フライヤーには恋愛物とあったが、これは老人の日々を綴った作品。もちろん演出の小嶋一郎流の<恋愛物>として、この題材が取り上げてあるのだろう。老いた女性の心の中にある一途な想いが、この作品の底には流れている。これはその微かな声に耳を澄ませるためのお芝居である。
記憶を喪っていくこと。そんな中で生きていくこと。彼女は決してひとりではない。いつもエイコが傍にいる。彼女の孫娘である。彼女の傍にいて世 . . . 本文を読む
前作の圧倒的な感動から2年。再びあの『パッチギ!』がスクリーンに帰ってきた。今回は68年の京都から、6年後の74年東京に舞台を移し、主人公たちもキャストを変えて、日本というくだらない国で生きなくてはならなかった在日朝鮮人家族の苦しみを、父の世代から3代に亘る大河ドラマとして見せていく。
済州島から、ボルネオへ、そして日本へ。かっての父の旅を追いながら、映画はラストでベトナムの南北統一(75年 . . . 本文を読む
ウディ・アレンはどうしてしまったのだろうか。初めてニューヨークを離れてロンドンに渡った期待の新作なのだが、彼らしさがあまり感じられない。(批評では評判は良かったはずなのに、あてにならないなぁ。)
テンポが悪く、2時間以上の上映時間なんてそれも彼らしくない。(ル・コントとウディはいつも短いほど出来もいい。)借りてきた猫みたいに大人しく、ラストで死人たちがやって来るシーンなんてああいう説明はいつ . . . 本文を読む
去年この小説の第1章のみを読んでいる。どこで読んだか失念したが何かのアンソロジーで確かに読んだ。今回この小説を手にした時、実はこれが去年読んだということすら忘れていた。作者名も作品名も記憶になく、初めて読む気でページを開いた。でも2,3ページで「これ、俺読んでるよ!」とすぐ気付いた。でもこの装丁には記憶ないし、「これはデジャビュ?」なんて一瞬思う。「ん、な分けないし」とすぐに気を取り直すも、この . . . 本文を読む
30年の歳月を経て、今更ロッキーを作ってしまうシルベスター・スタローンには恐れ入った。三つ子の魂百まで、というが、それは彼の事を言った言葉だろう。この映画に続いて今度はランボーの新作も撮っているらしい。それってブルース・ウイリスが『ダイハード4.0』に出る事とは全く意味が違う。一役者に過ぎないブルースと脚本家であり監督でもあるスタローンでは作品に対する思い入れが全く違うのだ。
作品に対してス . . . 本文を読む
キム・ギドクの『弓』をようやく見た。去年公開された時に劇場に行きたかったが、大阪ではテアトル梅田で1週間しかしなかった。2週目はモーニング・ショーのみ。それだけで消えていった。大阪でキム・ギドクはかなり冷遇されている。
ますます異様な世界に落ち込んでいくキム・ギドク。今回は日本デビュー作の『魚と寝る女』の時を思わせる設定の中で、『うつせみ』以上にファンタスティックで、象徴的な物語を見せてくれ . . . 本文を読む
あきれた映画である。期待してただけに途中から「こりゃ、あかんわ」と匙を投げたが、それでも「もしかしたら」と、まだ期待を完全放棄はできず、最後まで見たが、ぐったりしました。ドニー・イェンは完全ナルシスで自分に酔ってるし、それが最初は笑えて、いいが、途中からは「おい、おい、それだけかい」と突っ込みを入れたくなり、気付くとあほらしくなっている。
94分が長い、長い。ただ、あちょあちょしてるだけの単 . . . 本文を読む
『となり町戦争』では事件(戦争)の周辺を描くだけで、その核心部分は曖昧にしたが、今回は事件そのものを真正面から捉えていくという作りをしており、三崎亜記の本気がしっかり伝わってくる大力作。
隣同士の地方都市間で行われる静かな戦争に巻き込まれたサラリーマンと彼の担当になった役所の女性の交流を描いた『となり町戦争』を読んだ時は、かなりの衝撃を受けた。こんな話をリアルに描き、ここまでさりげないことに . . . 本文を読む
大友克洋監督最新作。久々の実写映画。しかも、他人の漫画の映画化である。彼の独特な世界が、他者の作品でどう絡みあい、どんなふうに提示されるのかが、とても楽しみだった。そして、期待に違わぬ大友ワールドが出来ていた。
作品全体のバランスを著しく崩してもかまわない。まず作品の世界観を優先する。大友監督らしい基本姿勢が今回も前面に出ている。「ええっ!」というドラマ作りが成されている。うまく作る気なんて . . . 本文を読む
リーディング3本、芝居2本の5本の短編集。70分。このくらいの上演時間がとても見やすい。2プロに分けた9本(1本のみが重なる)を一気に上演しても2時間くらいになるはずだが、それをしないという姿勢がいい。長さとしては見れない時間ではない。2時間くらいの芝居はいくらでもある。なのにこの発表会では、そうしない。観客に無理させないで、心地よく見てもらおうという意図であろう。
内容面でも、軽くもなく、 . . . 本文を読む
『ひとり日和』は、20歳の女性が、一人暮らしの老人のもとに身を寄せて、共に暮らす1年のお話。母の仕事の都合で、一人ぼっちになった知寿は、遠い親戚の吟子という71歳の老婆のところにやって来た。大学に行くでもなく、ただなんとなくフリーターとして生きている彼女は、将来に対する漠然とした不安を抱えて生きているはずだが、そんなことおくびにも出さない。まだ若いから、ではない。若いとか、老いているとかいう問題 . . . 本文を読む
実録ものだが、作者が事件自体をどう捉えたのかが、これではよくわからない。力のこもった力作だけに惜しい。昭和54年大阪で起きた「三菱銀行猟銃強盗殺人事件」を扱った作品である。高橋伴明監督が『TATTOO<刺青>あり』というタイトルで20年以上前に映画化もしている。
こんな30年も前の事件を題材にして、今、何故芝居化しようと思ったのか。この芝居の作者は、梅川の何処に魅力を感じたのだろうか。彼の行 . . . 本文を読む