■ やはり妨害工作に出た米国 ■
ソフトバンクの米携帯電話第三位、スプリンとネクステルの買収は
アメリカの通信インフラを海外企業が手に入れるというデリケートなM&Aです。
私は、この買収は、米国の妨害で失敗するのでは無いかと予測していましたが、
案の定、様々な妨害工作に遭っている様です。
■ クリアワイアーの株主の妨害 ■
スプリントネクステルは全米5位のクリアワイアーの株を51%取得しています。
クリアワイアーは高速通信網を整備している為、
スプリントネクステルがiPone5で「LTE」通信網を構築する為に買収した会社です。
しかし、クリアワイアーの大株主のクレスト・フィナンシャルが
連邦通信委員会(FCC)に買収差し止めを求ています。
さらには、ソフトバンクのスプリントネクステルの買収も
クリアワイアーの資産を低く見積もり過ぎていて無効だとして
買収差し止めを求めています。
本来51%の株を保有するソフトバンクが有利なはずですが、
どうも、雲行きが怪しい用です。
そこら変は、アメリカの電波行政を巡る暗闘が反映されているのかも知れません。
■ 衛星放送第二位のディッシュ・ネットワークの妨害 ■
衛星放送で全米第二位のディッシュ・ネットワークがさらに状況を複雑ししています。
ディッシュはクリアワイア株について、3.30ドルで敵対買収を仕掛けて来ました。
さらに、スプリントによるクリアワイヤの未保有株取得はまだ結論が出ていないと指摘。
FCCに対し、「重大な未解決案件が解決するまで」審査手続きを停止するよう求ています。
ディッシュは法廷闘争によって事業を拡大してきた会社の様です。
■ スプリントネクステルはiPhioneを4年間で3050万台購入する契約 ■
スプリントネクステルはiPhoneの取り扱いが遅れて業績が悪化しました。
Appleとの契約は2014年までに3050万台のiPhoneを購入するというものでした。
金額にして、200億ドルの契約です。
iPhoneでの契約を延ばすためには、「LTE通信」が可能な高速通信網を整備する必要があります。
確かにアメリカ国内では、WiFiが普及しているので、
日本程の「LTE]の需要は無いのかも知れませんが、
それでも、他社との差別化にはなります。
ソフトバンクのスプリントネクステル買収の成功には
クリアワイアーの通信網が不可欠とも言えます。
■ TD-LETを巡る中国とアメリカの確執 ■
現在世界の高速通信規格は、iPhoneが採用するFDD-LTE規格と、
中国や韓国が採用し、新興国でのシェアを抑えるTD-LTE規格の二大陣営に分かれています。
中国はTD-LTEで高速通信網を整備し、
Appleに再三に渡りiPhoneにこの規格を採用する様に働き掛けましたが、
AppleはiPhone5でこの規格の採用を見送り、中国人を失望させました。
この高速通信の規格の争いは、スマートフォンのシェア争いと密接に関係しており、
昨今の世界的はiPhone5の販売不振の一因になっていると思われます。
SAMSUNGのギャラクシーなどTD-LTEを採用するスマートフォンは、
新興国市場で、LTE通信が利用可能な事でシュアを延ばしているはずです。
iPhone5の売り上げ減に悩むAppleとしてはTD-LTE規格の採用はシェア奪還には不可欠です。
一方、通信規格の戦いは、国家間闘争の様相を帯びています。
昨年、アメリカの議会は、世界最大の通信機器メーカーである
中国の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の製品にスパイ容疑があると指摘しました。
華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の機材を通して
アメリカの国家機密が漏洩しているとの疑いを掛けたのです。
大統領府はすぐにこの問題を調査し、スパイの疑惑は無いと発表しましたが、
アメリカの通信機器分野では、明らかに中国製品の排斥が起きています。
そして、クリアワイアーは華為技術の製品を基地局に利用していた指摘されています。
尤も、基幹機材の採用は無く、5%程度の使用だったみたいです。
■ TD-LTE規格を採用したソフトバンクの失敗 ■
ソフトバンクは日本国内の高速通信網をTD-LTEで整備していました。
当然機材は華為技術やサムソン製品が多く使用されています。
これには、低コストという理由があるのでしょう。
しかし、iPone5はソフトバンクの思惑に反してTD-LTE方式の採用を見送りました。
そこで、ソフトバンクはFDD-LTE方式を既に展開していたイーアクセスを急遽買収します。
■ スプリントネクステル買収の真意? ■
私は孫社長がスプリントネクステルを買収した背後には、
スプリントが買収したクリアワイアーが構築しようとしていた
TD-LTE通信網の存在があったのではないかと邪推します。
クリアワイアーはソフトバンク、ボーダフォン、チャイナモバイルなどと共に
TD-LTEを推進する「Global TD-LTE Initiative」のメンバーです。
ソフトバンクはアメリカ国内でスプリントネクステルのiPhoneのシェアを利用して、
iPhone5やその後継機に、TD-LTEを採用させようとしていたのではないでしょうか?
ところが、時を同じくしてアメリカ国内で華為技術の排斥が始まり、
ソフトバンクのスプリントネクステルの買収自体が意味の薄いものになってしまいました。
■ TD-LTE勢力にも挽回のチャンスはある ■
FDD-LTEとTD-LTEとの規格の争いは、AT&Tとその他勢力の争いとも言えます。
中国を初めとした新興国では、TD-LTEの高速通信に対応しないiPhoneは、
単なるデザインが美しいだけの「遅いスマホ」と化しているのです。
アップルの失速と、通信方式の争いを全く報道しないマスコミは、
この問題の本質を意図的に隠しているとしか思えません。
そして、この問題を抜きにして、アメリカでのソフトバンクの大型買収の意味も、
それを、妨害しようとしている勢力の思惑も見えて来ないのです。
Appaleも背に腹は変えられません。
このまま、新興国市場を失うか、TD-LTE規格を採用するかを迫られたら、
最終的にはTD-LTE規格の採用を決断するでしょう。
■ ソフトバンクユーザーは無駄金を使わされたのでは無いか? ■
ここで問題になるのが、ソフトバンクのスプリントネクステルの買収に意味があったかどうか。
仮にアップルがTD-LTE規格を採用したとしても、
スプリントネクステルも、クリアワイアーもソフトバンクも
FDD-LTE規格で高速回線を整備し始めていますから、
TD-LTE規格への再投資は、効率の悪いものとなってしまいます。
AppleはTD-LTE規格の採用で、新興国のシェアを回復するかも知れませんが、
ソフトバンクがアメリカや国内でのシェアを拡大する理由にはなり得ません。
まあ、今後ソフトバンクが高速通信網をTD-LTEで再構築すれば、
安い中国製や韓国製の通信機器を利用出来るので、
コストメリットはあるのでしょうが。
ただ、米議会が指摘した様な、中国機材の「スパイ疑惑」が付き纏います。
結局、ソフトバンクのスプリントネクステルへの2兆円の投資が成功する為には、
スプリントネクステル自身の、米国内でのシェア拡大が不可欠で、
既に巨額の赤字を抱えるスプリントネクステルは
ソフトバンクにとって高い買い物になりそうです。
■ 買収無効の起死回生に掛けるソフトバンク ■
ソフトバンクが大火傷を負わずに米携帯市場から撤退する為には、
連邦通信委員会(FCC)がソフトバンクのスプリントネクステルの買収を無効とする手が残されています。
この場合、スプリントネクステル自身がクリアワイアの評価を不当に低くしたという判断がされ、
買収無効の責任を、スプリントネクステル側に押し付ける事が出来ます。
実はソフトバンクのスプリントネクステルの買収契約には、
違約条項として、買収額の3倍の違約金が設定されている様です。
ですから、損をするからと言って、ソフトバンクが一方的に買収を破棄出来ないのです。
ですから、スプリント側の不備でFCCが買収を認めないという判断は、
実はソフトバンクにとっては、非常にありがたい事態なのかも知れません。
まあ、そう簡単にアメリカがソフトバンクを逃がしてくれるとも思えず、
孫氏の後ろにいる勢力の力が試されるとも言えるでしょう。
■ 携帯電話の世界は魑魅魍魎の世界 ■
電波行政や携帯電話の世界は、魑魅魍魎の世界に私には見えます。
日本の携帯電話のガラパゴス化や、ビジネスの失敗の一端は、
NTTDocomoやAUなど、半官企業のビジネス戦略の失敗とも言えます。
これは総務省の電波行政とも密接に関係していて、
通信規格一つ取っても、国内規格を国際規格にしようと画策した事が、
むしろ裏目に出て、海外の規格の傘下に入らざるを得なくなったとも言えます。
ただ、この規格間の戦いは、さらに上のレベルでは国家間闘争そのものであり、
日本の携帯電話各社も、その争いとは無縁ではいられないのでしょう。
スマートフォンがiPoneの一人勝ちから、ASMSUNGとの二勇時代に突入したのも、
両者の背後に、巨大な国際的なパワーゲームが存在しており、
この分野でも、アメリカの覇権が崩れようとしています。
ロイターなどの報道は、Appleの不調を大々的に報道する傾向も見られ、
「アメリカの保守本流陣営のApple VS 世界陣営のSAMUSUNG」という代理戦争にも見えます。
まあ、多分に陰謀論めいた見方になってしまいますが、
日本の官僚の方達や、携帯電話会社の幹部の方達は、
この様な化け物達を相手に苦戦している訳で、
その苦労は並々ならぬものがあるでしょう。
私などは、未だにガラケーですから、
ある意味、高見の見物ではあるのですが・・・・。