が報告された.対象は46例で,その内訳はjuvenile parkinsonism(20歳以下発症と定義)11名と,young onset PD(21~40歳発症と定義)35名.33例が常染色体劣性遺伝と考えられ,残り13例が孤発例.症状については42例はパーキンソニズムのみ,4名は多系統の症状を認めた.遺伝子解析の結果,ブラジル人の孤発性juvenile parkinsonismにおいて1名Gly504Arg変異をホモ接合性に認めた(臨床的にはオリジナルと似ているが,錐体路症状と認知症を認めない).さらにイタリア人のyoung onset PDにThr12Met,Gly533Argというミスセンス変異を,それぞれ1名ヘテロ接合性に認めた.
 
 以上の結果はATP13A2遺伝子変異ホモ接合が,家族性パーキンソン病(juvenile parkinsonism)の一つの原因であることを再確認するとともに,ヘテロ接合の場合,young onset PDと関連がある可能性を示唆するものである.つまり,若年性パーキンソニズムに,眼球運動制限,認知症を伴うような場合には遺伝子解析を行うべきであろう.今後,本邦例での解析の結果が待たれる.

Neurology 68; 1557-1562, 2007

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Camptocormia(腰曲り)をどう治療するか?

2007年09月22日 | パーキンソン病
 Camptocormiaは以前の記事に記載したが,ギリシア語のKamptos=bend(曲がる)と Kormia=trunk(体幹)がその語源で,顕著な腰曲がりを指すが,椅子に腰掛けたり,ベッドに横になったりすると腰曲がりが消失したり,両手を壁についたり,片足を椅子に乗せたりすると不思議なことに腰が伸びてしまう.Baylor大学における16例のcamptocormiaを呈する患者の検討では,その基礎疾患としParkinson病が11名,ジストニアが4名,Tourette syndromeが1例で,治療として12名でL-DOPA内服が行われ,いずれもわずかに改善,もしくは無効で,腹直筋botulinum toxinは9例中4名で著明な改善と報告されている(Neurology 65; 355-359, 2005).

 ではこのcamptocormiaをどのように治療すべきであろうか?興味深い症例報告があるので紹介したい.症例は49歳の男性でパーキンソン病の罹病期間は9年間で,以前はL-DOPAが有効であったものの,近年,peak-dose dyskinesiaとmotor fluctuationが出現・増強している.後者についてはwearing offが見られ,offにはすくみ現象に加え,camptocormiaを呈した.治療としてL-DOPA/carbidopa/entacapone(つまりスタレボのこと)の増量を行ったところ,camptocormiaおよびmotor fluctuationを軽減することができた.つまり進行期パーキンソン病症例のなかにはL-DOPA responsive camptocormiaが存在するという報告である(Nat Clin Neurol 3; 526-530, 2007).
 
 ここで自分なりのcamptocormiaを呈する症例の治療に関して提案を行ってみる.
①まずパーキンソニズムを認めるかどうか調べる.もしここでパーキンソニズムを認めない場合は,運動ニューロン病,ミオパチー,筋ジストロフィー,1次性・2次性ジストニア,Stiff-person症候群(抗GAD抗体測定),精神疾患,脊椎異常,ホジキンリンパ腫に伴う傍腫瘍症候群,バルプロ酸副作用などを鑑別する.
②パーキンソニズムを認めた場合は,それがパーキンソン病か否かを鑑別する.この鑑別には,臨床像(対称性の発症や,早期からの自律神経症状・姿勢反射障害・認知症,L-DOPA反応性不良,小脳失調・大脳皮質症状・著明なジストニアの合併などはパーキンソン病ではない可能性を示唆する)やMIBG心筋シンチが有用である.
③パーキンソン病であれば,()まず,上記のようなoff dystoniaの可能性がないか検討する.この場合,抗パ剤調節にて改善しうる(20%にパーキンソン病症例に有効という報告がある;JNNP 77; 1223-1228, 2006).()腹直筋ジストニアの有無を筋を触ったり表面筋電図で確認.もしそうであれば腹直筋botulinum toxin.()最後の手段は両側性視床下核DBS.無効という報告もあれば,有効性を示した症例報告もある(Parkinsonism and related Disord 12; 372-375, 2006).
④パーキンソン病でない場合,MSA-PやPSP, CBDを検討する.PSPは渉猟した範囲では合併する症例の報告は見つからなかったが,近年,PSPの疾患概念(臨床表現型の多様性)は大きく変貌しているので,本当に合併しないとは言えない.MSA-Pについては若干の症例報告があるが治療についてはほとんど分かっていない.抗パ剤抵抗性の疾患であるため,おそらく腹直筋botulinum toxinが行われることになるだろう.

みなさんはどうされていますか,治療のご経験などありましたらどうぞ教えてください. 

Nat Clin Neurol 3; 526-530, 2007 
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新しい抗パーキンソン病薬コムタンと「持続的ドパミン刺激(CDS)」という考え方

2007年07月16日 | パーキンソン病
 「コムタン」は日本で初めてwearing-off現象の改善に対し適応が認められた末梢COMT阻害剤である.先日説明会を聞いたのでまとめておきたい.

 まずコムタンは必ず既存の抗パーキンソン病薬であるレボドパ・カルビドパまたはレボドパ・塩酸ベンセラジド合剤(DCI配合剤)との併用で用いる.血液脳関門を通過しないので,それ自体では抗パーキンソニズム効果を有さないためだ.コムタンは,L-DOPAを代謝するCOMT(カテコール-O-メチル基転移酵素)を阻害することで,末梢でのL-DOPAの血中半減期を延長させ,wearing-off現象を改善する.

 コムタン自体の半減期は約51分である.日本国内で実施されたwearing-off現象を有するパーキンソン病患者対象の臨床試験において,コムタンはプラセボと比較し,L-DOPAの血中半減期を100mg群で約30%,200mg群で約50%延長した.しかしL-DOPAの血中濃度自体を上昇させることはない(!).またL-DOPA/DCI配合剤にプラセボまたはコムタンを8週間併用すると100mg群,200mg群ともON時間を1日平均1.4時間延長し,プラセボ群(0.5時間の延長)に対し有意なON時間の延長効果を認めた.重要なことはコムタンは全例で有効ということではなく,レスポンダーが7割,ノン・レスポンダー3割であることだ.ノン・レスポンダーを除きレスポンダーに限定するとON時間の延長は1日平均2時間台に延びるそうである(1日で2時間の延長となれば有効性も実感できるだろう).ノン・レスポンダーが存在する理由については不明であるが,COMT遺伝子の多型のせいや,すでにドパミン受容体に可塑的変化が生じてしまっている可能性が考えられる.

 また有害事象発現率はプラセボ群70%,100mg群73%,200mg群86%であった.つまりON時間の延長効果は100mg群,200mg群とも同等ながら,有害事象発現率は200mg群で有意に高率,すなわち海外では200mgが推奨されているものの,日本では1回100mgの使用が推奨されるということになる(一方,軽症例では1回50mgで良いかについてはエビデンスがなく基本的に行うべきではない).具体的な副作用としては,ジスキネジア,嘔気といったドパミン過剰状態に伴うもののほか,着色尿(赤褐色),下痢,腹痛,便秘などが見られる.あまり記載はないが個人的には幻覚の増悪を経験した.ドパミン過剰に伴うと考えられる副作用に対しては基本的にコムタンでなくL-DOPA減量にて対処する.

 コムタンはwearing-off現象を有するパーキンソン病患者において適応が認められたが,症状の日内変動を認めない患者に対しても有効である可能性がある.というより,理論的にはwearing offが出る以前より使用したほうが良い可能性がある.これは従来のL-DOPAの内服法のようにドパミン受容体を波動状に刺激すること(pulsatile stimulation)は,長期的にジスキネジアや症状の変動(motor fluctuation)を引き起こす原因となる,という仮説があるためである.これに対し,コムタンを併用することで分解を遅らせ,3時間ごとに内服することができれば,ドパミン受容体の刺激に波がなくなり持続的な刺激(continuous dopaminergic stimulation;CDS)が可能になる.このCDSを実現できれば,L-DOPAの大きな問題であるジスキネジアやmotor fluctuationを引き起こさないで済むのではないかという期待があるのだ.実際にthe STRIDE-PD studyという臨床研究が欧米で現在進行中である.STRIDEとはStalevo Reduction in Dyskinesia Evaluationのことで,このStalevoは欧米ですでに発売されているエンタカポン(コムタン),カルビドパ,L-DOPAの配合剤のことである(すなわちコムタンとメネシットの合剤).もしこの薬がジスキネジアやmotor fluctuationの出現を遅らせ,抑制できれば,パーキンソン病の治療は大きく進歩するものと考えられる.the STRIDE-PD studyの結果が非常に期待される.
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Pull test(どうやって姿勢反射障害を見ればよいのか?)

2007年06月24日 | パーキンソン病
 学生や神経内科学をはじめて学びにきた前期研修医の質問には時々答えにつまることがある.たとえば「ミオトニアは不随意運動ですか?」「retropulsionはどうなったら陽性なんですか?」という具合だ.前者は誘発して起こる現象だし,「神経症候学(平山)」の不随意運動の部分にも記載がないので不随意運動ではないのだと思うが,後者の質問についてはちょっとうまく答えられなかった.

 パーキンソン病の重症度の指標であるUPDRSを取られる方はご存じだと思うが,retropulsionはその中の評価項目の一つでもある.Retropulsionを評価するためには,患者さんの後ろに立ち,肩を後方に引き,姿勢反射障害の有無をチェックする.これがpull testと呼ばれる試験であるが,この試験に関するhistorical reviewを見つけたので紹介したい.

 まずパーキンソン病における姿勢反射障害の歴史について述べてあり,その記載はRomberg(1853年)の時代にまで遡るそうだ.1880年代に入りCharcotが患者の洋服を引っ張り,姿勢反射障害を評価するようになり,時を経て1960年代になりHoenとYahrが患者の胸骨を押して評価する方法を始める(push testという;危険なので避けるべき).最終的に1980年代に入り,パーキンソン病界の大御所Stanley Fahnがpull testの形にまとめ,1987年にはUPDRSのitem 30にpostural instabilityとして取り込んだ.

 次にreviewの著者は,1991年の国際学会でmovement disorderの専門医27人にpull testに関する質問を行った結果を記載している.それによるとpull testの方法や評価方法は案外まちまちであることが分かる.例えば,うち1名ではまだpush testを行っていたり,患者と検者の距離が近かったり離れていたり,患者が引かれる強さがばらばらであったりしたそうだ.使用目的についてはパーキンソン病のstagingのほか,ハンチントン病やdopa-responsive dystonia,atypical parkinsonism(PSP)の診断に使っているという答えがあった.また引っ張られたあと,後方へ何歩,足が出た場合,姿勢反射障害陽性とするかについては,1歩でも動いたら陽性が4人,2歩以上で陽性が14人,3歩以上で陽性が6名とばらばらであった!(おそらく何歩足が出て,自分で立ち直れたと正確に記載しておくことのほうが重要なのだろう)

 ではどのようにこの検査を行えばよいか?UPDRSにおけるpull testについては以下のように推奨されている(Neurology 62; 125-127, 2004も参照).
1. 検査の前に患者さんに後方に引っ張ることを説明すること
2. そして患者自身が倒れないように努力し,必要があれば後方に足を出しても良いことを説明すること
3. 実際に評価する前に,少なくとも一度は練習をさせてみること
4. 患者は直立し,前屈みにはならず,また歩幅は適度に離しておくこと
5. 素早く強く引っ張ること(日本語訳が難しいが,briskly and forcefullyと言っている)
6. 検者は患者を受け止める用意をするが,少なくとも3歩患者が足を出せる距離を保つこと
7. もし患者さんが自分よりも大きい場合には検者の背後にさらにサポートする人についてもらうこと

 実際の評価方法は,UPDRSに倣って,以下のように記載すればよい.
0. 正常
1. 後方突進あるが,自分で立ち直れる.(注;ここで何歩という記載をすればよい)
2. 姿勢反射がおきない.検者が支えなければ倒れてしまう.
3. きわめて不安定.自然にバランスを失う.
4. 介助なしでは立てない.

 このhistorical reviewはMov Disord (2006)のものだが,嬉しいことにDVDも付いていて,Fahn自身による解説とpull test実演を見ることができるので一度ご覧いただきたい.パーキンソン病における転倒のしやすさは,もちろん姿勢反射障害のみによるものではなく,pull testのみでその予測ができるわけではないが,pull testは簡単に行える試験だし,もしretropulsionが陽性であれば生活指導,たとえばドアを引いて開けるときや,引き出しを引いて開けるときには後方への転倒に気をつけるように本人・家族に指導することもできる.

 さあ明日は学生さんと一緒にpull testに再挑戦だ.(pull testについてご意見などあればぜひ教えてください)

Move Disord 21; 894-899, 2006 
Neurology 62; 125-127, 2004 
Comments (2)
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