■ 経済アニメって、どうよ ■
マンガやアニメは、いつも新鮮なネタに飢えています。
だから、およそあらゆるジャンルが存在します。
「経済マンガ(アニメ)」などというジャンルの少数ながら存在します。
パッと思いつくのは『なにわ金融道』だたりしますが、
アニメでも『C』の様な、
現在の金融システムの問題点に迫ろうとする意欲作も存在します。
ただ、基本的な経済学の知識を持たない若者達に、
いきなり、「現代の金融システムの矛盾」を説明してもチンプンカンプンです。
ですから『C』は、意欲作にして、見事なまでの失敗作でした。
視聴者の知識が問われるだけに成功が難しいい経済マンガ(アニメ)ですが、
今期の『まおゆう魔王勇者』は、果敢にもこのジャンルに挑戦しています。
■ 魔王と勇者というトホホ感 ■
「魔王」とか「勇者」というと『ドラクエ』を連想してしまいます。
『ドラクエ』で育った子供達は、日常会話の中でドラクエ・ネタをさり気に入れたり、
すっかり日本人のDNAの中に転写された作品とも言えます。
最近ではTVドラマの『勇者ヨシヒコ』が、この擦り切れたジャンルをパロって大成功しています。
ドラクエ風のロールプレイングをそのまま実写化したら、
意外と「ギャグ」として面白いかも・・・そんな「思いつき一発」の作品ですが、
これが又、チープなトホホ感全開で、思わず吹き出してしまう面白さ。
作品としては夏目雅子の『西遊記』へのオマージュの様でもありますが、
中国ロケにお金を掛けた『西遊記』に対して、
そこら辺の山村でロケされた『勇者ヨシヒコ』の低予算っぷりが、
むしろ、トホホ感を増幅して、日本の文化も成長したな・・・なんんて思ったりもします。
既に日本人の脳内では「勇者」とか「魔王」という言葉が、
どこかで笑いの回路に直結している事を見事に逆手に取った成功とも言えます。
今期アニメでスタートした『まおゆう魔王勇者』も、同様にチープ感全開です。
登場人物は「魔王」「勇者」「女騎士」「女魔法使い」「メイド長」という様に呼ばれ、
既に固有名詞を捨て去る潔さです。
■ 恐るべき魔王の力とは・・・ ■
『まおゆう魔王勇者』の冒頭は、魔王討伐の旅に出た勇者一行から、
勇者が一人で、魔王の城に向かう場面で始まります。
魔王の城に着いた勇者の前に立ちはだかるのは・・・・
巨乳のカワイコちゃん。でも頭には角が生え、「魔王」と名乗ります。
なんとこの巨乳の魔王、戦う気が全然ありません。
それどころか、勇者を待ち焦がれていたと言います。
・・・なんか微妙な展開です。
魔王が巨乳で可愛くなければ、速攻でストップボタンをクリックする所です。
拍子抜けする勇者に、巨乳の魔王は妙な事を言い出します。
魔族と人間の戦争は、経済の役に立っているから止められないのだと・・・。
あれあれ、このアニメ、おかしな事を言い出したぞ??
勇者が魔王に切りかかると、魔王の化けの皮が剥がれて、
筋骨隆々の男の魔王に変身するってオチじゃないのか??
魔王曰く・・・
魔族と人間の戦争によって、寒くて不毛な南の国には、
軍隊を通して経済的利益が齎されている。
各国の経済も戦争の巨大消費によって利益がもたらされるので、
戦争は最早止められないのだ・・・。
イオいお、これってドラクエのパロディーを楽しむ作品じゃないのか?
さらに魔王は続けます・・・
私は魔族と人間の戦いを終わらせ、平和をもたらしたい。
だから勇者よ、私と永久の相互所有の契約を交わしてほしい。
・・・って、これ「結婚してよ」って事じゃねぇーー!!
どうする、勇者よ!!
勇者は魔王の策略を疑いますが、
目の前でたわわに揺れる巨乳に逆らえません。
すりすりとすり寄る魔王と、思わず契約を交わしてしまいます。
すると、魔王は、スポンと頭の角を外します・・・
エエエエー、魔王の角って、カチューシャなのぉーーーー!!
とまあ、巨乳で可愛い魔王の策略に嵌り、すっかり一話を見てしまいました。
魔王、恐るべし・・・。
■ 経済のイロハを教科書的に教えるマジメな作品 ■
さて、2話目からは魔王と勇者は人間界にやってきます。
二人は、寒冷地の貧しい農村を豊にする実験を始めます。
小麦は連作障害の出る作物です。
通常は、春小麦、冬小麦、休耕という順で畑を使います。
しかし、休耕する為に、生産性が上がりません。
そこで魔王が試したのが
春小麦 クローバー 冬小麦 蕪(カブ) というサイクル。
作中、クローバーは家畜の飼料になると説明されます。
実際にはクローバーなどのマメ科の植物の根には
根粒バクテリアという微生物が共生しています。
根粒バクテリアは、空気に含まれる窒素を効率良く体内に蓄積します。
その結果、植物の三大栄養素、窒素、リン酸、カリの内の窒素を畑に補充する事が出来ます。
休耕田にレンゲソウを植えるのも同じ目的の為です。
そして蕪は成長の速い植物として有効です。
ラディッシュの別名は二十日大根と言いますが、
これは種を蒔いてから二十日で収穫できる事から付いた名前です。
蕪や大根は非常に生育が早く、1シーズンに複数回収穫が可能です。
あれあれ、この作品、意外と真面目じゃないか?
さらに、魔王と勇者の家に、逃亡した農奴の姉妹が逃げ込んで来ます。
「農奴は農機具の所有を許され、家族を持つことが許されたるが移動が許されない農民」と説明されます。
おおおー、ロシア文学を読んでも、説明される事は無いので、
単なる貧しい小作農を農奴と呼んでいるのかと思い込んでいました。
移動の自由が無いという事は、領主に所有されているに等しいので、
やはり、奴隷に近い存在なのですね。
いやいや、この作品、なかなか勉強になります。
普通はこういう教科書的作品はツマラナイと相場が決まっていますが、
魔王が巨乳で可愛いので、ついつい見てしまいます。
さらに、勇者とイチャツキタイ魔王が、デレデレでさらに可愛い。
恐るべし、魔王・・・・。
■ どこかで見たことがあると思ったら・・・ ■
しかし、この作品、どうも既視感がある。
既視感というよりも、登場人物の妙なセリフ回しに聞き覚えがある・・・。
そう思って脚本を確認したら、荒川稔久でした。
『狼と香辛料』の脚本家ですね。
納得です。
『狼と香辛料』は、ラノベ原作の経済アニメです。
中世のヨーロッパを思わせる地域を舞台に、
商人と、狼の娘の旅と恋を描いた名作です。
行商人ロレンツは、パスロエ村に差し掛かった時、
荷馬車の荷台で眠る少女に遭遇します。
彼女の名前はホロ。
何と、彼女に頭には狼の耳が生え、お尻には立派な尻尾が生えています。
彼女は「わっちはヨイツの賢狼のホロじゃ」と名乗ります。
自分は、豊穣の神として、この村を守っているのだと。
村人は昔はホロを崇めていました。
しかし、農業技術の進歩に伴い収量は増加し、
次第に豊穣の神であるホロに対する信仰を薄れています。
ホロは村を出て、故郷のヨイツに戻りたいと思っていますが、
パスロエを離れられない理由があります。
精霊に近い存在のホロは、ほぼ永遠の命を持っています。
そのホロがつて愛した人間の男がこの村に住んでいたのです。
以来、ホロは幾百年の間、この村に豊穣を授けて来ました。
しかし、精霊に近い存在のホロの仲間達は、
人間の科学の進歩と引き換えに、滅び行く存在です。
バスロエ村のホロへの信仰も薄れつつあり、
ホロは故郷で北の森林、ヨイツに帰りたいと願います。
しかし、長い時の流れはホロの記憶を薄れさせ、
ホロはヨイツにどう帰れば良いのか分かりません。
さらに、村を離れる決心も付きません。
そんな折、パスロエ村を通りかかった行商人ロレンツにホロは目を付けたのです。
行商人なら、自分をヨイツに連れて行ってくれると思ったのです。
ところがロレンツはホロの動向をなかなか快諾しません。
sんな折、小麦取引のトラブルに巻き込まれます。
窮地に陥ったロレンツをホロが救います。
ホロが化身を解くと、そこには巨大な狼が現れます。
ロレンツはホロと旅をする契約を結びます。
行商の傍ら、ヨイツの位置の情報を集め、
そして、ホロをヨイツへ送り届けると約束します。
こうして、行商人と狼の旅が始まります。
■ 恋愛小説としても、経済小説としても秀逸 ■
ホロとロレンツは旅に間、村から村、街から街に商品を売って歩きます。
小麦を仕入れて、それを別の街で売って武具を仕入れ、
戦争が近いと言われる街で武具を売って、胡椒を仕入れるといった具合です。
しかし、商売はいつも順調とは限りません。
見込みが外れて、武具が暴落したりします。
ロレンツは仕入れに借金をしていますから、
それが返済出来なければ、奴隷に身をやつす事になります。
そんなロレンツの窮地を、何度となくホロの英知が救います。
商売には無恥なホロですが、そこは幾百年と生きる強みで、
経験値が物を言います。
商売のコツも飲み込みが早く、おまけに度胸があって狡猾です。
幾多の窮地をくぐって、旅をするうちに、
いつしかホロとロレンツは友情以上の感情で結ばれてゆきます。
しかし、お互いにその事には決して触れません。
何故なら、ホロは永遠を生き、ロレンツは人間の寿命で老いて死にます。
かつて人に恋をして、辛い経験をしたホロは、
決して、二度と、人とは恋に落ちたくないのです。
そしてそれを知るロレンツも、自分の好意を封印しています。
だから、二人の恋はじれったい程に進展しません。
それでも、絆は深まるばかり・・・。
読者はイライラしたり、ハラハラしたりしながら
二人の恋を見守ります。
これは、ティーンズを対象にしたラノベとしては王道です。
ティーンを遙かに超えて、フィフティーに近い私ですら、ドキドキしちゃいます。
教科書的に経済を扱う『まおゆう魔王勇者』に比べ、
『狼と香辛料』は、中世の商取引をめぐるスリリングな展開が楽しめて
比較にならない程の傑作です。
相場を張って、価格操作や情報戦でバブルを起すすなどという
知的な戦いが繰り広げられます。
■ 教科書では教えてくれない事は、ラノベやアニメが教えてくれた ■
ギルドなどの中世の商業習慣は教科書にも載っています。
しかし、実際の商業活動の中で、ギルドが銀行の機能を果たしたり、
ギルドのルールを破るとどうなるかなどは、教科書には決して載っていません。
人々が生き生きと生活し、恋をして、そして争う中で、
擬似的ではありますが、歴史教科書に書かれている内容が生き生きと再現される・・。
多くの高校の図書館にラノベが蔵書されています。
生徒の希望もあるでしょうが、司書の先生達もラノベの素晴らしさを理解している様です。
子供達は、大人の知らない「知の楽しみ」を密かに享受しているのです。