Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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CADASILは妊娠・産褥期に症状が出現しやすい

2005年05月04日 | 脳血管障害
CADASIL(cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy)は常染色体優性遺伝を呈する疾患で,脳卒中様発作や片頭痛,情動異常,皮質下性痴呆を認め,病理学的に小動脈の形態異常を特徴とする.症状はMELASと似ているが,成人発症(25歳前後に片頭痛,30~50歳で脳卒中発作が一般的)である点が鑑別のポイントのひとつと言える.原因遺伝子としてはNotch 3遺伝子が同定されている.最近,本邦からもめまいのみを呈するNotch 3遺伝子新規遺伝子変異(C206R)も報告され,その表現型の多様性も注目される.
さて,今回,フィンランドより妊娠・産褥期におけるCADASILの神経所見に関する研究が報告された.この研究では19家系46例の女性が検討されている(いずれもNotch 3遺伝子 R133Cミスセンス変異を有する).このうち39例が妊娠を経験し,そのなかの25例についてretrospectiveに臨床経過を検討した(カルテないし質問票を用いた).結果として25例中12例(43妊娠中17妊娠)において,妊娠・産褥期間中の神経症状を認めている.具体的には半身の感覚障害が最多で(76%),その他,失語(65%),視覚異常(47%)片麻痺(36%)であった.82%の患者にとっては,それらの症状がCADASILの初発症状であった.とくに神経症状は30歳以上の妊娠で認められやすく,かつ産褥期に多い傾向を認めた.
以上の結果は,産褥期において神経症状を認めた女性においてCADASILも鑑別診断に挙げる必要があること,ならびにCADASIL家系の一員である女性が妊娠した際には厳重な経過観察が必要であることを示唆している.

ちなみに画像は肥厚した動脈壁とeosinophilic depositを示している.

Neurology 64; 1441-1443, 2005

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動脈硬化性血管病変にジスロマックは有効か?

2005年05月01日 | 脳血管障害
 慢性感染症が動脈硬化性血管病変を惹起・増悪させるという報告は少なからず存在する.ウイルス感染症(CMV, HIV),H. pyroli,歯周炎がその例であるが,なかでも肺炎クラミジア(Chlamydia pneumoniae)感染とアテローム形成の関連は有名である.メタ解析の結果,C. pneumoniae慢性感染例では冠動脈疾患のリスクがOR 1.15(95%CI 0.97-1.36)と上昇することが知られている(BMJ 321; 208-213, 2000).また脳梗塞に関してもリスクが上昇するとの報告があり,とくにIgA抗体価が高値の場合,ORが4.51(95%CI 1.44-14.06)になるという報告もある(Elkind 2000).C. pneumoniaeによる動脈硬化の機序については,サイトカインや白血球接着因子などの産生亢進,LDL酸化亢進,マクロファージの泡沫細胞化など様々な報告があるが,冠動脈疾患患者の血栓部位にC. pneumoniaeが電顕上,観察されたという報告のインパクトは大きかった.
 今回,C. pneumoniaeの治療としてazithromycin(ジスロマック;マクロライド系抗生剤)により心臓疾患を予防できるのではないかという仮説のもと,冠動脈イベントの二次予防としての1 年間のazithromycin治療の有効性に関する研究が報告された. 方法はRCTで,対象は安定冠動脈疾患と診断された患者 4,012 例.週 1 回 1 年間のazithromycin群(600 mg)とプラセボ群に割付けた.全米 28 ヵ所の施設で平均 3.9 年間追跡.主要エンドポイントは,①冠動脈性心疾患による死亡,②非致死性心筋梗塞,③冠血行再建術,④不安定狭心症による入院からなる複合エンドポイントとした.結果として,主要エンドポイントは,azithromycin投与群では 446 例,プラセボ群では 449 例に発生.azithromycin投与群では,プラセボ群と比較し,主要エンドポイントに関する有意なリスク低下は認められなかった(リスク低下 1%;95%CI -13~13%).主要エンドポイントの各要素,全死因死亡,脳卒中のいずれについても,有意なリスク低下は認めなかった.性別,年齢,喫煙状況,糖尿病の有無,ベースラインにおける C. pneumoniae の血清学的状態のそれぞれについて被験者をstratification(層別化)しても,結果に差異はみられなかった.
 結論として,安定冠動脈疾患患者ではazithromycinを週 1 回 1 年間投与しても,心イベントのリスクは変化しない.脳梗塞に関してはこれまで同様の介入研究の報告はなく,今後の検討が期待されるが,効果を期待するのは厳しいかもしれない.

N Engl J Med 352: 1637-45, 2005

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肢帯型筋ジストロフィーかと思ったら・・・

2005年05月01日 | 筋疾患
若年発症し,急速な進行を示す四肢近位筋萎縮の1家系(7症例)の症例報告である.発症者は全例男性(累代発症なし).発症年齢は平均13歳(8~15歳)で,初発症状は全例,四肢近位筋優位の筋力低下・筋萎縮.4/7例で上肢の振戦が見られた.急速に進行し20歳半ばには歩行不能になった.また全例,8歳以前に顕著な女性化乳房を認めた.当初,肢帯型筋ジストロフィーやSMAを疑ったが・・・
実はこの家系は球脊髄性筋萎縮症(SBMA)であった.SBMAは緩徐進行性の下位運動ニューロン疾患で,伴性劣性遺伝形式をとり,通常,30~40歳代の男性に発症する.CAG repeat 病であり,アンドロゲン受容体遺伝子におけるCAG repeat数は非罹患者で11~33であるのに対し,罹患者では38~62と報告されている.ALSと比較するとその進行は一般に緩徐である.治療としてleuprorelinが有効であった症例も報告され(JNNP 75: 1206-1207, 2004),治験も開始されつつある.
さて,本家系の診断のヒントは全例男性であること・male to male transmissionがないこと・累代発症がないこと(すなわち伴性劣性遺伝の可能性),女性化乳房,fasciculation,振戦を認めたことである.これらはSBMAとしてはcompatibleな所見であるが, 何と言っても発症年齢が合わない.若年発症,進行性の経過からCAG repeat数がずば抜けて大きい可能性が予測されたが,問題のAR遺伝子のCAG repeat数は本家系では50~54であった(不思議なことにほとんどが53(3例)ないし52(2例)で,家族内発症者におけるhomogeneityが認められた).とてもずばぬけて大きいとはいえなかった.このことはSBMAの表現型がCAG repeat以外のgenetic factorによっても修飾されることを示唆している.たとえばALSやlower motor neuron diseaseはいくつかの遺伝子によって表現型が修飾されうることが報告されている(SMN1, SMN2, VEGF, LIF, ApoE, NF-H).ちなみにSMN1, SMN2の欠失はこの家系では調べられているが,認められなかった.いずれにしてもSBMAが若年発症しうることを示した点で興味深い報告と言えよう.

Neurology 64; 1458-1460, 2005
Comments (3)
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