アルツハイマー病では,脳の萎縮(=体積の減少)が病態の進行を示す重要な指標とされてきました.しかし,アミロイドβを除去するアミロイドβ抗体薬(レカネマブ,ドナネマブなど)の臨床試験では,治療群において脳体積が対照群よりも速く減少するという「矛盾した」結果が報告されています.過去のブログでも紹介しました(https://tinyurl.com/2bzfv7wq).
これに対してLancet Neurology誌の「personal view」欄に「アミロイド除去に伴う偽萎縮(amyloid-removal-related pseudo-atrophy)」という新しい解釈が提唱されています.この抗体薬による脳萎縮は神経変性の加速を意味しないという説です.
この論文の中でも重要なのは図1A-Fの6つのグラフです(AとEのみ提示).
A. 脳全体の体積減少とアミロイド除去量:
抗体薬によるアミロイド除去が多いほど,脳全体の体積減少が顕著となる.
B. 脳室体積拡大とアミロイド除去量:
アミロイド除去量が多いほど,脳室拡大が顕著となる.
C・D. ARIA発生率との関連:
ARIAの発生率が高い抗体薬では,脳の体積減少や脳室拡大がより顕著となる.
E・F. 臨床転帰(CDR-SBスコア)との関連:
脳の体積減少や脳室拡大は,必ずしもCDR-SBスコアの悪化と相関していない.
著者らはこのE,Fのデータより,治療群では脳体積が減少しながらも認知機能の低下は抑制される傾向があるとし,脳の体積減少が「治療の悪影響」ではなく,アミロイドβ除去による反応と捉えています.そして脳体積の減少は,アミロイドの除去,その周囲のグリア細胞や炎症細胞への影響,アミロイド関連画像異常(ARIA)や液体シフト(脳脊髄液動態への影響)に関連する可能性が高く,真の萎縮ではなく,「偽萎縮」と呼ぶのが適切であると述べています.つまりこれらの脳体積変化は治療効果の一部だということです.
しかし著者らも述べていますが,この脳萎縮が真に「安全」かつ「治療効果の一部」と言えるかについては,長期的なデータが不足しています.議論された臨床試験は18〜24か月程度の観察に留まっており,脳萎縮を呈した患者の認知機能の長期フォローアップが必要だと思います.また個々の症例データが議論されていない点も問題で,ApoE遺伝子多型やARIA,さらにドナネマブで報告されている24週の時点のNfLの一過性増加(=神経軸索の損傷)などと脳萎縮の関連を検討する必要があると思います.
私の感想をまとめると,興味深い「personal view」とは思いますが,現時点で「脳萎縮は安全」と結論づけるにはデータが不十分で,長期試験や個々の患者レベルのデータ解析が必要だと思います.今後の臨床試験や症例報告にて,脳の体積変化に注目することが重要だと思います.最後にもう1点,この論文の利益相反(COI)ですが,7名の著者中,Biogenの記載があるのが5名,Eisaiが4名,Lillyが3名です(いずれともCOIがない著者は2名).論文の透明性が確保されているわけですが,最終的にはこの情報をもとに読者が批判的に論文を評価することが求められます.
Belder CRS, et al. Brain volume change following anti-amyloid β immunotherapy for Alzheimer's disease: amyloid-removal-related pseudo-atrophy. Lancet Neurol. 2024 Oct;23(10):1025-1034.(doi.org/10.1016/S1474-4422(24)00335-1)
これに対してLancet Neurology誌の「personal view」欄に「アミロイド除去に伴う偽萎縮(amyloid-removal-related pseudo-atrophy)」という新しい解釈が提唱されています.この抗体薬による脳萎縮は神経変性の加速を意味しないという説です.
この論文の中でも重要なのは図1A-Fの6つのグラフです(AとEのみ提示).
A. 脳全体の体積減少とアミロイド除去量:
抗体薬によるアミロイド除去が多いほど,脳全体の体積減少が顕著となる.
B. 脳室体積拡大とアミロイド除去量:
アミロイド除去量が多いほど,脳室拡大が顕著となる.
C・D. ARIA発生率との関連:
ARIAの発生率が高い抗体薬では,脳の体積減少や脳室拡大がより顕著となる.
E・F. 臨床転帰(CDR-SBスコア)との関連:
脳の体積減少や脳室拡大は,必ずしもCDR-SBスコアの悪化と相関していない.
著者らはこのE,Fのデータより,治療群では脳体積が減少しながらも認知機能の低下は抑制される傾向があるとし,脳の体積減少が「治療の悪影響」ではなく,アミロイドβ除去による反応と捉えています.そして脳体積の減少は,アミロイドの除去,その周囲のグリア細胞や炎症細胞への影響,アミロイド関連画像異常(ARIA)や液体シフト(脳脊髄液動態への影響)に関連する可能性が高く,真の萎縮ではなく,「偽萎縮」と呼ぶのが適切であると述べています.つまりこれらの脳体積変化は治療効果の一部だということです.
しかし著者らも述べていますが,この脳萎縮が真に「安全」かつ「治療効果の一部」と言えるかについては,長期的なデータが不足しています.議論された臨床試験は18〜24か月程度の観察に留まっており,脳萎縮を呈した患者の認知機能の長期フォローアップが必要だと思います.また個々の症例データが議論されていない点も問題で,ApoE遺伝子多型やARIA,さらにドナネマブで報告されている24週の時点のNfLの一過性増加(=神経軸索の損傷)などと脳萎縮の関連を検討する必要があると思います.
私の感想をまとめると,興味深い「personal view」とは思いますが,現時点で「脳萎縮は安全」と結論づけるにはデータが不十分で,長期試験や個々の患者レベルのデータ解析が必要だと思います.今後の臨床試験や症例報告にて,脳の体積変化に注目することが重要だと思います.最後にもう1点,この論文の利益相反(COI)ですが,7名の著者中,Biogenの記載があるのが5名,Eisaiが4名,Lillyが3名です(いずれともCOIがない著者は2名).論文の透明性が確保されているわけですが,最終的にはこの情報をもとに読者が批判的に論文を評価することが求められます.
Belder CRS, et al. Brain volume change following anti-amyloid β immunotherapy for Alzheimer's disease: amyloid-removal-related pseudo-atrophy. Lancet Neurol. 2024 Oct;23(10):1025-1034.(doi.org/10.1016/S1474-4422(24)00335-1)