■ アメリカ経済を支える移民や密入国者 ■
オバマ政権は、子供の時に密入国してアメリカで成人した「ドリーマー」と呼ばれる若者達の強制送還を猶予し労働許可を与えて来ました。
これらの密入国者の中のは、子供だけで国境を越えて来た者達も多く、メキシコでは麻薬組織などが子供の集団越境を手引きしていたとの情報が在ります。
オバマ政権の処置は一見「人道的」とも思えますが、「ドリーマー」達はアメリカ企業や社会に、若くて安い労働力を提供していたとも言えます。子供の頃からアメリカに住んでいれば英語も堪能でしょうし、アメリカ社会にもそれなりに順応しています。
カリフォルニア州などは移民に寛容な州として知られていますが、ハイウエーの防音壁に合間からチラリと見えるLAの校外は、メキシコの様な貧民街が続いていたりします。さながらアメリカの国内に「発展途上国」が点在している様な光景です。
アメリカ経済が成長力を維持している理由の一つに若い動労力が流入し続けている事が挙げられます。、彼らは又、出生率が高い為に若い労働力を生み出す事にも貢献していました。
流入する労働力は単純な労働者ばかりではありません。世界中の国々か優秀な研究者がアメリカに集まっており、彼らは大学やIT企業などで知識労働に携わり、アメリカの技術や産業の発展に貢献して来ました。テスラモーターズのCEOのイーロン・マスク氏も移民の一人です。
■ 「ドリーマー」を強制送還するというトランプ ■
トランプ政権は子供の時にアメリカに密入国して、アメリカで成人した「ドリーマー」の強制送還に踏み切る様です。18才を過ぎた「ドリーマー」が対象になります。
これに大してオバマ元大統領が批判のコメントを発表するなど、リベラル派や、移民達からは当然、強い反発が起きています。
■ 結果的には優秀な労働力を世界に拡散する ■
トランプ大統領の政策は一見すると非人道的に見えますが、メキシコやカナダなどでIT系企業がドリーマーの採用を増やしてオフィスを拡大しています。
アメリカで学び、英語と技術を習得した優秀な知的労働者が、トランプの政策によってアメリカ国外に流出しているのです。
トランプの移民政策はアメリカのIT系企業の外国人採用の削減という結果も生み出しています。最近の採用者は以前の半分程だと報道されています。
海外からの優秀な研究者や技術者のアメリカへの流入が減れば、彼らは自国や周辺国で活躍し、結果的に自国の周囲の技術や産業の発展に貢献します。一方で、アメリカは優秀な人材を失う事になるので、競争力が低下します。
■ アメリカの貿易障壁は新興国のデカップリングを促すであろう ■
トランプ政権はNAFTA(北米貿易協定)においても保護主値的な変更を強行しようとしています。
アメリカにカナダやメキシコから輸入する自動車に掛かる関税をゼロにする条件に、次の2点の変更を加えようとしています。
1) 米国製部品の使用が50%以上mなら関税はゼロ
2) 域内での部品調達率の基準を62.5%から85%に引き上げる
トランプ政権の目論見は、これによって米国内での自動車生産を増やす事にあります。一方で、カナダやメキシコからの自動車の輸入のハードルが高まるのでカナダとメキシコはこれに強く反発しています。
一見、「保護主値」の様に見えるトランプの政策ですが、部品の現地調達率が高まるれば、日本や中国やヨーロッパのパーツメーカーはアメリカの工場を建設するか、あるいは北米以外への販路拡大を模索する事になります。
中国やインドでは猛烈なモータリゼーションが加速していますが、新興国の庶民がマイカーを保有する様になれば、アメリカの市場などあてにしなくても新興国の自動車産業は自立する事が出来ます。トランプの保護主義はこの動くを加速する可能性が有ります。
リーマンショック時には新興国の経済は未だ未熟で「デカップリング」出来ませんでしたが、次なる危機に際しては「デカップリング」が実現する可能性も有ります。トランプの保護主義はこの流れを後押ししている様に見えます。
■ アメリカ一国主義では世界経済の成長に限界がある ■
現在、先進国を中心に「成長の限界」に達し、先進国のインフレ率は鈍化しています。この原因の一つに、アメリカの消費の限界が挙げられます。
米国の企業は、グローバル企業の例に漏れず、安い労働力を使役して利益を上げて来ました。プアーホワイトから移民へ労働力をシフトして来たのです。その結果、アメリカの中間層は疲弊し、消費の拡大が鈍化しました。
リーマンショック前に旺盛だったアメリカの消費は、アメリカの住宅バブルによって生まれる「担保価値の拡大による個人の借金の拡大」という出来の悪い手品に支えられていました。だから、住宅バブルが弾ける事で、偽りの消費は縮小してしまった。
仮に、アメリカで再び住宅バブルが発生して、その結果消費が拡大したとしても、人々はそれが偽りの拡大である事に気付くでしょう。
こうして、アメリカ一国の消費力に頼るのでは、世界経済は何度もバブル崩壊に巻き込まれる事になります。
■ 世界の経営者は新興国の「アメリカ離れ」を望んでいる ■
リーマンショック以降の狂った様な金融緩和の副作用は「バブルの生成と崩壊」という結末しか生み出しません。
現在、NYダウも日経平均株価も連日上昇を続けていますが、一本調子に上昇する相場はバブルの終焉が近づいて来た事を示しています。今の相場は「上がるから買う」という状況に陥っていますが、市場参加者の多くはこれを楽観視はしていません。「そろそろ・・」とは思いつつも、上昇相場から振り落とされ無い様に必死にしがみ付いているだけ。
この相場はどこかで必ずや大崩壊を引き起こしますから、その時世界はリーマンショック以上のダメージを負います。特に政治に不安要素を抱えるアメリカは、危機の救済策が後手後手に回る可能性が有ります。
多分、同時期にシリアでの米ロの対立が決定的となり、米中関係も悪化する事で、世界経済の危機回避の足並みも乱れるはずです。
私はこのタイミングで中露がドルに圧力を掛けると妄想しています。中露が中心になってBRICsを中心に新たな国際通貨を作る試みがされるでしょう。こうして、ドルの魔力が衰える事で、新興国の「アメリカ離れ」が加速し、アメリカ一国主義の時代が終焉する。
世界は新たな成長のエンジンを得る事になり、世界の経営者は次なる時代の扉を開く。
・・・・トランプの内向きな政策は、世界の新なページの序章なのかも知れません。