Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対するクレアチン療法(治験結果)

2004年11月20日 | 運動ニューロン疾患
ALSでは病初期においてミトコンドリアの機能異常が生じているという説がある.これを支持する根拠として,ヒト家族性ALSの原因遺伝子を導入したSOD1 Tg miceにおけるミトコンドリア異常が挙げられる(具体的には2系統のTg miceにおいてミトコンドリアの膨張や空胞化が報告されている).つまり,ミトコンドリアはALSの治療戦略の主要なターゲットのひとつと考えられ,実際,SOD1 Tg miceに対してミトコンドリア機能の改善を目的としたクレアチン投与が行われ,生存期間の延長が確認されている(ただSOD1 Tg miceでの検討結果をヒト孤発性ALSにどれだけ当てはめてよいものか疑問である).ちなみにクレアチンはmitochondrial transition pore (MTP)の安定化によるアポトーシスの抑制,もしくは直接,抗酸化剤として作用し,神経保護的に働くものと推測されている.
 以上を背景に,今回,クレアチン5g内服の効果の有無について検討が行われた.方法はrandomized double-blind, placebo controlled trialで104例の症例(呼吸器機能はFVC>50%,罹病期間は5年以内)について検討.評価項目は上肢8ヶ所の筋力,および握力,ALSFRS-R,motor unit number estimation(MUNE).観察期間は6ヶ月とした.結果は残念ながら偽薬群と一切,有意差を認めなかった.Tg miceとヒトでの効果の解離の原因の考察として,内服量の違いや内服時期の違いが挙げられている.
 現在,欧米ではCereblex(COX2阻害剤),ミノサイクリン,コエンザイムQなどの治験が進行中であり,これらの結果が待たれる.

Neurology 63; 1656-1661, 2004

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頚部動脈解離を来たした症例の皮膚生検所見

2004年11月19日 | 脳血管障害
頚部動脈解離(Spontaneous cervical artery dissection; SCAD)は若年者における脳梗塞の原因として重要である.危険因子としては外傷,片頭痛,高ホモシスチン血症が知られ,さらにまれな原因としてはfibromuscular dysplasiaやMarfan症候群,Ehlers-Danlos症候群(とくにタイプIV;vascular variant)が報告されている.今回,SCAD症例における皮膚所見(とくに膠原線維)に関してprospectiveな検討が行われた.
 計7例に対し皮膚生検を施行したところ,うち6例において膠原線維および弾性線維のネットワークの乱れが認められた.うち5例では,病理所見や免疫染色所見,電子顕微鏡所見がEhlers-Danlos症候群に認められる所見と類似していた.これらの結果はSCADがEhlers-Danlos症候群で見られる真皮の異常に基づいて発症する頻度が高い可能性を示唆する.
 EDSタイプIVは臨床症状と家族歴(AD)により疑われるが,確定診断のために培養皮膚線維芽細胞により合成されたコラーゲン蛋白の電気泳動を要する場合が多い.また原因遺伝子としてCOL3A1 遺伝子(2q31)が報告されている.今後,SCAD症例における遺伝子解析が行われるものと思われる.
ちなみにEDSの分類は以下の通り.classic type (I &II), hypermobility type (III), vascular type (IV), kyphoscoliosis type (VI), arthrochalasia type (VIIA & VIIB), dermatosparaxis type (VIIC).

Neurology 63; 1708-1710, 2004

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肥厚性硬膜炎の原因としての顕微鏡的多発血管炎

2004年11月18日 | その他
肥厚性硬膜炎は慢性頭痛の鑑別診断として重要である.自己免疫疾患(SjS, RA)や感染症,悪性腫瘍,Wegener肉芽腫症に随伴することもあるが,原因が特定できず「特発性」と診断されることも多い.一方,Microscopic polyangitis(MPA; 顕微鏡的多発血管炎)は,①急速進行性糸球体腎炎,②肺出血または間質性肺炎,③肺・腎以外の臓器症状(紫斑、皮下出血、消化管出血、多発性単神経炎など)を主徴とし,検査上,細動脈,毛細血管の壊死,血管周囲の炎症性細胞浸潤,MPO-ANCA陽性,CRP陽性などを呈する疾患である.今回,金沢大学より肥厚性硬膜炎を主徴としたMPAの1例が報告された.症例は68歳男性で,主訴は頭痛.MRIにて肥厚性硬膜炎と診断された.炎症反応(CRP, SAA上昇)と軽度のMPO-ANCA陽性を認めた.腎機能は軽度のタンパク尿と尿細管機能障害を認めるもののほぼ正常.硬膜生検(形質細胞とeosinophilの浸潤),腎生検(半月体形成性腎炎),腓腹神経生検(毛細血管炎)の結果,病理学的にMPAと診断した.肥厚性硬膜炎を主徴とするMPAとしては最初の報告である.
 実際に肥厚性硬膜炎の原因を特定できないことを時々経験するが,このような症例の原因としてMPAを積極的に考えていく必要がある.今後,どの程度の頻度でMPAを背景に有する肥厚性硬膜炎が存在するのか明らかにする必要がある.

Neurology 63; 1722-1724, 2004

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ギラン・バレー症候群の家族内発症例

2004年11月16日 | 末梢神経疾患
ギラン・バレー症候群(GBS)は先行感染後に発症することが知られている.とくにC.jejuni感染後には1000人に1人の割合で発症すると言われているが,発症機序に何らかの遺伝的背景が関与するものと考えられる.GBSの家族内発症例の報告はこれまで世界において7家系ほどの報告があるが,今回,あらたに12家系(計25人)の家族内発症例がオランダより報告された.遺伝形式は特定できず,メンデル遺伝より複合的な病態(complex genetic disorder)が疑われた.また次世代での発症ほど発症年齢が早くなる傾向を認めた.先行感染や臨床症状,重症度などは家族間でばらばらであった.
 さらに多くの家族内発症例を集積することが宿主側の要因を解明する上で必要であろう.

Neurology 63; 1747-1750, 2004

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新たなFrontotemporal dementiaの鑑別診断 ~NIFID~

2004年11月14日 | その他の変性疾患
NIFID(Neuronal intermediate filament inclusion disease)は,比較的若年発症する変性疾患で,臨床的に痴呆,錐体路・錐体外路徴候を呈する.前頭葉の局所的萎縮が特徴的で,そのほか側頭葉・頭頂葉・尾状核も萎縮する.病理学的には神経細胞におけるintermediate filament (IF) の蓄積が特徴的である.この封入体はneurofilament (NF-H, -M, -L),a-internexin(いずれもIF線維の構成蛋白)を含む.Ub陽性だが,a-synucleinやtauは陰性である.今回,NIFID 10症例の臨床病理学的特徴がPenn大Trojanowskiらにより報告された.
 発症年齢は平均40.8歳(23-56),罹病期間は4.5年,死亡年齢は平均45.3年(28-61).いずれも孤発例.行動および精神異常が7/10例で見られ,そのほか記憶力低下,認知機能障害,言語障害,運動麻痺を呈する.錐体外路症状は8例で見られた.保続,遂行機能障害,腱反射亢進,原始反射もしばしば認められる.画像では前頭・側頭葉および尾状核の萎縮が認められる.病理所見は神経細胞脱落,status spongiosus,gliosisが大脳皮質,白質,小脳,脊髄に及び,抗neurofilament (H, M, L),および抗a-internexin抗体陽性の神経細胞封入体(細胞質,まれに核内)が特徴的.IF inclusionが生じる機序は不明(軸索輸送の障害が関与する可能性が指摘されている)
 FTDには,FTD with MNDやFTD tauopathyが含まれるが,NIFIDはFTDのなかの独立した一つの病態として今後さらに検討すべきである.ただし臨床的表現型はさまざまであることから,診断は病理学的にIF inclusionの証明が必要になる.

Neurology 63; 1376-1384, 2004

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脳梗塞後施行したDWIにおける多発異常信号と予後

2004年11月13日 | 脳血管障害
脳梗塞発症後,DWIにて多発異常信号を認めることがある.原因としては,異常信号が複数の血管領域に及ぶ場合,心原性塞栓に由来することが一般的であるのに対し,比較的小さい異常信号が単一の血管領域(とくにMCA)に認められる場合は,artery-to arteryの塞栓が疑われる.
 今回,中国からDWIで認められた多発異常信号と予後についての関係が報告された.対象は脳梗塞発症後24時間以内にDWIを施行した119症例.多発異常信号は20例(16.8%)で認められ,原因の特定できた12例のうち10例がlarge artery diseaseで,2例が心原性塞栓であった.そのうち平均13ヶ月(9~21ヶ月)の観察期間において,15症例の再発と,3例の冠動脈疾患,5例の死亡が確認された.脳梗塞再発のリスクは単一の異常信号群と比較し,Odd ratio 5.93であった.
 以上の結果より,少なくともDWIにおける多発脳信号を認めた場合,再発の可能性が高いことを認識する必要がある.また興味深いことは塞栓源として心臓由来のものが予想以上に少なかったことが挙げられる.中国人と日本人で差がある可能性もあり,今後,検討を要するものと思われる.

Neurology 63; 1317-1319, 2004

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若年者における脳炎の鑑別診断として考慮すべき SSPE

2004年11月12日 | 感染症
SSPE(Subacute Sclerosing Panencphalitis;亜急性硬化性全脳炎)は,麻疹が治癒した後,脳内で変異した麻疹ウイルス(SSPEウイルス)が脳内に潜伏し,長い潜伏期(5~10年後)の後に発症する脳細胞を冒す進行性の病気で,発症後,亜急性の進行を呈する疾患である.持続感染や発症の機序については不明.発症年齢は1歳から29歳(5歳から12歳が8割を占める).症状としてはけいれん,脱力発作,歩行障害,学業成績低下尿失禁,感情爆発などが見られ,最終的に植物状態に至る.麻疹罹患者の10~50万人に1人の発症といわれる稀な疾患である.診断は髄液麻疹IgG上昇が決め手となる.
 今回,California Encephalitis Project(1988~2003年)において,脳炎1000例のうち5例がSSPEであったことが報告された.うち3例は鑑別診断にSSPEは考慮されていなかった.この理由としてSSPEが稀な疾患であることと,特異的な症状を欠き診断しにくいことが挙げられる. 
 SSPEの治療として,近年,免疫賦活剤であるinosiplex内服とIFN-alphaの脳室内投与の併用が有効であると報告され,さらにribavirinを併用することで寛解に導入できた症例も報告されており,早期発見は今後より重要であると言えよう.

Neurology 63; 1489-1493, 2004

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新たに発見されたブラジル人のSCA10家系と臨床症状

2004年11月11日 | 脊髄小脳変性症
SCA10は染色体22番長腕に存在するSCA10(E46L)遺伝子のintronにおけるATTCTの延長が原因であるADの変性疾患である(表現促進現象あり).臨床的には小脳失調を主徴とし,てんかんを合併することで知られている.罹患者の60%がてんかんを有すると報告されているが,その合併頻度については家系間において異なる.そのほか,ポリニューロパチー,精神症状,肝障害を呈することもある.本疾患はメキシコ人特有の疾患であると考えられてきた.
 今回,メキシコ人以外にブラジル人の家系で,本疾患が発見された.5家系28人を新たに同定したが,いずれの症例もてんかんを認めなかった.さらにポリニューロパチーも肝障害も認めなかった.このことはメキシコ人とブラジル人では表現型が異なる可能性を示唆する.
以上の結果はSCA10がメキシコ人のみの疾患ではないことを示唆するが,まず先祖が同一かどうかは確認すべきであろう.それが否定されれば,同一の疾患であっても民族学的な背景が異なれば表現型に違いが生じうるということになり,興味深い.

Neurology 63; 1509-1512, 2004 

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がん患者における抗神経抗体の意義

2004年11月10日 | その他
傍腫瘍性神経症候群(PNS)は,神経系に特有の抗原を産生する神経系外の腫瘍によって惹起されると考えられている.異所性の腫瘍抗原に対する免疫反応(抗神経抗体の産生)は神経組織を損傷するが,腫瘍の成長も阻害する.抗神経抗体としてはANNA-1 (antineuronal nuclear autoantibody type 1; anti-Hu→sensory neuropathy),PCA-1 (anti-Yo→cerebellar ataxia),Amphiphysin (→Stiff person syndrome),ANNA-2 (anti-Ri→opsoclonus / myoclonus syndrome syndrome)などが知られている.
 今回,Mayo Clinicより,PNSを疑った症例における抗神経抗体の解析結果が報告された.なんと60,000検体(!)を検索し,うち533例で抗神経抗体が陽性であった(かなりrareな頻度である).抗体は多い順に,ANNA-1 (anti-Hu) 217例,CRMP-5 208例,PCA-1 (anti-Yo) 101例,PCA-2 43例,Amphiphysin 26例,ANNA-2 (anti-Ri) 17例,ANNA-3 10例で,驚くべきことにPCA-1を除き,1症例において複数の抗体が出現することが少なくないことが分かった.例えば,ANNA-1であれば,19例でANNA-1以外の抗体が出現し,イオンチャネル(Ca, K, AChRなど)に対する抗体も含めれば,計43例(20%)にANNA-1を含め2つ以上の抗体が確認された.また抗体陽性例で病理学的にがんが確認されたのは 57%~91%と高率であった.
これらの結果は,臨床症状から特異的な抗体の存在を予測することは困難であり,むしろ幅広くスクリーニングすることが大切である可能性を示唆する.がん患者において複数の抗体ができる機序の解明が重要な課題となるのかもしれない.

Ann Neurol 56; 715-719, 2004

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バルプロ酸ナトリウム急速点滴によるてんかんの治療

2004年11月09日 | てんかん
緊急を要する神経内科疾患の代表として,てんかん重積発作が挙げられる.抗てんかん薬(AEDs)が早期に有効血中濃度に達するためには静注による投与が望ましいが,AEDsのさまざまな副作用のため使用しにくいことがある.すなわち,心肺機能および意識レベルへの悪影響が最小限であるAEDsの使用が望ましい.例えばBenzodiazepineは用量依存性に意識や呼吸に対して抑制が生じ,Phenytoinでは点滴速度に依存した低血圧や,不整脈,末梢血管へのダメージなどが生じる.
これに対し,バルプロ酸ナトリウム点滴は副作用が生じにくく使用しやすいという報告が散見されていた.今回,バルプロ酸ナトリウムの急速点滴を行い,その副作用の有無を検証する目的で,多施設による前向き研究が行われた(open-label, dose-escalation study).患者77例を点滴速度(3ないし6mg/kg/min),および総使用量(15ないし30mg/kg)により3群に分け,副作用を比較.いずれの群も血圧,心拍には悪影響はなく,針刺入部位の痛みや点滴時痛,めまい,眠気が少数で見られた程度であった.バルプロ酸ナトリウム急速点滴は安全な治療と考えられる.
それにしても,日本では欧米と比べ使用できるAEDsが少ないのはなぜなのでしょうか?バルプロ酸ナトリウム急速点滴も使用できれば本当に有難いと思うのは私だけではないですよね.

Neurology 63;1507-1508, 2004

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