Neurology誌に衝撃的な論文が報告されました.12月2日に「アルツハイマー病(AD)病態修飾薬レカネマブの有効性と3つの懸念」というブログの2項目に
「レカネマブ用量依存性脳萎縮」を紹介しましたが,その詳細に迫るメタ解析論文です.目的はAD患者を対象に,異なる種類の抗アミロイドβ(Aβ)薬の使用により脳体積にどのような変化が生じるのか明らかにするというものです.具体的には①ARIA誘発モノクローナル抗体,②ARIA非誘発モノクローナル抗体,③セクレターゼ阻害薬,④その他に分類しています.ARIAとはアミロイド関連画像異常のことです.Aβをターゲットとする治療の有害事象であり,血液脳関門の破綻に伴うものと考えられ,頭部MRIでは脳浮腫や微小出血として確認されます.
方法は海馬,側脳室,全脳の少なくとも1つの脳領域の体積変化を評価できるMRIデータを示した臨床試験とし,検索された145件の臨床試験のうち,31件が最終解析に含まれました.結論として「抗Aβ薬は常に脳萎縮を促進するが,その程度や脳の領域は薬剤の種類によって異なること」が示されました.以下,6つの図で解説します.
図1.ARIA誘導モノクローナル抗体により,側脳室の23~57%の拡大をもたらす.レカネマブは35%の拡大率である.
図2.驚くべきことに,側脳室拡大の程度は,ARIAの頻度と強い正の相関を示す(r=0.86,p=6.22x10-7).つまり血液脳関門の破綻を間なく薬剤ほど脳萎縮が強いことを意味する.
図3.全脳萎縮はレカネマブやドナネマブで-23~28%(!)と促進されるが,セクレターゼ阻害剤でも一貫して認められる(-15~44%).
図4.セクレアーゼ阻害剤は一貫して海馬の体積減少を促進した(平均差:-37.1μL[プラセボ比-19.6%],95%信頼区間:-47.0~-27.1μL).
図5.抗Aβ薬で治療したMCI(軽度認知障害)患者の脳体積は,治療しなかった場合よりも8ヶ月も早くAD患者に近似したものになると推定される.
図6.論文にはない図で,Last authorのメルボルン大学のScott Ayton教授が自身のTwitterでレカネマブの解説をされたもの.順に全脳体積,皮質厚,側脳室体積,全海馬体積,左側海馬体積,右側海馬体積.海馬は有意に萎縮が抑制されているが,全脳萎縮は促進される.
Scott Ayton教授は以下の考察をTwitter(@ayton_scott)でされています.
1)脳体積はこれまでほとんど無視されてきたが,これはADの進行を裏付ける客観的な指標であり,臨床効果が不明確な場合には特に重要となる.
2)脳萎縮が促進される原因は不明だが,薬剤による脳損傷の可能性を考慮する場合,慎重な解釈が必要である,より多くのデータを収集する必要がある.
3)脳体積のような二次的な評価項目より,臨床的有効性を重視すべきである.しかし
脳の萎縮が臨床的に症状をもたらすのに時間がかかる可能性,あるいは記憶以外の脳機能に影響を与えている可能性も否定できない.
4)
医師は患者にレカネマブによる脳萎縮のリスクを注意喚起すること,臨床試験で脳萎縮を積極的に,長期的にモニタリングすること,臨床試験を実施した製薬企業が脳体積データをより詳細に報告することが推奨される.
★脳萎縮が促進されるメカニズムは不明です.Aβ bulk plaque除去による可能性(否定的見解が多い),炎症反応のオフターゲット減少,脳脊髄液動態の変化などが指摘されているほか,最悪のシナリオは神経変性が促進されているというものです.機序や影響が不明であることを考えると,とくに4)は重要になると思います.いずれにしてもこの不気味なデータを認識し,共有する必要があります.
Alves F, Kallinowski P, Ayton S. Accelerated Brain Volume Loss Caused by Anti-β-Amyloid Drugs: A Systematic Review and Meta-analysis. Neurology. 2023 Mar 27:10.1212/WNL.0000000000207156.