「ご注文のワインはこちらでよろしかったでしょうか」
クアトロの父はうやうやしくワインのボトルをお客様に見せる。
クアトロの父は年寄りだから注文を聞き間違えることがありそうなのだが、自信をもってワインを差し出すクアトロの父を疑うのもためらわれる。
「はい、結構です」と答えるお客様。
返事を聞くと、年寄りとは思えない早業で、腰にぶら下げたソムリエ・ナイフを取り出しワインのコルクを抜きはじめるクアトロの父。
コルクを熟練の技で抜き取り、自慢気にそのコルクをテーブルに置くクアトロの父。
さあ、次はワインのテイスティングという儀式である。
大概のお客様は、このコルクを抜く作業で気後れするのか、テイスティングはクアトロの父に言われるままに、「大変に結構なお味でした」ということで終わってしまう。
このような光景は、クアトロに限ったことではないようだ。ソムリエは、ワインのコルクを抜くという作業で、お客様に催眠術をかけているのだ。注がれるワインの味わいが数段美味しく感じられるようにする催眠術である。
ところが最近はスキュリューキャップのワインが増えてきている。クアトロの父危うしである。催眠術が使えなくなるのだ。
そもそも、ワインのコルクにはこの催眠術を使う小道具としての役割以上のものは無いのかもしれない。空けるのに面倒な長いコルクをしてあろうが、スキュリューキャップだろうがそのワインの品質に影響は無いと云われている。
かえってコルクの場合は20本に1本の割合という高い確率で、コルクが劣化してワインに悪い香りを与えることがある。ブショネと呼ばれるものだが、ソムリエがコルクを抜くという催眠術のために、ブショネであってもお客様はそれを指摘出来ないものである。
さて、今日のスクリューキャップのワインは、
「ファイト一発!」
と、豪快に開けてみるかと思うクアトロの父だが、どうも催眠術のかかりが悪そうである。