Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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その神経筋症状もコロナの可能性あり

2021年01月06日 | 医学と医療
メディカルトリビューン社からの依頼で,特集「コロナ時代のクリニカルパール」に寄稿文「その神経筋症状もコロナの可能性あり」を執筆しました.詳細は会員登録のうえ,ご一読いただきたく存じますが,標題に関するクリニカルパール(診療における重要ポイント)を10個紹介いたしました.実際に,中枢神経症状発症で診断が困難であったため,医療者が感染してしまった事例が生じています.COVID-19の可能性を常に考えることが大切です.

【10のクリニカルパール】
1.頻度の高い神経筋症状は,めまい,頭痛,筋障害,嗅覚障害,味覚障害,意識障害である
2.COVID-19に合併する頭痛は,片頭痛に似ている
3.COVID-19に合併する脳血管障害では脳梗塞の頻度が高い
4.COVID-19に合併する髄膜脳炎・脳症は免疫療法に反応する
5.神経免疫疾患ではCOVID-19を必ず鑑別に挙げる
6.運動異常症としてはミオクローヌスに注意する
7.呼吸不全に対する腹臥位管理では圧迫性ニューロパチーに注意する
8.人工呼吸器からの離脱時に弛緩性四肢麻痺を認める症例では筋炎の合併を疑う
9.Long-haul COVIDではさまざまな自律神経障害が見られる
10.COVID-19治療薬に伴う神経筋症状にも注意する


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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(1月2日)  

2021年01月02日 | 医学と医療
今回のキーワードは,COVID-19に関する悪意ある誤情報への対処,感染を抑制するエビデンスのある3つの政策,変異株が生まれたメカニズム,予後良好例では善玉抗体が多い,症候の多様性は自己抗体の多様性で説明できる,モデルナ社ワクチン第3相試験成功,ワクチンによるショックのメカニズム判明?です.

明けましておめでとうございます.昨年はいろいろ考えさせられた1年でした.その1つが,コロナ禍において求められるリーダー像です.歴史的にリーダーシップのあり方は変遷してきましたが,いま求められているのは所謂「変革のリーダーシップ」や「サーヴァント・リーダーシップ(奉仕としてのリーダーシップ」ではないかと思います.私の留学時のスタンフォード大学の学長であり,現在はGoogleの親会社であるAlphabetの会長を務めるJohn L. Hennessyが,自身のリーダーシップを語った本が日本語訳され,最近出版されました.全米が絶賛した本で,ご一読をおすすめしますが,そのなかで大学のゴールを「全学生にリーダーシップと他者への奉仕のこころを植え付けることである」と名言しており印象的でした.またリーダーの成功に欠かせない要素として「真正(authentic)であること,つまり正直に話すこと,そして自分だけでなく,他者やコミュニティー,人類すべての『本来のあり方』を実践すること」であると述べています.リーダーシップは学び習得するものです.日本でもそういうリーダーが数多く生まれるといいなと思いました.

スタンフォード大学名誉学長が教える 本物のリーダーが大切にすること

◆COVID-19に関する悪意ある誤情報にいかに向かい合うか?
コミュニケーション科学の専門家Brian Southwell博士は,デューク大学で「患者さんが自分の健康について誤情報(misinformation)を得たときに医師がすべきこと」という問題に対処するためのワークショップを立ち上げた.JAMA誌がインタビューを行ったが,そのなかに「一部の人々や組織が,インターネット上に誤った情報を積極的に流している.その誤情報の中には,本当に問題のある,もしくは悪意のあるものがある」と述べている.またなぜ患者さんが誤情報を信じてしまうのかについて,「スピノザは,人はすべての情報を取り込み,それを少し時間をおいて理解すると述べた.そのわずかな時間において,一時的に脆弱になってしまう.重要なことは,患者さんがその誤情報を批判的に考えるための時間を取ることを促すために,医師は何ができるかということだ」と述べている.そして「患者さんが信じたことが突飛なことであっても,その話に耳を傾け,一息ついて,相手を思いやる気持ちが大切である」と述べている.
JAMA. Dec 30, 2020(doi.org/10.1001/jama.2020.22018)

◆感染を抑制する効果的な3つの政策.
各国政府はパンデミックを医薬品以外の介入により抑制しようとしてきた.しかし,それらの効果は十分に評価されていない.英国の研究者らは,2020年1月から5月までに,世界41カ国が行った介入の効果について,介入の実施日と症例数・死亡者数をリンクさせたベイズ型階層モデルを用いて検証を行った.その結果,①すべての教育機関を閉鎖すること,②集会を10人以下に制限すること,③対面式の企業を閉鎖することで,感染者を大幅に減少できることが分かった(図1).また政府がすでに①②③を行っている場合,追加で自宅待機命令(ロックダウン)を行う効果は小さいことも判明した.
Science. Dec 15, 2020(doi.org/10.1126/science.abd9338)



◆変異株は回復期血漿療法中に出現した可能性がある.
感染力を増した変異株がいかに生まれたかは今後の対策を考えるうえで重要である.英国から免疫不全者への感染から生じたのではないかという説が報告された.リンパ腫に対してB細胞を標的とするリツキシマブによる治療中の患者がCOVID-19に罹患し,感染から1ヶ月以上,ウイルスを排出し続けた.このウイルス株の変遷を調べたところ,レムデシビルを2回投与したにもかかわらず,最初の65日間はウイルスに変化はほとんどなかった.しかし,回復期血漿を輸血した後,スパイク・サブユニットS2ではD796Hを,S1のN末端ではΔH69/ΔV70を持つ変異株が急激に出現した(図2).中和効果が弱まるにつれて,変異株の頻度は減少した.このΔH69/ΔV70は英国から広まった変異種B.1.1.7にも存在するものである.以上より,中和抗体に対するウイルスの抵抗機序として,スパイク蛋白の変異D796HとΔH69/ΔV70が出現した可能性がある.同様に英国から拡大している変異株も,免疫不全者が出処である可能性がある.→ 本邦でも回復期血漿療法が行われたことから,やはり現時点での全感染者のウイルスゲノムの解析を早急に行う必要がある.
medRxiv. Dec19, 2020(doi.org/10.1101/2020.12.05.20241927)



◆予後良好例では善玉抗体が多い.
ウイルスのスパイク蛋白受容体結合ドメイン(RBD)と,宿主のACE2受容体との相互作用を阻害する抗体は,ウイルスを中和することができる.しかしその抗体反応と患者の予後の関連についてはまだ不明である.スタンフォード大学からの報告で,COVID-19による入院患者79名と,外来患者および無症状感染者175名の983の血漿サンプルの分析が報告された.スパイクのS1 または RBD ドメインを標的とする IgG 抗体(ヌクレオカプシド抗原との比)は,軽症の外来患者で高値であった(図3).また血漿中の抗体の増加は,ウイルスRNA 血症の程度と逆相関したが,急性期における抗体反応から入院患者の転帰を予測するまではできなかった.また外来患者および無症状感染者のIgGを含むウイルス抗体価,感染後5カ月までに漸減した.
Science Immunol. Dec 07, 2020(doi.org/10.1126/sciimmunol.abe0240)



◆症候の多様性は自己抗体の多様性で説明できる.
米国イェール大学にて,Rapid Extracellular Antigen Profiling(REAP)と呼ばれるハイスループット自己抗体発見技術が開発され,COVID-19患者および医療従事者194名のコホートを対象に,2770個の細胞外および分泌タンパク質(エクソプロテオーム)に対する自己抗体のスクリーニングが行われた!この結果,COVID-19患者では,サイトカイン,ケモカイン,補体,細胞表面タンパク質などの免疫調節タンパク質に対する自己抗体が高頻度で存在し,対照群と比較して自己抗体反応性が劇的に増加していた.例として1型インターフェロンに対する自己抗体は入院患者の5.2%で陽性で,重症患者により多く認められた.これらの自己抗体が免疫機能を阻害し,ウイルスに対する防御機構が損なわれるものと推測された.また,中枢神経,心,肝,消化管,血管,結合組織を認識する自己抗体も検出され,特定の臨床的特徴や重症度と関連することも明らかにされた.例えば中枢神経では,視床下部に発現するヒポクレチン受容体2型(HCRTR2)への自己抗体が8名で確認され,その抗体価は意識レベル低下と相関した(図4)(二次性ナルコレプシーによる過眠かもしれない?).以上より,COVID-19の病態において,多様な自己抗体が免疫機能や臨床転帰にさまざまな影響を与えている可能性が示唆された.またコロナ後遺症(long-haul COVIDないしPost-COVID syndrome)も自己抗体によって生じている可能性も指摘されている.
medRxiv. Dec19, 2020(doi.org/10.1101/2020.12.10.20247205)



◆モデルナ社のmRNA-1273ワクチン,第 3 相試験の成功.
mRNA-1273ワクチン(全長スパイク蛋白質をコードする脂質ナノ粒子カプセル化mRNAワクチン)の第 3 相無作為化観察者盲検プラセボ対照試験が報告された.mRNA-1273(100μg)を28日間隔で2回筋注する群と,偽薬を28日間隔で投与する群に1:1に無作為に割り付けた.主要評価項目は,2回目の注射から少なくとも14日後に発症したCOVID-19に対する予防効果とした.3万420名のボランティアが登録された(各群1万5210名).結果として,偽薬群185名(1000人年あたり56.5名)およびmRNA-1273群11名(1000人年あたり3.3名)でCOVID-19感染が確認され,ワクチンの有効性は94.1%(P<0.001)となった(図5下).重症例は30名で発生し,1名が死亡したが,30名全員が偽薬群であった.一過性の局所反応および全身反応は認めたものの(図5上),重篤な有害事象はまれであり,発生率は両群で同程度であった.
New Engl J Med. Dec 30, 2020(doi.org/10.1056/NEJMoa2035389)



◆ワクチンに伴う重篤な合併症アナフィラキシー・ショックとその原因.
米国疾病対策予防センター(CDC)のレポートで,Pfizer/BioNTechのワクチンBNT162で生じた6名のアナフィラキシー・ショックについて報告されている.どうもmRNA-1273にも含まれる脂質ナノ粒子成分・ポリエチレングリコール(PEG)が原因かもしれないという説が浮上している.これはモデルナ者のワクチンにも含まれている.PEGは歯磨き粉やシャンプー,医薬品(便秘薬)などに含まれているようで,この抗体を有する人においてアナフィラキシー反応が生じている可能性がある.いずれにしてもワクチン接種時にアナフィラキシーに備え,呼吸,皮膚所見,消化器症状から速やかに疑い,ショックに至る前に第1選択薬であるアドレナリン,さらに輸液,酸素と対応する必要があるだろう.
CDC. December 30, 2020(https://emergency.cdc.gov/coca/ppt/2020/dec-30-coca-call.pdf)



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