なんとこれはあの『となり町戦争』の続編なのだ。でも、あの話のその後ではない。あの設定の第2段階。というか、別バージョン。だんだん気付くというくらいに、そこはかとない。10年の歳月を経て、あの衝撃のデビュー作の世界観を今一度見せる。だが、描かれる問題への作者の手触りはよりリアルで切実なものになっている。現実の不気味さに小説は追い越されている。でも、焦るのではない。
この姿の見えない戦争は、ひそ . . . 本文を読む
原作小説は東野圭吾が恋愛物に挑んだ作品で、なかなか面白いのだが、それが映画になると、どうして、こんなことになるのだろうか。ストーリーの表面をなぞっただけではダメ。しかも、原作が一応ミステリー仕立てになっているのでそのまま踏襲したのだが、そこがさらに映画を安っぽくしている。原作もそこが欠陥だったのだから、やめてもよかった。東野圭吾はちょっと自信なかったのだろうなぁ。だから、保険のつもりでこういう展 . . . 本文を読む
SABU監督がこういうほのぼのとしたホームドラマを作るなんて意外だ。でも、結構、それがさまになっている。こういう話なのに相変わらず走るシーンばかりが突出していて、それがちゃんと話の流れを作るのもいい。
一人暮らしの青年が、6歳の女の子を育てる、という話。結婚もしてないし、今まで子育ての経験なんて当然ない。職場ではできる社員で、周囲からの信頼も大きい。だから、仕事も忙しいし、残業もあるし。自分 . . . 本文を読む
2部構成2時間半の大作仕様になっているのだが、内容的には1時間半で収まる。作品のスケールと上演時間はちゃんとリンクしたほうがいい。意味のない大作仕立ては作品自体の持つテイストをゆがめる。軽いタッチのコメディ仕様なのに、こういうボリュームにしたため、作品が間延びして、緊張感のないものになった。
介護の問題を扱い軽やかに見せるというのは、悪くないアプローチなのだ。しかし、問題は深刻なものも孕んで . . . 本文を読む
今回のジャブ・ジャブは客演が多い。初めて見る人が(しかも、大量に)芝居の中心を担うから、なんだか不思議な感じだ。でも、芝居はいつもの「はせワールド」全開で、楽しい。
こちらの時間とあちらの時間がそれぞれ流れていき、両者が交信したり、重なったり、一緒にもなるし、現実の出来事でもあり、夢の中のようでもある。まずこれはひきこもる劇作家の妄想だ、なんて言いきったらつまらないし、そんな枠では括れないか . . . 本文を読む
「ザ・新劇」とでも言いたくなるような作品だ。2時間半の大作である。1934年(昭和9年)の作品だ。そんな古典を今上演する意味がどこにあるのか、よくわからないけど、演出の熊本さんがどうしても上演したいとこだわり、劇団もそれを受け入れたから今回の上演が可能になった。なぜ、この作品なのか。今の時代にこれが訴えかけるものって何なのか。見ながら、一番気になったのはその一点だ。正直言うとよくわからなかった。 . . . 本文を読む
ゲキバカの柿ノ木タケヲの作品をスター・ジャックスが取り上げ、作者自ら大阪にやってきて演出も担当する。柿ノ木さんは大阪が大好き。なんだかそれだけで大阪の人間としてはうれしい。
スター・ジャックスの芝居は初めて見たのだが、エンタメに徹しており、その迷いのなさがいい。エンタメとして媚びることなく、堂々と派手で、楽しい舞台を観客に提示しようと努力しているのが伝わってくる。大衆演劇のノリを大事にして、 . . . 本文を読む
前作『ちょうちんそで』の方法を引き継いで、今回も複数の人たちの日常スケッチでしかないような短いドラマにすらならないようなエピソードをどんどん羅列して、「はだかんぼう」になる男女の日々を綴る。
最初は誰が誰で、どうなっているのか、よくわからない。でも、全然気にしないで話は進んでいく。一応中心人物はいる。歯科医である35歳の桃と、彼女の親友で4人の子持ち、専業主婦の響子。2人とその周辺のさまざま . . . 本文を読む
パク・チャヌクの新作であり、彼のハリウッドデビュー作。とてもおしゃれで、映像も美しい。だが、話自身はとても彼らしくて、妥協はない。韓国で作ろうが、アメリカであろうが、自分のやりたいことをする。そういうところがいい。委縮しないし、無理もしない。しかもへんに媚びたりもしない。
話自身は単純だ。悪に目覚める少女の心を描くのだが、大事なことは、そんな単純な結末ではなく、そこに至る過程である。突然の . . . 本文を読む
黒沢清の新作。なんと5年振りの作品になるらしい。そんなにも間が空いていたなんて驚きだ。しかも、今回は東宝系拡大公開のメジャー大作である。製作はTBSだし。彼がこういう作品を手掛けるなんて初めてのことではないか。
綾瀬はるかと佐藤健が主役を演じるSFホラータッチの作品。最後にはタイトル通り首長竜も登場して、なんだか一見派手。でも、実際の映画は黒沢らしくて、とてもへんな作品で地味。案の定予想した . . . 本文を読む
「劇団パンと魚の奇跡」の保木本佳子さんが新しく作った劇団。「劇団パンと魚の奇跡」の3人組による心地よい世界から飛び出して、ひとり立ちするって勇気のいることだ。だが、それはきっと大切なことだと思う。いつまでも、幸せない時間は続かない。というか、幸せな時間を大切にするためにも前進しなくてはならない。そんな覚悟で彼女は第一歩を踏み出した。
新作でデビューするのではなく、10年前に書いた作品を上演す . . . 本文を読む
こういうとことん観念的な芝居を、とても柔らかなタッチで樋口さんが綴れるようになったということが、とてもうれしい。わざと難解にする必要はない。でも、わかりやすく作ることもない。無理せず自然体でこの感覚的なドラマを組み立てる。感じたまま、そのまんま提示するのだ。理屈よりも感性を大切にするって、本当はとても難しいことなのだが、それをどちらかというと理屈の人である樋口さんが軽々と乗り越えていく。
妊 . . . 本文を読む
5つのお話。5人のさきちゃん(実質は6人。最後のタイトルになっている作品はタイトル通り2人のさきちゃんが登場する)を主人公にした短編連作。相変わらずよしもとばななは小学5年レベルの語彙ですばらしい小説を書く。
いつものように切ない話だった。(「切ない」もばななさんが大好きな言葉。小説の中で主人公たちは何度となく切なくなる)死によって損なわれた関係性をなんとかして修復しようとする人たちのその後 . . . 本文を読む
福田雄一監督は絶好調だ。『コドモ警察』に続いてもう新作が登場した。三木聡に迫る勢いだ。(別に三木聡が続々と新作を発表しているわけではないけど、どんどん自分の作品を自分のペース作っているということを、言いたかったのでもなく、2人のテイストがよく似ているから、なんとなく、そんなふうに言ってしまっただけ)
でも、福田監督はいつもねらいが空回りする。だから、笑えない。今回もそうだ。別に受けをねらって . . . 本文を読む