高橋伴明監督が復活した。久々の新作である。2021年公開のこの作品に続いて昨年『夜明けまでバス停で』も高い評価を得ている。人生の最終ラウンドに入ったからやり残したくないのだろう。ピンク映画時代の作品はあまり見ていないけど、一般映画デビューの『TATTOO<刺青>あり』以降、ほぼすべての映画を見ている。『愛の新世界』『光の雨』『丘を越えて』2000年前後がキャリアのピークだったはずだ。2 . . . 本文を読む
これは言わずと知れた黒澤明の名作映画、そのリメイクだ。イギリス映画。第2次世界大戦後のロンドンを舞台にして、時代設定はオリジナルとほぼ同じの1953年。(当時の再現が見事)冒頭の当時のフィルムによる記録風景から、お話の世界へと自然と引き込まれる。まるで1953年の映画のように。2022年の映画なのにスーパークラシック。原作と同じスタンダードサイズの古典的映画。(さすがに、モノクロにはしなかったが) . . . 本文を読む
まるでイオセリアーニの映画を見てるような気分。(同じジョージア映画だから似てるのか?)初めて彼の『月曜日に乾杯』を見た時、なんだかすべてから解放されまたような感じがした。自由ってこんな感じかと思ったけど、あれ以上にこの映画はノンシャランとしている。なんでもあり、というか、どうでもあり、というか。何も考えていないのです、ってこんな感じか。かわいい女の子をいつまでも撮っている。そこには何の意味もない。 . . . 本文を読む
この2週間重い小説ばかり読んでいる。川上未映子の『黄色い家』、佐藤厚志『荒地の家族』に続いて昨日今日でこの本を読んだ。大好きな寺地さんの新刊だけど、これはあまりにキツい。ツラくて読んでいて耐えられない。母子を守る(はずの)「のばらのいえ」。そこで暮らす祐希。2000年、9歳だった。18年後の2018年。ふたつの時間を往還させて綴られる物語。
天涯孤独の少女を助けて養い育てるはずの施設。そこを運営 . . . 本文を読む
紀里谷和明監督作品。2本の大作映画を手掛けハリウッド映画にも挑戦した彼が自らの手で(お金を用意して製作も手がけた)渾身のこの一作を作り上げた。全精力を注ぎ込んだから、もうこれで映画は終わりにするそうだ。そんな思いの丈を注ぎ込んだ映画なのに、そして、これだけは大作なのに、宣伝もなくひっそり公開されている。少ない劇場(全国でたった30館らしい)で、少しの上映回数。もちろん劇場には観客はほとんどいない。 . . . 本文を読む
原宏一らしい作品で安心してあっという間に読める。3話からなる連作長篇。間借り鮨屋の雅代さんが全国を旅して(3話だから3カ所だけど)みんなを幸せにするというよくあるパターン。新しい発見はない。『佳代のキッチン』シリーズの新バージョンで、相変わらずの定番展開。
ただ読んでいるとほっこりする。それだけでも十分だと思う。定番は悪いことではない。だけど、物足りない。ここには怖さがないからだ。最後はほっとし . . . 本文を読む
先日BSで吉永小百合の『若い人』を放映していた。少しと思い見始めたらなんとなく、最後まで見てしまった。1962年の作品である。もちろんリアルタイムでは見ていないけど、高校生のとき、まずTVで見ている。その後、昔あった名画座(東梅田日活)でも見ているはずだ。10代のころ、60年代の日活青春映画が大好きで必死で追いかけた。朝のTVの「あなたの映画劇場」やお昼のSUNテレビの名画劇場とかで。当時はあと1 . . . 本文を読む
劇団往来は3年連続でこの時期、シェイクスピアに挑んだ。しかも毎回違うアプローチをする。最初は『ヴェニスの商人』。そこではいつもの往来のタッチをベースにして見せる。コロナ禍を考慮してか、なんと上演時間90分を目安にしたスピード感のある芝居に仕立てた。短くわかりやすく楽しむシェイクスピアを目指す。次は4大悲劇のひとつである『マクベス』に挑戦。若手を大胆に起用してモノトーンの作品に仕上げた。そして今回は . . . 本文を読む
なんとこれは600ページに及ぶ大作だ。そんな分厚い本を手にして読み始めたのだが、なかなか読み進められない。難しいとかつまらないとかいうわけではない。それどころか面白いからどんどん先が気になり、読み進めてしまいそうな小説なのだ。なのに、しばらく読むと疲れてしまう。それは内容があまりにきつくてハードだからだ。
お話は2020年春から始まる。コロナが本格的になる時期だ。主人公の花は40歳になる。総菜屋 . . . 本文を読む
角田光代『ゆうべの食卓』がとてもよかったので、もう一冊、食べることを題材にしてそれを前面に押し出した小説にチャレンジ。ということで、この本を読むことに。最近「食」を扱う小説がやけに多い。この作者石井颯良の本は初めて読む。安易な小説ならいやだな、と心配しながら、少しドキドキして読み始めたのだが、なかなか面白いし、これはアタリだった。
独自のテンポで堂々と描く。面白い設定だが、そのストーリーだけに引 . . . 本文を読む
続々と新作が公開されていくフランソワ・オゾンの2020年監督作品。少年の切ない恋を描く『おもいでの夏』を想起させる作品だ。見逃していたので配信で見た。懐かしい80年代の空気と潮風(当然、海が舞台だ)の香りにどっぷりと浸かり、生涯忘れえぬ瑞々しいひと夏の初恋(男同士だけど)が繰り広げられる、という定番青春映画なのだけど、オゾンなので単純ではない。表面的には爽やかな映画、にだって見える。
夏の眩しい . . . 本文を読む
2008年の城定秀夫監督作品。5分見てこれはダメだとわかったけど、いつもの癖で我慢して最後まで見た。後半はさすがにスマホ見たり、間食にウエイトを置いたりして退屈を紛らしながらだったけど。(義務じゃないからやめたらいいのに、ね)70年代の暗い青春映画を彷彿とさせる感じの作品だ。でも、まるでつまらない。映画『神田川』(出目昌伸)とか『赤ちょうちん』(藤田敏八)とかに通じる世界だが、ね。(前者はつまらな . . . 本文を読む
これはオレンジページに連載された短編集だ。3話ずつがセットになっている。3話完結だが、その3話自体も独立した短編になっている。もちろん各話の中にはちゃんと食事の話が中心にある。いや、食卓と言うほうがいいだろう。それはひとりではなく、誰かと食べる風景だ。もちろん食卓にひとりでいる場合もあるけど。誰かと食べていること、だからおいしい。
3話ずつ短編連作のお話でそれが11話。それぞれのエピソードは別な . . . 本文を読む
90年代半ば、アメリカの辺境の町。兄から暴力を振われている13歳の少年がスケボーを通して町の不良たちと交流する。彼らはまだ幼い自分を仲間にしてくれ、いろんなことを教えてくれる。そんな彼らに心を開く。一人は同世代だけど、ほかのメンバー3人はかなり年上。映画の舞台を辺境の町と書いたが、ロサンゼルスらしい。16ミリフィルムで撮った荒々しい画像。ロスなのに画面は重くて暗い。
確かに映画自体も暗い映画だけ . . . 本文を読む
最後に収められたタイトルにもなっている短編がすごくいい。松田青子の世界が読んでいる僕を包み込む。このタイトル通りのなんだか微妙な感じが、心地よい。男の子になりたいのではなく、男の子になりたいと思う女の子が好き。『恋しくて』のメアリー・スチュアート・マスターソン。そういうことかぁ、と納得する。ここに象徴される感覚がこの短編集全体にはある。不思議な感触で日常や非日常の風景が同じように綴られていく。そこ . . . 本文を読む