Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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多発性硬化症に対する新たな治療と日本の医療の問題点

2005年04月20日 | 脱髄疾患
米Biogen Idec社とアイルランドElan社は,再発性の多発性硬化症(RRMS)患者に対し行った,α4β1(VLA-4)インテグリンのモノクローナル抗体natalizumab(商品名TYSABRI)とインターフェロンbeta-1a(商品名AVONEX)を併用したフェーズIII試験(SENTINEL)の1年目で得られた結果を第57回米国神経学会(AAN)で報告した.この報告はMSに関するscientific sessionsのなかで2演題続いて報告され,非常に多くの聴衆を集めた.このSENTINEL studyは欧米の124施設で行われた多施設共同ランダム化比較試験で,1171例の患者がエントリーしている.対象患者は18~55歳のRRMSで,EDSSは0-5.0に限定.Primary endpointは開始1年後の再発率(フロアより1年では短すぎるとの指摘あり)と,2年後における機能障害の進行であった.またsecondary endpointはT2WIならびにGd造影MRIでの異常信号病変の数とした.上記のendpoint等に関して,IFNbeta-1a単独群とnatalizumab+IFNbeta-1a併用群を比較した.
結論として,年間再発は前者が0.82回であったのに対し,併用群で0.38回(53% reduction;ハザード比 0.50,p<0.0001),T2高信号病変については76%,Gd陽性病変については87%の減少率.さらに再発なしの患者の割合は46% vs 67%と有意差あり,ステロイド必要量および入院期間も併用群で有意に減少した.有害事象に関しても,咽頭炎,うつ,不眠,不安などを認めた. 注;natalizumabの作用機序や合併症については,昨年11月28日の記事を参照.

このほかにGLANCE studyというglatiramer acetate(商品名COPAXONE)にnatalizumabを併用する臨床試験も報告された.こちらも1年間のstudyであるが,年再発率はglatiramer acetate単独が0.67回であったのに対し,併用群は0.40回(40% reduction)で,画像所見もT2高信号病変については62%,Gd陽性病変については74%の減少であった.
何とも愕然とする内容であった.多発性硬化症の再発を抑制する良い治療薬の組み合わせが見つかったのは本当に嬉しいことである.しかしここに登場したいずれの薬剤も本邦では現在,承認されていない!(使用したくても使用できない).今回の学会で強く感じたのは,欧米と日本の臨床研究のレベルの差がどんどん開いていることである(基礎研究は結構,善戦しているが・・・).少なくともこの学会では,医師主導の大規模臨床研究がきわめて重視され,基礎研究はあくまでもそのためのヒントを供給するものという位置づけにある(すなわちtranslational researchでなければならない),という流れができつつあるように感じた.いずれにしても今後一番心配なのは,多発性硬化症に限らず,欧米でエビデンスが確立した治療が日本では承認されていないという状況がどんどん加速していくことである.すなわち基礎研究の進歩は必ずしも患者の利益につながらないのである.日本において,すくなくとも基礎研究と同等に臨床研究が評価されること,さらにランダム化比較試験を行いやすい土壤を作ること(医師側の勉強,国の規制緩和・研究費の援助,患者側の理解,治験参加患者への医療費控除など)が必要である.

AAN, 57th annual meeting S36.001-003 
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多発性硬化症に対するインターフェロンβ療法は自己免疫現象を惹起しない

2005年03月25日 | 脱髄疾患
インターフェロン(IFN)α,βは,ウイルスが感染した細胞が産生するウイルス増殖抑制物質として発見された.ともに分子量約2万の類似性の高いタンパク質で,βには糖鎖がついている.その後の研究により,抗ウイルス作用のほか,細胞増殖抑制作用や免疫調節作用を有することも明らかになり,現在,MSのほかに腎癌,多発性骨髄腫,ウイルス性肝炎等の疾患に用いられている.
 近年,国内でIFNα製剤投与中の甲状腺機能低下症,および甲状腺機能亢進症が報告されている.これらの症例の中でIFNα製剤投与後に甲状腺刺激抗体,抗甲状腺刺激ホルモン受容体抗体,および抗核抗体,抗ミクロソーム抗体,抗サイログロブリン抗体等の自己抗体が陽性化していたことなどから,これらの甲状腺機能異常症はIFNαが関与した自己免疫現象に関連していることが疑われた.また,このほかにもSLEの動物モデルにおいてIFNが病態の進展に関与しているという報告や,IFNα製剤による自己免疫現象との関連を疑う報告としてRA,自己免疫性肝炎,溶血性貧血,悪性貧血,血小板減少症等がある.一方,IFNβ製剤と自己免疫現象との関連は明らかでない.
 今回,オランダよりIFNβ製剤投与と自己免疫現象との関連について報告があった.対象はEuropean placebo-controlled double-blind, multicenter studyに登録したsecondary progressive MS (SPMS)患者とし,IFNβ製剤投与前と治療開始後6ヵ月毎の24ヶ月間において血液を採取し,生化学検査に加え,抗核抗体, 抗ミトコンドリア抗体, 抗平滑筋抗体,抗ミクロソーム抗体,抗サイログロブリン抗体を調べた.結果としてIFNβ製剤を投与した355名と偽薬を投与した353名を比較.両群間で治療開始後に自己抗体があらたに陽性になった割合は有意差なし.IFNβ製剤投与後,肝機能障害が出現する症例もあるが,肝酵素上昇と抗核抗体, 抗ミトコンドリア抗体, 抗平滑筋抗体との間に相関なし.甲状腺機能障害に関しては治療開始前において甲状腺機能障害と抗甲状腺マイクロソーム・サイログロブリン抗体は有意の相関を認めたが,治療開始後には相関はなかった.また抗核抗体上昇を伴う血管炎やRAの出現もなかった.
 以上の結果は,少なくともSPMSのコホートにおいては,IFNβ製剤は自己免疫現象を惹起することはないという結果を示唆するものである.

Neurology 64; 996-1000, 2005

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多発性硬化症において視神経炎で発症した症例は予後が良いのは本当か?

2005年02月23日 | 脱髄疾患
Clinically isolated syndrome(CIS) は,「最初のエピソードからなる症候群」と邦訳されるが,MSの早期の臨床的なエピソードと考えられ,具体的には①視神経炎,②脳幹症候群,③脊髄炎,④その他(hemisphericもしくはpoly-regional)からなる症候群である(Neurology 53:1184,1999).よって時間的空間的多発性を証明できていないためMSではないものの,今後,MSに移行する可能性がある状態を指す.これまで視神経炎で発症した症例は予後が良いとの報告がある一方,臨床的・画像的検討から予後の違いを見出せないとの報告もあった.
今回,SpainよりCISの症状の違いによりsecond attackの頻度が異なるか,また画像所見上その後の経過に違いが見られるかについての研究が報告された.方法としてはCIS 320症例を平均39ヶ月間経過観察し,初回発作から3ヶ月以内と,さらに12ヵ月後にMRIを評価した.結果として,CISのタイプの内訳は①視神経炎123名,②脳幹症候群78名,③脊髄炎89名,④その他30名であり,各群間で年齢,性別,罹病期間に有意差はなかった.最初のMRIにて異常所見を認めなかったのは全体では33%,分類別では①視神経炎49.2%,②脳幹症候群24%,③脊髄炎24%,④その他18.5%で,視神経炎の場合,有意にMRI異常の合併は低率であった.Clinically definite MSへのconversionは全体で111名において生じ(34.7%;平均19.8ヶ月,中央値13.9ヶ月),分類別では①視神経炎36.6%,②脳幹症候群57.7%,③脊髄炎49.4%,④その他63.3%であった.さらにMRI上,McDonald基準の空間的多発を満たした割合も視神経炎では有意に低かった.しかし,初回発作時にMRI異常を認めた症例のみで各郡を比較してみると,臨床的・画像的に有意差を見出せなくなった.
以上の結果は,視神経炎で発症したCISはMSへのconversionの率が有意に低いことを確認したものであるが,CISの症状に加え,初回MRIでの異常の有無も,予後を予測する上で重要であることを明らかにした.

Ann Neurol 57; 210-215, 2005
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多発性硬化症と性ホルモンの関係

2005年01月29日 | 脱髄疾患
 多発性硬化症(MS)では,男性のほうが女性より進行性で予後が不良であるという若干の報告があるが,これにヒントを得て性ホルモンの血中濃度とMRI上の病変の関連を調べた研究がイタリアから報告されている.対象は60名の再発寛解型MS(RRMS)で,うち35名が女性.罹病期間は6.2±5.4年.EDSS中央値は1.5で,IFNbetaなどのdisease modifying drugの使用歴がなく,かつ過去2ヶ月間において再発やステロイドの使用がない症例とした.女性については月経周期が正常で,ホルモン療法や避妊薬の使用がない者に限った.方法としては,FSH, LH, estradiol, testosterone, DHEA(dihydroepiandrosterone)を測定(女性は卵胞期と黄体期に測定),平行して1.5T MRIを施行し,造影効果のある病変数,およびT2, T1強調における病変面積を求めた.36名の対照にも同様の検査を行った.
 結果として,MS女性例の血清testosterone値は,対照と比べて卵胞期・黄体期とも有意に低いことが分かった(p=0.03およびp=0.0001).血清testosterone値の最も低い女性は,MRI上,造影効果のある病変を多数認めた.さらに血清testosterone濃度とMRI上の病変面積(T2WI; p=0.06, T1WI;p=0.006),clinical disability(EDSS; p=0.05)は正の相関を認めた.一方,男性では血清estradiol値とMRI上の病変面積が正の相関を認めた(T2WI; p=0.02, T1WI;p=0.04).
 以上の結果は,MSにおいて性ホルモンが病変の進行に影響を及ぼしている可能性を示唆する.今後,炎症から修復過程などのどのステージにおいて性ホルモンが影響を及ぼしているのか検討する必要がある.

JNNP 76; 272-275, 2005 

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難治性多発性硬化症に対するインターフェロンβとCTXの併用療法の長期的効果

2005年01月16日 | 脱髄疾患
IFN-βが再発予防に無効であるMS症例は確かに存在し,本邦のようにglatiramer acetateなどの代替薬が使用できない場合,その治療は大変困難なものになる.IFN-β無効症例に対しどのように再発予防を行うかは臨床上,非常に大きな課題と言える.
 今回,イタリアからIFN-βとcyclophosphamide(CTX)monthly pulse療法の長期効果についての報告がなされた.このグループはすでにその併用療法中の効果を報告しているが(JNNP 71; 404-407, 2001),今回はCTX monthly pulseの中止後の臨床経過についての追跡調査である(open-label follow-up study).対象はIFN-βが無効であった10名のrapidly transitional form MS(clinically definite MSで,かつ重症,頻回の再発,急速進行性の機能障害を呈する症例と定義).平均罹病期間は7.6年.治療方法は,通常量のIFN-βに加え,CTX monthly pulse(500-1500mg/m2 i.v.)を12ヶ月間行った.治療終了後は通常量のIFN-β単独療法に戻し,以後,36ヶ月間の経過観察を行った.項目は神経所見,EDSS,brain MRI T2WI,副作用とし,①併用療法開始前12ヶ月(IFN-β単独),②併用療法中12ヶ月,③終了後(IFN-β単独)36ヶ月を比較した.結果として③の年再発率は0.13と著明に低下したままであり(①vs③;p<0.001),②とほぼ同等.EDSS,MRI所見でも改善効果は併用療法中止後も持続した(それぞれ,p<0.001,p<0,01).副作用も1例で乳腺腫を認めた以外,重篤なものはなかった.本治療法は今後,症例数の蓄積とRCTが必要になるが,副作用が少ないため(ただし催奇形性については不明),今後,積極的に検討すべき治療法と言えよう. J Neurol 251; 1502-1506, 2005 

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多発性硬化症における神経修復機序~bHLH転写因子であるOlig1は脱髄病変の修復に必要である~

2004年12月24日 | 脱髄疾患
中枢神経系を構成するneuron,astrocyte,oligodendrocyteは共通の前駆細胞である神経幹細胞から分化する.この過程には種々の転写因子が関わっており,Mash1やNeurogeninを始めとするbHLH(basic helix-loop-helix)型の転写因子はニューロンの分化に,STAT3やSmad1はastrocyteへの分化に関与する.また最近になって新しいクラスのbHLH型転写因子であるOlig1,Olig2がクローニングされ,これらは発生段階におけるミエリン産生oligodendrocyteやその前駆細胞に発現していることも明らかになっている.さらにOlig1/2ダブルノックアウトマウスではアストロサイトが過剰に生じていることも報告されている.また Olig2はoligodendrocyteの分化に必要であることが知られていたが,Olig1の生物学的機能については,ほとんど知られていなかった.
今回,マウスにおけるOlig1の機能は脳の発達でなく,脳の修復に必要であることがHarvard大から報告された.白質障害モデルマウスにおいて,Olig1は脳の修復過程において細胞質から核内に移行すること,さらにMS患者6名の検討において,健常白質ではOlig1は細胞質に局在するものの,急性期の脱髄斑辺縁では核内に局在することが明らかになった.またOlig 1ノックアウト・マウスでは髄鞘再生に障害があることも示した.
今後,なぜMSにおいて十分に髄鞘の再生・修復が起こらないのか,また今回の知見が治療に応用可能であるかが焦点になってくるものと考えられる.

Science 306; 2111-2115, 2004

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多発性硬化症とNeuromyelitis opticaを鑑別する自己抗体

2004年12月17日 | 脱髄疾患
Neuromyelitis optica(いわゆるDevic病)は,球後視神経炎(両側性のことも多い)と急性横断性脊髄炎(下部頚髄または胸髄)がほぼ同時か,1~2週間の間隔で生じる疾患である.急性期には髄液中に炎症細胞を認めるが,IgGの髄内産生はない.MRIでは発症時,脳に信号異常はなく,脊髄では3椎体レベル異常の縦長の信号異常が特徴的である.また再発性の経過を取り,5年以内に半数の患者が失明,ないし独歩不能になる.これまで独立した疾患単位と考える立場と,MSの特殊型と捉えられる立場があった.治療としては,免疫抑制剤(アザチオプリン,ステロイド)が用いられる.
 一方,これと混同しやすい疾患分類として,視神経脊髄型MS(OS-MS)が挙げられる.これは脊髄症状と視神経障害を主体とするMSで,本邦の15-40%の症例がこれに相当する.両者を鑑別するマーカーが存在しないためしばしば混同されるが,MSの治療は免疫抑制剤ではなくIFN-betaなどの免疫調節薬が主体となるため,両者の鑑別は治療を選択する意味でも重要である.
 今回,Neuromyelitis optica患者の血清中にNMO-IgGと名づけられた特有の抗体があることをメイヨークリニックと東北大のグループが明らかにした.この抗体はCNS微小血管,軟膜,軟膜下,Virchow—Robin腔などのBBBを認識し,lamininとも一部co-localizeする.また患者ら124名(北米102名,日本22名;OS-MS 12名を含む)の血清を調べたところ,Neuromyelitis opticaにおいてこの抗体はsensitivity 73%,specificity 91%で,OS-MSではsensitivity 58%,specificity 100%であった.また日本におけるOS-MS12名のうち7名がNMO-IgG陽性であった.逆に古典的MSではこの抗体は認められなかった.一方,paraneoplastic syndromeが疑われた85000検体(!)のなかで14例にNMO-IgGが認められ,これらの症例のうち12名はNeuromyelitis opticaか,それに類似する症状が認められた.
 以上の結果は,NMO-IgGがNeuromyelitis opticaに特異的な抗体であり,MSとの鑑別に有用である可能性を示唆する.上述のように両者の治療法選択に有用な情報を与えるものと考えられる.さらに臨床的にOS-MSと判断される症例であっても,NMO-IgGの存在の有無により治療反応性が異なる可能性も予想され,抗体の存在の有無による臨床経過の相違などの情報が待たれる.

Lancet 364; 2106-2112, 2004 

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多発性硬化症治療薬としてFDAに承認されたnatalizumabについて

2004年11月28日 | 脱髄疾患
11月23日,TYSABRI (natalizumab) が「MSの再発回数を減らす」という効能にて,FDAに承認された.2つの1年間にわたる第3相試験結果をもとにしての迅速承認である(1つは単剤の試験AFFIRMで,もう1つはInterferon beta-1aとの併用試験SENTINEL).
 このnatalizumabは「α4 インテグリン拮抗薬」である.MS患者における炎症性脳病変は,活性化したリンパ球や単球が関与する自己免疫反応に起因すると考えられている.糖蛋白である α4 インテグリンは,これらの細胞表面に発現し,血管内皮への接着や脳実質への移動において重要な役割を担う. natalizumab は,実験モデルやMS患者での予備研究において脳病変におけるα4 インテグリンの発現を減少させる.
 ちなみに本剤のプラセボ比較対照試験は2003年にNEJMに報告されている.研究モデルは無作為二重盲検試験で,RR型またはSP型MS患者計213例を,3 mg/kgのnatalizumabの静脈内投与群(68例),6 mg/kg の静脈内投与群(74 例),プラセボ群(71 例)の3群に割付け,28 日毎に 6 ヵ月間投与.主要エンドポイントは,6 ヵ月の治療期間中に毎月行ったGd造影MRIにおける新たなプラークの数であった.結果としては,natalizumab投与の両群で,新規プラークの個数が顕著に減少した.プラセボ群では患者1例当り9.6個であったのに対し,3 mg群では0.7個(P<0.001),6 mg群では1.1 個(P<0.001)であった.また再発は,プラセボ群27 例で見られたのに対し,3 mg群では13 例(P=0.02),6 mg群では14 例であった(P=0.02).健康状態に関する自己申告でもプラセボ群はわずかに悪化したのに対し, natalizumab群では改善を認めた.すなわち,再発性MS患者においてnatalizumab による治療は,6 ヵ月の期間で炎症性の脳病変をより少なくさせ,再発をより減少させた.
MSにおける再発予防の薬剤として,欧米で承認されていながら本邦では認可されていないものがいくつもあり,臨床の場で悔しい思いをすることが少なくない.NatalizumabはMRIにおける評価では極めて有効と考えられ,本邦でも速やかに治験が開始されることを願いたい.

N Engl J Med 348;15-23,2003
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ドネペジルは多発性硬化症の記憶障害を改善する

2004年11月22日 | 脱髄疾患
現在,本邦で認可されているAD治療薬はアセチルコリン・エステラーゼ(AChE)阻害薬であるドネペジル(アリセプト®)のみであるが,そのドネペジルが記憶・認知障害を合併するMS症例に対して有効かどうかニューヨーク州立大学が検討した.方法はsingle center double-blind placebo-controlled studyで,69症例に対しドネペジル10mgないし偽薬を割り付け,24週後に評価した.症例はRR,SP,PPを含み,IFN-betaを使用している症例はそのまま継続して使用可とした.評価項目はselective reminding test(SRT)におけるverbal learning とmemoryの項目,認知機能検査,患者および主治医の評価など.この結果,ドネペジル群は偽薬群と比較し,SRTのmemory testが有意に改善し(p=0.043),これは年齢,性別,EDSS,MSサブタイプなどの共変量に関わらず有意差は認められた.また患者,主治医ともドネペジル群において有意に記憶力の改善を報告医した(p=0.006およびp=0.036).重篤な副作用は認めなかったが,異常な夢の経験がドネペジル群で有意に多かった(p=0.010; 34.3% vs 8.8%).
 今後,多施設での検討が行われることになると思われる.またアセチルコリン系の賦活がなぜMSにおける認知・記憶障害に有効であるかの機序については良く分かっていない.

Neurology 63; 1579-1585, 2004 

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「良性」の多発性硬化症の定義

2004年10月19日 | 脱髄疾患
多発性硬化症(MS)に関して,20年間にわたるpopulation-based follow up studyの結果がMayo Clinicより報告された.結論としては「長期間にわたり障害が軽度である症例ほど,その後の症状は安定しており,進行しにくい」というもの.具体的には,10年ないしそれ以上の経過観察期間において,EDSSが2.0以内にとどまっている症例では,93%の症例で次の10年の間に障害の進行はない.EDSSが2.5~4.0の場合,その値は43%となり急激に低下する.以上より,著者らは「良性のMS」を少なくとも10年の経過観察期間において,EDSSが2.0以内にとどまる症例と定義づけた(Olmsted Countyのコーホートにおける17%に相当する).このデータは免疫抑制剤などの治療選択の際に有用なデータになるものと思われる.
このデータを見て第一に感じるのは,ほとんどの症例が進行性であるということ.問題点はこのデータが日本人に当てはめられるか分からないこと.本邦でもEDSSをきちんと評価し,長期予後を検討する必要があると思われる.

Ann Neurol 56; 303-306, 2004

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