最新号のBrain誌のCommentaryで「なぜアデュカヌマブは混乱し,なぜレカネマブは有効で,そしてなぜ第3のガンテネルマブは失敗したのか?」という重要な疑問に対する回答を,Karranらが提案した疾患と治療のモデルに基づいて明確に説明しています( Nat Rev Drug Discov 21, 306–318 (2022)).答えは「アミロイド除去の速度と程度が重要で,かつ十分に長い期間,除去できれば効果が得られる」というものです.図は各臨床試験における経時的なアミロイド除去量を示すグラフです.つまり「レカネマブはアミロイドを効果的に除去したので成功した.2つのアデュカヌマブの試験のうち,アミロイドの除去率が高いものは臨床的効果をもたらしたが,除去率が低いものはそうならなかった.ガンテネルマブは治療期間が長いものの,アミロイド除去率が期待はずれで効果がなかった」ということになります.ちなみに縦軸の単位 Centiloid はPETで計測した脳内アミロイド集積量を,若年健常者平均をゼロ,典型的ADの平均を100として表すもので,40程度まで低下すると臨床的効果が明らかになるようです.試験成功のためには,脳内アミロイドを大幅に減少させ,さらに臨床効果が検出されるのに十分な期間を継続する必要があります.
レカネマブの問題点についても明確に示されています.①効果はあるものの軽度であること(より長い自立した生活や,介護施設への入所を遅らせる効果があるが,一方で処方箋や医療費の増加にもつながる恐れがあること),② アミロイドを除去しても残存する認知機能低下の機序が何なのかが不明であること(タウの関与?またアミロイドの蓄積を防げばAD発症を防ぐことができるのかもわかっていない),③診断体制が未整備であること(脳脊髄液分析やPET検査を受けることができるかは地域によりまちまち.簡便な血液バイオマーカーの確立が望まれる),④治療体制が未整備であること(現在は支援業務が主体であるが,これを2週ごとに静注し,3ヶ月ごとにMRIでの副作用モニタリングできる体制に変換する必要がある),⑤アミロイドがADの単独の原因でない可能性が高く,抗体療法は最終的に多剤併用療法の一要素になる可能性が高い.多発性硬化症,HIV,心血管疾患などの先駆的な領域から学ぶ必要がある.
Brain. 2023 Feb 17:awad049. doi.org/10.1093/brain/awad049.
レカネマブの問題点についても明確に示されています.①効果はあるものの軽度であること(より長い自立した生活や,介護施設への入所を遅らせる効果があるが,一方で処方箋や医療費の増加にもつながる恐れがあること),② アミロイドを除去しても残存する認知機能低下の機序が何なのかが不明であること(タウの関与?またアミロイドの蓄積を防げばAD発症を防ぐことができるのかもわかっていない),③診断体制が未整備であること(脳脊髄液分析やPET検査を受けることができるかは地域によりまちまち.簡便な血液バイオマーカーの確立が望まれる),④治療体制が未整備であること(現在は支援業務が主体であるが,これを2週ごとに静注し,3ヶ月ごとにMRIでの副作用モニタリングできる体制に変換する必要がある),⑤アミロイドがADの単独の原因でない可能性が高く,抗体療法は最終的に多剤併用療法の一要素になる可能性が高い.多発性硬化症,HIV,心血管疾患などの先駆的な領域から学ぶ必要がある.
Brain. 2023 Feb 17:awad049. doi.org/10.1093/brain/awad049.