進行性核上性麻痺(PSP)は,運動障害,認知機能障害,行動変化など多彩な症候を呈する神経変性疾患です.このため臨床評価尺度も多彩な項目を要します.現在,使用されているProgressive Supranuclear Palsy Rating Scale(PSPRS)は28項目から構成されます.なんと米国食品医薬品局FDAがPSPRSを改訂し,10項目から構成されるPSPRS-10という評価尺度を作成したようです.その有用性を検証した論文がスウェーデンからMov Disord誌に報告されています(文献1).
この研究では,従来のPSPRS(PSPRS-28)とFDAが提案した10項目サブスケール(PSPRS-10および再スコアリング版rPSPRS-10)を比較しています.アイテム応答理論(Item Response Theory, IRT)は統計モデルのひとつで,テストや評価尺度を構築・解析するための方法です.被験者の潜在特性(例:能力,病気の重症度,態度など)と,個々のテスト項目(質問や評価基準)の特性との関係を数学的にモデル化する方法のようです.つまりIRTを用いて,28項目のうち情報量が低い項目や,疾患重症度との相関が弱いものが特定され削除されました.その結果できたものが以下の10項目による簡略版です.
1. Gait(歩行)
2. Arising from chair(椅子からの立ち上がり)
3. Postural stability(姿勢の安定性)
4. Sitting down(座る動作)
5. Neck rigidity(頸部筋強剛)
6. Dysphagia for liquids(液体の嚥下障害)
7. Dysphagia for solids(固形物の嚥下障害)
8. Voluntary downward saccades(自発的下向きサッケード)
9. Postural reflexes(姿勢保持)
10. Impact on daily life(日常生活への影響)
著者らは4つの臨床試験および2つのレジストリから得られた979名分のデータを分析し,各尺度の有用性を評価しました.この結果,PSPRS-28では項目間の相関が低く(平均相関係数r=0.17±0.14),特に「イライラ感」「睡眠困難」「姿勢振戦」の3つの項目は他の項目とほぼ相関がないことを示しました.一方,PSPRS-10では選択された10項目が全体の76%の情報量を保持しており,相関も高い(r=0.35±0.14)ことが示されました.また臨床試験シミュレーションでは,治療効果を検出するための被験者数をPSPRS-10は大幅に削減できることが確認されました.例えば,50%の治療効果を検出する場合,PSPRS-10では19名の被験者で済むのに対し,PSPRS-28では102名が必要でした.「rPSPRS-10」はさらにスコアリング方法を変更したものですが,PSPRS-10ほどの感度を示さない可能性があることが示されました.まとめるとPSPRS-10とPSPRS-28はそれぞれ利点があり,PSPRS-10は臨床試験における評価尺度として効率的で,PSPRS-28は疾患の全体像を詳細に把握するために有用です.表にまとめましたが,それぞれの特性を活かし,目的に応じて適切な評価尺度を選択することが重要となります.
この論文に対する論説も掲載され,FDAが主導し,PSPRSの改訂が行われた背景について論じています(文献2).FDAが希少疾患における臨床試験の効率性を高めるため,既存の評価尺度を改善する取り組みを進めていることが強調されています.つまり臨床試験のエンドポイントとして使用されるスケールの「目的適合性(fit-for-purpose)」を重視し,不要な項目を削除し,機能的評価を重視した改訂をすることにより,治療効果の判定をより効率的・効果的にできると述べられています.FDAはPSPRSだけでなく小脳性運動失調の評価尺度であるSARA(Scale for the Assessment and Rating of Ataxia)も改訂しています(文献3).改訂版は「functional SARA(f-SARA)」と呼ばれるもので,もとの8項目のうち,以下の4項目に絞っています.
1. Gait(歩行)
2. Stance(立位)
3. Sitting(坐位)
4. Speech(発語)
著者らは,他の評価スケールにも同様の改訂が必要であると述べています.
1. Gewily M, et al. Quantitative Comparisons of Progressive Supranuclear Palsy Rating Scale Versions Using Item Response Theory. Mov Disord. 2024 Dec;39(12):2181-2189.(doi.org/10.1002/mds.30001)
2. Sampaio C. FDA Boosts the Progressive Supranuclear Palsy Rating Scale! Mov Disord. 2024 Dec;39(12):2127-2129.(doi.org/10.1002/mds.30040)
3. Potashman M, et al. Content Validity of the Modified Functional Scale for the Assessment and Rating of Ataxia (f-SARA) Instrument in Spinocerebellar Ataxia. Cerebellum. 2024 Oct;23(5):2012-2027.(doi.org/10.1007/s12311-024-01700-2)
この研究では,従来のPSPRS(PSPRS-28)とFDAが提案した10項目サブスケール(PSPRS-10および再スコアリング版rPSPRS-10)を比較しています.アイテム応答理論(Item Response Theory, IRT)は統計モデルのひとつで,テストや評価尺度を構築・解析するための方法です.被験者の潜在特性(例:能力,病気の重症度,態度など)と,個々のテスト項目(質問や評価基準)の特性との関係を数学的にモデル化する方法のようです.つまりIRTを用いて,28項目のうち情報量が低い項目や,疾患重症度との相関が弱いものが特定され削除されました.その結果できたものが以下の10項目による簡略版です.
1. Gait(歩行)
2. Arising from chair(椅子からの立ち上がり)
3. Postural stability(姿勢の安定性)
4. Sitting down(座る動作)
5. Neck rigidity(頸部筋強剛)
6. Dysphagia for liquids(液体の嚥下障害)
7. Dysphagia for solids(固形物の嚥下障害)
8. Voluntary downward saccades(自発的下向きサッケード)
9. Postural reflexes(姿勢保持)
10. Impact on daily life(日常生活への影響)
著者らは4つの臨床試験および2つのレジストリから得られた979名分のデータを分析し,各尺度の有用性を評価しました.この結果,PSPRS-28では項目間の相関が低く(平均相関係数r=0.17±0.14),特に「イライラ感」「睡眠困難」「姿勢振戦」の3つの項目は他の項目とほぼ相関がないことを示しました.一方,PSPRS-10では選択された10項目が全体の76%の情報量を保持しており,相関も高い(r=0.35±0.14)ことが示されました.また臨床試験シミュレーションでは,治療効果を検出するための被験者数をPSPRS-10は大幅に削減できることが確認されました.例えば,50%の治療効果を検出する場合,PSPRS-10では19名の被験者で済むのに対し,PSPRS-28では102名が必要でした.「rPSPRS-10」はさらにスコアリング方法を変更したものですが,PSPRS-10ほどの感度を示さない可能性があることが示されました.まとめるとPSPRS-10とPSPRS-28はそれぞれ利点があり,PSPRS-10は臨床試験における評価尺度として効率的で,PSPRS-28は疾患の全体像を詳細に把握するために有用です.表にまとめましたが,それぞれの特性を活かし,目的に応じて適切な評価尺度を選択することが重要となります.
この論文に対する論説も掲載され,FDAが主導し,PSPRSの改訂が行われた背景について論じています(文献2).FDAが希少疾患における臨床試験の効率性を高めるため,既存の評価尺度を改善する取り組みを進めていることが強調されています.つまり臨床試験のエンドポイントとして使用されるスケールの「目的適合性(fit-for-purpose)」を重視し,不要な項目を削除し,機能的評価を重視した改訂をすることにより,治療効果の判定をより効率的・効果的にできると述べられています.FDAはPSPRSだけでなく小脳性運動失調の評価尺度であるSARA(Scale for the Assessment and Rating of Ataxia)も改訂しています(文献3).改訂版は「functional SARA(f-SARA)」と呼ばれるもので,もとの8項目のうち,以下の4項目に絞っています.
1. Gait(歩行)
2. Stance(立位)
3. Sitting(坐位)
4. Speech(発語)
著者らは,他の評価スケールにも同様の改訂が必要であると述べています.
1. Gewily M, et al. Quantitative Comparisons of Progressive Supranuclear Palsy Rating Scale Versions Using Item Response Theory. Mov Disord. 2024 Dec;39(12):2181-2189.(doi.org/10.1002/mds.30001)
2. Sampaio C. FDA Boosts the Progressive Supranuclear Palsy Rating Scale! Mov Disord. 2024 Dec;39(12):2127-2129.(doi.org/10.1002/mds.30040)
3. Potashman M, et al. Content Validity of the Modified Functional Scale for the Assessment and Rating of Ataxia (f-SARA) Instrument in Spinocerebellar Ataxia. Cerebellum. 2024 Oct;23(5):2012-2027.(doi.org/10.1007/s12311-024-01700-2)