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Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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臨床神経学の創始者,Romberg先生のお墓参り

2016年06月21日 | 医学と医療
東名古屋病院の饗場郁子先生とともに.饗場先生から教えていただいた高橋昭名古屋大学名誉教授のご論文である「ベルリンの医学史跡瞥見(現代医学1994;42;371-380)」を地図の代わりにして,Moritz Heinrich Romberg(1795 –1873)先生のお墓参りをいたしました.

神経疾患の臨床が学問体系をなす上で,ドイツ系,フランス系,英国系の3つの流れが19世紀初頭から始まりましたが,Romberg先生からErb,Friedreich,Wernickeと伝えられたのがドイツ系であり,臨床神経学の創始者は以下の記載のようにRomberg先生と言われています.

He is credited with having been "the first clinical neurologist"
Spillane, John D (1981). The doctrine of the nerves. Oxford: University Press. p. 289.

Romberg先生はベルリン大学で学び,1837年から大学附属のシャリテ病院にて,神経病学を医学生に講義し,1842年には同病院の外来診療所長になっています.そして1840年,「神経病学書(Lehrbuch der Nervenkrankheiten des Menschen)」を上梓しました.これはそれまでの神経学の知見に自身の経験を追加したもので,神経学の世界最初の成書とされています.Romberg先生は,第3版まで改訂を行いましたが,4版目の改訂の途中の1873年6月16日にBerlinで死亡されておられます.

この教科書で最も有名な記載が "tabes dorsalis(脊髄癆)"に関するものです.tabes dorsalisの原意は「背中の消耗症」であり,つまり性交による消耗状態,腰が立たなくなった状況を指すそうです.Romberg先生はこの疾患について臨床病理学的検討を行い,脊髄癆の疾患概念を確立させました.まず病理所見に関しては,以下のように記載しています.

「・・・神経根にも萎縮が見られ,興味深い事に感覚性の後根に限って見られる事があり,このような例では脊髄後索も萎縮している」

さらに,原因が梅毒によることはまだ不明であったものの,「さまざまな誤った方法で性欲を満足させたりすると,本性の発症をうながすことが稀でなく・・・近年の大きな戦征が終わるとその後の10年間に脊髄癆の発生頻度が高かった」とも記載されています.

そして脊髄癆における神経徴候として,「患者に眼を閉じさせ,直立位を命じると,ただちに動揺したりよろめいたりする.・・・この疾患特異的な徴候は,私の観察によれば他の麻痺疾患には見られず,すでに10年前に注目したものである」 と書かれています.つまり深部感覚の消失が,特定の疾患の重要な徴候として発見されたわけです.これが現在,Romberg徴候と呼ばれている神経徴候です.原文を引用しておきます.

"The gait begins to be insecure... he puts down his feet with greater force...The individual keeps his eyes on his feet to prevent his movements from becoming still more unsteady. If he is ordered to close his eyes while in the erect posture, he at once commences to totter and swing from side to side; the insecurity of his gait also exhibits itself more in the dark."

写真には墓地の入口の門と,Romberg御夫妻の墓碑を示します.墓地(Friedrichswerderscher Friedhof)への行き方は,高橋昭先生のご論文にもありますが,まず地下鉄U7線でSüdstern駅で下車,ここから西に向かうBergman-strasseに入ると左手に墓地の塀があります.いくつか門があり,どこから入るか迷いますが,写真の門を見つけて入っていただき,少し進んで右手を見ると,塀にそって東を向くRomberg夫妻の墓碑を見つけることができます.高橋先生のご論文に記載されている堀を探しましたが,すでに埋め立てられたのかなくなっていました.お墓もたくさんあって見つからないかなと諦めかけましたが,饗場先生が執念(!)で見つけられました.臨床神経学の父の前で「日本で臨床神経学を勉強している者です」と手を合わせて,とても敬虔な気持ちになりました.とても印象に残る思い出になりました.

高橋昭他.ベルリンの医学史跡瞥見.現代医学1994;42;371-380
高橋昭他.Moritz Heinrich Rombergの生涯.神経内科1994;41:101-119
神経学の歴史(深部感覚の発見。ロンベルク)
http://homepage3.nifty.com/sinkei/history1.htm

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