米Biogen Idec社とアイルランドElan社は,再発性の多発性硬化症(RRMS)患者に対し行った,α4β1(VLA-4)インテグリンのモノクローナル抗体natalizumab(商品名TYSABRI)とインターフェロンbeta-1a(商品名AVONEX)を併用したフェーズIII試験(SENTINEL)の1年目で得られた結果を第57回米国神経学会(AAN)で報告した.この報告はMSに関するscientific sessionsのなかで2演題続いて報告され,非常に多くの聴衆を集めた.このSENTINEL studyは欧米の124施設で行われた多施設共同ランダム化比較試験で,1171例の患者がエントリーしている.対象患者は18~55歳のRRMSで,EDSSは0-5.0に限定.Primary endpointは開始1年後の再発率(フロアより1年では短すぎるとの指摘あり)と,2年後における機能障害の進行であった.またsecondary endpointはT2WIならびにGd造影MRIでの異常信号病変の数とした.上記のendpoint等に関して,IFNbeta-1a単独群とnatalizumab+IFNbeta-1a併用群を比較した.
結論として,年間再発は前者が0.82回であったのに対し,併用群で0.38回(53% reduction;ハザード比 0.50,p<0.0001),T2高信号病変については76%,Gd陽性病変については87%の減少率.さらに再発なしの患者の割合は46% vs 67%と有意差あり,ステロイド必要量および入院期間も併用群で有意に減少した.有害事象に関しても,咽頭炎,うつ,不眠,不安などを認めた.
注;natalizumabの作用機序や合併症については,昨年11月28日の記事を参照.
このほかにGLANCE studyというglatiramer acetate(商品名COPAXONE)にnatalizumabを併用する臨床試験も報告された.こちらも1年間のstudyであるが,年再発率はglatiramer acetate単独が0.67回であったのに対し,併用群は0.40回(40% reduction)で,画像所見もT2高信号病変については62%,Gd陽性病変については74%の減少であった.
何とも愕然とする内容であった.多発性硬化症の再発を抑制する良い治療薬の組み合わせが見つかったのは本当に嬉しいことである.しかしここに登場したいずれの薬剤も本邦では現在,承認されていない!(使用したくても使用できない).今回の学会で強く感じたのは,欧米と日本の臨床研究のレベルの差がどんどん開いていることである(基礎研究は結構,善戦しているが・・・).少なくともこの学会では,医師主導の大規模臨床研究がきわめて重視され,基礎研究はあくまでもそのためのヒントを供給するものという位置づけにある(すなわちtranslational researchでなければならない),という流れができつつあるように感じた.いずれにしても今後一番心配なのは,多発性硬化症に限らず,欧米でエビデンスが確立した治療が日本では承認されていないという状況がどんどん加速していくことである.すなわち基礎研究の進歩は必ずしも患者の利益につながらないのである.日本において,すくなくとも基礎研究と同等に臨床研究が評価されること,さらにランダム化比較試験を行いやすい土壤を作ること(医師側の勉強,国の規制緩和・研究費の援助,患者側の理解,治験参加患者への医療費控除など)が必要である.
AAN, 57th annual meeting S36.001-003
結論として,年間再発は前者が0.82回であったのに対し,併用群で0.38回(53% reduction;ハザード比 0.50,p<0.0001),T2高信号病変については76%,Gd陽性病変については87%の減少率.さらに再発なしの患者の割合は46% vs 67%と有意差あり,ステロイド必要量および入院期間も併用群で有意に減少した.有害事象に関しても,咽頭炎,うつ,不眠,不安などを認めた.
注;natalizumabの作用機序や合併症については,昨年11月28日の記事を参照.
このほかにGLANCE studyというglatiramer acetate(商品名COPAXONE)にnatalizumabを併用する臨床試験も報告された.こちらも1年間のstudyであるが,年再発率はglatiramer acetate単独が0.67回であったのに対し,併用群は0.40回(40% reduction)で,画像所見もT2高信号病変については62%,Gd陽性病変については74%の減少であった.
何とも愕然とする内容であった.多発性硬化症の再発を抑制する良い治療薬の組み合わせが見つかったのは本当に嬉しいことである.しかしここに登場したいずれの薬剤も本邦では現在,承認されていない!(使用したくても使用できない).今回の学会で強く感じたのは,欧米と日本の臨床研究のレベルの差がどんどん開いていることである(基礎研究は結構,善戦しているが・・・).少なくともこの学会では,医師主導の大規模臨床研究がきわめて重視され,基礎研究はあくまでもそのためのヒントを供給するものという位置づけにある(すなわちtranslational researchでなければならない),という流れができつつあるように感じた.いずれにしても今後一番心配なのは,多発性硬化症に限らず,欧米でエビデンスが確立した治療が日本では承認されていないという状況がどんどん加速していくことである.すなわち基礎研究の進歩は必ずしも患者の利益につながらないのである.日本において,すくなくとも基礎研究と同等に臨床研究が評価されること,さらにランダム化比較試験を行いやすい土壤を作ること(医師側の勉強,国の規制緩和・研究費の援助,患者側の理解,治験参加患者への医療費控除など)が必要である.
AAN, 57th annual meeting S36.001-003