武藤さんが初めて劇団大阪の本公演を手掛けた。昔、彼がスケッチブックシアターでも上演した作品を再び取り上げた。彼にとってはとても愛着のある作品なのだ。戦争を背景にして、そんな中で、ひとりの少女が静かに息をひそめるようにして生きた時間が描かれる。表面的にはとても感傷的で抒情的な作品にも見える。だが、これは「戦時中のレジスタンスを描いた作品だ」と武藤さんは言う。今の時代に一石を投じるものになる、と言う . . . 本文を読む
確か4年振りのしんちゃんである。『超時空! 嵐を呼ぶオラの花嫁』以来だ。あの作品も、実によく出来ていたけど、その後はご無沙汰した。(あの時は、たまたま金券ショップで安売り券があったから、じゃぁ、見ようかな、と思い見たのだった)
しんちゃんの映画がおもしろいのはわかっているけど、他の映画を優先してしまうのは仕方のないことだろう。だってしんちゃんをわざわざ劇場まで見に行くのは、億劫だから、しかも . . . 本文を読む
高橋さんが描く近未来の世界は、5人組の時代のような管理社会で、確かに5人組になった女たちがルームシェアする狭いマンション。そのリビングを舞台にして、彼女たちの「ある日」が描かれる。大上段からテーマを振りかざすことはない。だが、そこにある静かな痛みや、怒り、憤りが、噴出する。
世界はどうなっていくのかという不安もある。それはSF的なドラマとしてのそれではなく、僕たちが生きる今と陸続きのほんの少 . . . 本文を読む
木村大作の第2作である。今回はホームドラマだ。スケールの大きな作品だった前作『劔岳 点の記』とは違って、とても小さなささやかなお話である。だが、これを見ながら、一歩一歩自分の足で生きていくって素敵なことだ、と素直に信じることができる。それだけで、この映画は成功している。
いまどきの映画ではない。まるで何十年も前の映画を見ている気分にさせられる。だいたい檀ふみなんて、映画で見るのはいつ以来だろ . . . 本文を読む
昭和13年、大阪。「のばく」と呼ばれた地域。貧乏人が書割長屋にひしめき暮らしていたらしい。そんな長屋を舞台にして、そこで暮らす落語家と、彼の周囲の人々とのお話である。戦争が色濃くなり、自由が奪われていく中、頑固者の彼が、周囲に押し切られて仕方なく弟子を迎える。弟子入りした彼もまた、融通の利かない男で、そんな似た者同士の師匠と弟子を中心にして、お話は展開する。すべてを受け入れながらも、自分たちらし . . . 本文を読む
まるで番外公演となった前作『新・幕末純情伝』を引き継ぐように、同じく幕末の京都を舞台にした大作である。『宵山の音』、なんと10年振りの再演となる。アート館の3方囲み舞台を縦横に使い、華やかで艶やかな芝居を見せる。
1864年、祇園の芸者置屋を舞台にして、そこにやってくる男たちとのやりとりを明るく楽しく見せていくのが眼目だ。ストーリーよりも、個々のキャラクターを重視して、彼女らを突出させるので . . . 本文を読む
今回のジャブジャブは100分と、いつもよりは少し短い。そして、内容のほうもいつも以上にとてもあっさりしている。ストーリーの仕掛けのほうも薄味になっている。当日パンフには「空想科学芝居」だ、なんて書かれてあるけど、はせさんの芝居って、わざわざそんな断りを入れなくてもいつもそうじゃないですか。では、なぜ、今回はことさらそこまで言うのか。その辺がきっと、大切なポイントなのだろう。
SF、近未来とい . . . 本文を読む
これは言わずと知れたジャッキー・チェンの最新作で、今年のお正月、上海に行ったとき上映されていた作品だ。(『警察故事2013』というタイトルだった)とても見たいと、思ったが、絶対に日本でも上映されるし、と思い、その時は思いとどまった。でも、なかなか公開されないし、結構焦った。なんでも見たい時が見るべき時だ。我慢せずその瞬間見るべきだった。ようやく6月に日本でも公開されたけど、忙しくて先送りしている . . . 本文を読む
西加奈子の小説を映画化するのは、難しい。本で読むとあんなに面白いのに、それを映像で見せると、なんだか、もの足りないのだ。なぜだろう。今回も行定勲だし、前作(『きいろいゾウ』)も廣木隆一だったし、日本を代表する逸材が挑むのに、見ながら何か違うよ、と思う。
大阪弁がわざとらしいとかいう映画はよくあるけど、この映画はそうではない。細部までとても丁寧に作られてある。子供たちも生き生きしている。大人た . . . 本文を読む
夏目漱石の『坊っちゃん』というテキストを使って、2本の芝居を作り上げる。それを連続して見せる。自由脚色という域を大きく踏み外して、2人の作家が大胆な構成、演出で、一見とても単純なこの小説を思いもしないものへと、作り上げて(作り変えて)いく。テキストを解体して、自分の方法論のもと、独自のアプローチを試みる。これは漱石について、あるいは、現代の日本が置かれた現状に対しての考察ですらある。
同じテ . . . 本文を読む
正直言ってあまりおもしろくはなかった。ショックだ。だってこの映画は『スモーク』(脚本)、『クラッシュ』のポール・ハギス監督作品である。しかも、彼らしい素材だし、こんなにも好き放題している。なのに。
どうしてこんなことになったのか。もちろん、僕の期待値が高すぎた、ということもある。でも、彼ならそんなものを軽く上回るものを見せてくれるのではないかと信じていただけに、ショックは大きい。3つの都市で . . . 本文を読む
20年間ひきこもったままの男。たったひとりの肉親である母の死によって天涯孤独になったとき、彼は自分の意志で部屋を出ていく覚悟をする。もう彼を守ってくれた母親はいない。自分の足で立ち、行きなくては、ここで餓死するしかない。必要に迫られたからの選択ではない。(客観的には、そうとしか見えないけど)
何が彼を追い詰めたのか。なぜ、彼が生きる決意をしたのか。その一番大事な部分が曖昧なままなのが気になる . . . 本文を読む
こういう映画がなぜ今作られるのか、と、なんだか不思議な気分になる。しかも、これが一昨年フランスで爆発的大ヒットを記録した。フランス人は今、こういうものを求めているのか。
まぁ、これはフランス版『ロッキー』だから、こういうわかりやすい映画が観客のハートを捉えることは、ままある。だが、日本人である僕は、見ながら、これを受け入れるのは、どうかな、と首をかしげざるをえない。単純すぎて、退屈。
こ . . . 本文を読む
こういうホームドラマはこれからどんどん生まれてくる予感がする。小路幸也の『東京バンドワゴン』が出たとき、今更こういうアナクロはないんじゃないか、と思ったが、あれを読みながら確信犯的に昭和のホームドラマの世界への回帰をこの世界が望んでいるのではない、とかすかに思った。向田邦子の『寺内貫太郎一家』へのオマージュであるあの作品が、好評からどんどん続編を重ねていき、次第にあの心地よい世界がずっと続くので . . . 本文を読む