Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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片側顔面攣縮と眼瞼攣縮,機能性神経障害の鑑別3 -機能性眼瞼攣縮-

2023年04月05日 | 運動異常症
最後は機能性と器質性の眼瞼痙攣の鑑別です.機能性眼瞼痙攣は実はまれではなく,単一施設の症例集積研究でで20%を占めていたという報告があります.機能性を疑うヒントとして異常な視覚症状を訴えたり,突然発症して初めから長時間の眼瞼攣縮を呈するといったことが挙げられます(器質性の場合,徐々に長時間の眼瞼攣縮に移行します).図上のように強い閉眼を来たし,眉毛は下がり,Babinski 2 signは認めません.また何かに集中させたり夢中にさせたりすると(distraction),完全に消失します(図下).



他の鑑別点としては,器質性の場合,感覚トリックを認めることがありますが,機能性では存在しないか,触れたりすることで症状が悪化します.また機能性ではMRAで椎骨脳底動脈の蛇行を認めません.またボツリヌス毒素注射を行うと,器質性では効くまで時間がかかかります.もし注射して即座に改善した場合には「これは機能性かも!」と診断を見直す必要があります.
Gazulla J, et al. Parkinsonism Relat Disord. 2015;21(3):325-6.
Frucht L, et al. Front Neurol. 2021 Feb 4;11:605262.


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片側顔面攣縮と眼瞼攣縮,機能性神経障害の鑑別2 ーPseudo-ptosisー

2023年04月04日 | 医学と医療
朝のカンファレンスで,Babinski 2 signの話の続きを行いました.写真の患者さんの所見は上記3疾患のいずれでしょうか?病歴は,転倒による頭部打撲後の翌週に左眼瞼下垂と羞明が出現しました(図左).



ポイントはBabinski 2 signでは患側の眉毛が上がっていましたが,今度は下がっていることです.そして図右は閉眼させて額にしわ寄せをしてもらったものです.

本例の所見はPseudo-ptosisもしくは機能性眼瞼下垂と呼ばれるものです.器質的な眼瞼下垂であれば,それを代償しようとして,患側の前頭筋は過収縮します.しかしこの患者さんはむしろ収縮が弱く,しわがありません.しかし図右のように方法を変えると前頭筋の収縮を確認することができます.よって機能性の眼瞼下垂と判断できます.

治療としては,羞明に対してサングラス,前頭筋のリハビリ,うつに対する薬物治療を行い,徐々に眼瞼下垂は改善しました.私も過去に同じ症候を呈して,多くの病院を受診していた患者さんを担当したことがあります.このような機能性神経障害の診察手技のマスターは,脳神経内科医にとって極めて重要です.
Practical Neurol. 2, 364–365 (2002).

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片側顔面攣縮と眼瞼攣縮,機能性神経障害の鑑別1 ーBabinski 2 signー

2023年04月04日 | 医学と医療
写真の3人は眼瞼攣縮(blepharospasm)と片側顔面攣縮(hemifacial spasm; HFS)のいずれでしょうか?一般に前者は局所ジストニアの一種,後者は異常動脈による顔面神経の根元の圧迫に起因すると考えられています.HFSの診断に有用な症候として「眼輪筋が収縮して閉眼すると同時に,前頭筋が収縮し眉が上がる.この一連の現象は自分の意志では再現できない」ことがあります.これはJoseph Babinski先生(1857-1932)の名前を冠したもうひとつの徴候で,Babinski 2 signもしくはother Babinski signと呼ばれています.つまり3人ともHFSになります.



臨床神経学においてもっとも有名な神経徴候と言えるBabinski signのオリジナルは1986年に書かれた学会の抄録で,わずか28行の報告でした.Babinski 2 signは1905年に発表されたHFS患者に見られる別の徴候です.眼瞼攣縮とHFSを比較した研究で,特異度100%と報告されています.メカニズムは,顔面神経の根元の圧迫によるHFSでは眼輪筋と前頭筋の運動ニューロンプールが異なる分節上神経パターンを持つことに起因していると考えられるのに対し,局所ジストニアである眼瞼攣縮ではこれらの筋の共収縮は,末梢の共活動を反映していると書かれています.またBabinski 2 signは自分の意志では再現できないので,機能性神経疾患(FND)との鑑別にも有用な所見と考えられます.
J Neurol Sci. 2017 Jul 15;378:36-37.
Mov Disord. 2013 Aug;28(9):1298-300.

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【重要】抗アミロイドβ薬は脳萎縮を招く! -レカネマブは本当にアルツハイマー病脳を守るか?―

2023年04月02日 | 認知症
Neurology誌に衝撃的な論文が報告されました.12月2日に「アルツハイマー病(AD)病態修飾薬レカネマブの有効性と3つの懸念」というブログの2項目に「レカネマブ用量依存性脳萎縮」を紹介しましたが,その詳細に迫るメタ解析論文です.目的はAD患者を対象に,異なる種類の抗アミロイドβ(Aβ)薬の使用により脳体積にどのような変化が生じるのか明らかにするというものです.具体的には①ARIA誘発モノクローナル抗体,②ARIA非誘発モノクローナル抗体,③セクレターゼ阻害薬,④その他に分類しています.ARIAとはアミロイド関連画像異常のことです.Aβをターゲットとする治療の有害事象であり,血液脳関門の破綻に伴うものと考えられ,頭部MRIでは脳浮腫や微小出血として確認されます.

方法は海馬,側脳室,全脳の少なくとも1つの脳領域の体積変化を評価できるMRIデータを示した臨床試験とし,検索された145件の臨床試験のうち,31件が最終解析に含まれました.結論として「抗Aβ薬は常に脳萎縮を促進するが,その程度や脳の領域は薬剤の種類によって異なること」が示されました.以下,6つの図で解説します.

図1.ARIA誘導モノクローナル抗体により,側脳室の23~57%の拡大をもたらす.レカネマブは35%の拡大率である.



図2.驚くべきことに,側脳室拡大の程度は,ARIAの頻度と強い正の相関を示す(r=0.86,p=6.22x10-7).つまり血液脳関門の破綻を間なく薬剤ほど脳萎縮が強いことを意味する.



図3.全脳萎縮はレカネマブやドナネマブで-23~28%(!)と促進されるが,セクレターゼ阻害剤でも一貫して認められる(-15~44%).



図4.セクレアーゼ阻害剤は一貫して海馬の体積減少を促進した(平均差:-37.1μL[プラセボ比-19.6%],95%信頼区間:-47.0~-27.1μL).



図5.抗Aβ薬で治療したMCI(軽度認知障害)患者の脳体積は,治療しなかった場合よりも8ヶ月も早くAD患者に近似したものになると推定される.



図6.論文にはない図で,Last authorのメルボルン大学のScott Ayton教授が自身のTwitterでレカネマブの解説をされたもの.順に全脳体積,皮質厚,側脳室体積,全海馬体積,左側海馬体積,右側海馬体積.海馬は有意に萎縮が抑制されているが,全脳萎縮は促進される.



Scott Ayton教授は以下の考察をTwitter(@ayton_scott)でされています.

1)脳体積はこれまでほとんど無視されてきたが,これはADの進行を裏付ける客観的な指標であり,臨床効果が不明確な場合には特に重要となる.
2)脳萎縮が促進される原因は不明だが,薬剤による脳損傷の可能性を考慮する場合,慎重な解釈が必要である,より多くのデータを収集する必要がある.
3)脳体積のような二次的な評価項目より,臨床的有効性を重視すべきである.しかし脳の萎縮が臨床的に症状をもたらすのに時間がかかる可能性,あるいは記憶以外の脳機能に影響を与えている可能性も否定できない.
4)医師は患者にレカネマブによる脳萎縮のリスクを注意喚起すること,臨床試験で脳萎縮を積極的に,長期的にモニタリングすること,臨床試験を実施した製薬企業が脳体積データをより詳細に報告することが推奨される.

★脳萎縮が促進されるメカニズムは不明です.Aβ bulk plaque除去による可能性(否定的見解が多い),炎症反応のオフターゲット減少,脳脊髄液動態の変化などが指摘されているほか,最悪のシナリオは神経変性が促進されているというものです.機序や影響が不明であることを考えると,とくに4)は重要になると思います.いずれにしてもこの不気味なデータを認識し,共有する必要があります.

Alves F, Kallinowski P, Ayton S. Accelerated Brain Volume Loss Caused by Anti-β-Amyloid Drugs: A Systematic Review and Meta-analysis. Neurology. 2023 Mar 27:10.1212/WNL.0000000000207156.


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