Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(3月3日)  

2024年03月03日 | COVID-19
今週号のNEJM誌にCOVID-19罹患後の認知機能障害に関する2つの論文が報告されています.いずれも,前方視的に11万人以上の認知機能を評価した過去最大の研究です.ともにCOVID-19が認知機能低下をきたすことを示した点で一致しています.2つ目の研究では,感染後の知能指数(IQ)の変化を以下のように示してあり,非常にインパクトがあります.

感染後の知能指数(IQ)(非感染対照群と比較)
4~12週で症状改善:IQ 3ポイント低下に相当
12週以上症状持続:IQ 6ポイント低下に相当
ICU入室:IQ 9ポイント低下に相当
再感染:IQ 2ポイント低下に相当

論評では「このようなエビデンスが示されても,それを否定したり軽視したりする人々は今後も存在するだろう.しかし現実に何百万人もの人々が影響を受けていることを認識し,効果的な治療法を見つけるためにさらなる取り組みを行う必要がある」と書かれています.私達もこの事実を認識し,極力感染を防ぐ必要があります.

◆感染群の認知機能は,非感染群より3年間のすべて時点で低下する.
ノルウェーで,COVID検査を受けた参加者に13項目の記憶に関する質問票(EMQ,1~52点の範囲)を用いた全国規模の検討が行われた.年齢,ワクチン接種の有無,既往症などの交絡因子を調整し,検査陽性と陰性の2群に分けて検査後3年まで評価を行った.対象は11.2万人で,うち約半数の5.7万人が陽性であった.ベースライン時のスコアはほぼ同じであったが,追跡調査中に陽性群はすべての時点で有意な低下が認められた(図1).
Ellingjord-Dale M, et al. Prospective Memory Assessment before and after COVID-19. N Engl J Med. 2024 Feb 29;390(9):863-865.(doi.org/10.1056/NEJMc2311200



◆感染症状の持続期間と変異株の種類が認知機能低下に影響する.
英国で行われた80万人の成人を対象に,認知機能(8つのタスクにわたるグローバル認知スコア)をオンラインにて評価した.11万2964人が評価を完了した.重回帰分析では,COVID-19から回復した者のうち,症状が4週間未満および12未満で回復した者は,非感染群と比較して,軽度の認知機能低下を示した(-0. 23SDおよび-0.24SD:SDは標準偏差).しかし症状が改善していない者では高度の認知機能低下を認めた(-0.42SD)(図2).そして武漢オリジナル株またはB.1.1.7株(α株)が優勢であった期間に感染した者は,それ以降の変異株(δ株,ο株)に感染した者よりも認知機能低下は高度であった.さらに入院経験のある者はない者よりも高度であった(例;ICU入室-0.35SD).この結果は傾向スコアマッチング分析を行った場合も同じであった.ワクチン接種による予防効果も認められた.SDをIQに置き換えたデータは上述の通り.



→ 軽症感染でIQが3ポイント低下するというのは、平均的なIQスコア(大人の場合は85~115程度)においては小さな変化かもしれません.実生活での認知機能にどのような影響を及ぼすかは不明ですが,その人の日常生活や職業,活動の性質によって異なる可能性があります.また上記のIQ低下はあくまで平均値ですので,認知機能障害にはかなりのばらつきがあることは注目すべきかと思います.

Hampshire A, et al. Cognition and Memory after COVID-19 in a Large Community Sample. N Engl J Med. 2024 Feb 29;390(9):806-818.(doi.org/10.1056/NEJMoa2311330

NEJM誌ではCOVID-19の認知機能障害のメカニズムについてとてもわかり易い図を掲載しているので確認していただきたいと思います(図3).



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機能性神経障害は高率に慢性疼痛を伴い,複合性局所疼痛症候群(CRPS)まで呈しうる

2024年03月01日 | 機能性神経障害
機能性神経障害(functional neurological disorders; FND)では痛みをしばしば合併することが知られています.しかし,その特徴を調べた研究はほとんどありません.英国から,成人のFND患者における慢性疼痛,もしくは慢性疼痛患者におけるFNDについての検討した系統的レビュー/メタ解析が報告されました.

715件の論文がスクリーニングされ,64件が解析されました.8件の症例対照研究(計3476人の患者を含む)では,FND群では,他の神経疾患(てんかんや多発性硬化症など)による対照群と比較して,疼痛の合併頻度が高いことが分かりました.30のコホートのランダム効果モデルにより,FND患者4272人の推定55%が疼痛を合併していました.さらに患者の22%が複合性局所疼痛症候群(CRPS),16%が過敏性腸症候群,10%が線維筋痛症と診断されたと推定されました.

一方,慢性疼痛患者361人におけるFNDの合併に関して検討した研究が5件同定されました.地域の慢性疼痛サービスに通う190人の患者の17%にFNDを認めたとの報告もありました.注目すべきは,疼痛を合併する場合,FNDNの予後は不良で,かつ精神療法や理学療法などのFNDに対するほとんどの介入は他の症状を改善しても,痛みを改善しなかったことです.以上の結果は,FND患者のメカニズム,分類基準,治療や臨床試験において,疼痛を考慮すべきであることを示唆しています.

本研究で最も驚いたのは「FNDはCRPSと診断されうる」ということではないかと思います.論文の共著者で,FND研究のリーダーであるJon Stone先生はTwitterで「CRPSとFNDは和解の時だ.これは,CRPS(またはFND)がすべて「精神的」なものだと言っているのではない.FNDとCRPSの生物学的特徴は重なり合っている.一方を理解することは,他方を理解することにつながる」と述べています.
Steinruecke M, et al. Pain and functional neurological disorder: a systematic review and meta-analysis. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2024 Feb 21:jnnp-2023-332810. doi: 10.1136/jnnp-2023-332810.




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